テレワーク中のケガは労災となるのでしょうか

自宅でのテレワーク中のケガと労災の問題

テレワーク中のケガで労災保険は支給されるのでしょうか

Aさんの会社はテレワークを導入しています。
昨日、Aさんは、自宅の2階の部屋でのテレワーク勤務時間内に、資料作成作業中、1階のトイレへ行こうと階段を降りている時に階段を踏み外し、転落、左足の指を剥離骨折しました。
病院では全治6週間と診断されましたが、Aさんは労災保険を受給することが出来るのでしょうか。

自宅のテレワーク中のケガも労災保険給付の対象となることがあります

テレワークに関連した事故でも、業務災害は業務遂行性、業務起因性が認められれば、労災保険給付の対象となり得ます。
テレワーク業務(に付随する行為)により生じたAさんのケガに関しましても、下記のように、業務災害として労災保険給付の対象となる可能性が高いものと考えられます。

テレワークにも労働法は適用されます

テレワークも労働契約に基づく労務の提供であり、テレワーク中も使用者の指揮命令下にあることは、事務所へ出勤しての労務提供(以下事務所へ出勤しての勤務を「通常勤務」といいます。)と異なりません。
よって、テレワークにも労働基準法をはじめとする各種労働法規の適用はあります。
ただし、下記の記事で触れました交通費の支給の問題など、通常勤務との勤務形態の相違から、テレワークにおいては労務管理面で異なる扱いが生じます。
そこで、テレワークの労働問題を考えるにあたっては、勤務形態の相違についても意識する必要があります。

テレワーク中の事故も労災保険給付の対象となり得ます

Aさんのケースでは、まず、テレワーク中の事故が労災保険給付の対象となり得るものなのかが問題となります。

この点につきましては、平成20年7月28日の「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」において、

在宅勤務中に業務が原因で生じた災害は、労働者災害補償保険の保険給付の対象となります(自宅における私的行為が原因であるものは、業務上の災害とはなりません)。

改定版「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」について

とされています。

また、厚生労働省の「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」においても、

どのような形態のテレワークにおいても、テレワーカーが労働者である以上、通常の就業者と同様に労働者災害補償保険法の適用を受け、業務災害または通勤災害に関する保険給付を受けることができます。・・・業務災害と認められるためには、業務と傷病等との間に一定の因果関係があることが必要であるため、労働者が、私用(私的行為)または業務を逸脱する恣意的行為を行ったこと等による傷病等は、業務災害とは認められません。

テレワーク導入ための労務管理等Q&A集

と記述されており、テレワーク中の事故も労災保険給付の対象となり得ることが分かります。

業務災害の要件の問題

業務災害に関する労災保険法の規定

しかし、Aさんの場合、問題となり得るのは業務災害ですが、業務災害に対する保険給付に関しては、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)7条1項1号において、

第七条 この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付

労災保険法7条1項1号

と規定されており、保険給付を受けるには、「業務上の負傷」であることが必要となります。

テレワークの通勤災害はどのような扱いになるのでしょうか

Aさんのように、自宅でのテレワークでは、一般的には通勤災害は問題にならないと思われます。
しかし、サテライトオフィスを利用するテレワークの場合、自宅からサテライトオフィスへの通勤が生じ得ます。
このような場合は、通常勤務の通勤災害と同様な基準で労災認定が判断されることとなります。

業務災害の認定には業務遂行性と業務起因性が必要です

業務災害の認定に際しては、業務性として、その災害が、使用者の支配下にある状態で生じたという「業務遂行性」と、業務が原因となって生じたという「業務起因性」が認められる必要があります。
これは、テレワーク中の事故でも変わりません。

そこで、テレワーク実施企業においても、テレワーク時間外の私的活動で生じた事故による障害などは「業務遂行性」が認められず労災保険給付対象にはなりません。
また、業務との間に因果関係が認められないような障害(特に疾病において問題なりやすい)においては、業務起因性が認められず、労災保険給付対象にはなりません。

労災に関する基本事項の解説は下記の記事でもおこなっておりますので、参考にしていただければと思います。

テレワークの特殊性をどのように考えるのでしょうか

上記のように、業務遂行性と業務起因性が求められる点は、テレワークにおいても、通常勤務時の災害と異なるものではありません。

しかし、通常勤務の場合、仕事場は使用者から提供されますが、自宅でのテレワークの場合、仕事場は労働者の居住スペースとなります。
そこで、通常勤務の場合と異なり、環境整備は必ずしも使用者の責務とは言い得ません(ただし、「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」においては、事業所の衛生基準と同等の作業環境となるよう助言などをすることが好ましいとされています。)。

このようなことなどもあり、テレワークの業務災害の、業務性の認定に関しては、その特殊性を考慮する必要があります。
ただし、業務性の判断フレームワークが大きく異なるものではありません。

Aさんのケースはどのように考えられるのでしょうか

自宅作業中にトイレに行った帰りの事故の業務性

上記の「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」では、上記に引用した箇所に続き、自宅で所定労働時間にトイレに行った後、作業場所に戻り椅子に座ろうとして転倒した事案について、「業務行為に付随する行為に起因して災害が発生しており、私的行為によるものとも認められないため、業務災害と認められる」としています。
これは、事業所外での業務中、あるいは出張中の事故も労災保険の給付対象とされていることと整合的といえます。

Aさんも労災保険の給付を認められる可能性が高いです

この趣旨からしますと、Aさんの場合も特段の事由がなければ、業務災害として、労災保険給付を受けられる可能性があると考えられます。

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