労災にあったとき、法律相談前に押さえておきたいこと

労災とはどのようなものを指すのでしょうか

労災とは、労働災害の短縮語なのですが、その法的な意味は、労働衛生法2条1号において、

労働災害 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。

労働衛生法2条1号

と定義されています。

労災にあった場合、どうするのでしょうか

労災の損害填補には労災保険給付と民事上の損害賠償請求があります

労災は、上記の定義のように、従業員(労働者)が会社の業務により、生命・身体に損害を被るものであることから、会社に何らかの責任が生じることが少なくありません。
そこで、会社に労災に関する何らかの責任を認定しうる場合には、会社に対して損害賠償を求めることも可能となります。

また、労災に関しては、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)に基づき、政府が管掌する労災保険制度があります。労災にあった従業員は、労災保険の給付により損害を填補することも可能となっています。

一般的には、労災にあった人は、労災保険の給付を求めることとなります。
これは、労災保険制度が使用者(会社)の過失を支給の要件としていないのに対し、会社に対する損害賠償請求では、裁判まで発展しますと、会社の過失および過失行為と死傷結果との間の因果関係が要件となり、その立証責任は原則として損害賠償を求める従業員になることが大きな理由となっています。
これらの立証の負担などからしますと、会社に対する損害賠償請求の方が、従業員の手続的負担が重いと考えられるからです。

労災保険給付額と損害賠償請求額は調整されます

しかし、労災保険でも十分な填補がなされないか、あるいは、労災保険が不支給となった場合などは、使用者(会社など)に対し、民法上の安全配慮義務違反あるいは不法行為責任に基づく損害賠償請求をおこなうこともあります。

尚、労災保険給付と使用者に対する損害賠償額に関しては、調整がなされることになります(労働基準法84条参照)。
労災保険給付申請と民法上の損害賠償請求の双方をおこなうことにより、二重に請求できるわけではありません。たとえば、労災保険給付を受けたものの、労災保険では填補されなかった損害があった場合、その填補されなかった損害部分を民事上で請求出来るにすぎません。

労災保険と民事上の損害賠償請求の時効は別々に進行します

尚、労災保険給付の手続と会社に対する損害賠償請求は手続的にも、当事者も別となることから、消滅時効は互いに別々に進行し相互に影響を及ぼすものではないことに留意が必要です。

例えば、労災保険給付手続きを開始すると損害賠償請求の消滅時効が更新あるいは完成猶予されるといったことはありません。
労災にあわれた方は、消滅時効に十分留意する必要があります。

労災保険給付申請と不服申立てはどのようになっているのでしょうか

上記のように、一般的には、労災にあった人は、労災保険給付の申請をおこないます。

労災保険給付申請には、まず、労災保険の障害(補償)等給付などの請求を労働基準監督署長に対しておこなうことになります。
この請求がおこなわれますと、労働基準監督署長は支給または不支給の決定をおこなうこととなります。

その決定内容に不満があるときには、都道府県労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求をおこないます。
その審査官の決定に対しても不満があるときには、国の機関である労働保険審査会に対し再審査請求をおこなうか、裁判所に決定の取消しの訴えを提起することとなります。

公務員の労働災害はどうなるのでしょうか

公務員の公務上の労働災害のことは、民間の労災とは区別して「公務災害」といわれることがあります。

労災保険法3条2項では、「国の直営事業及び官公署の事業・・・については、この法律は、適用しない」としています。
国家公務員あるいは地方公務員の公務災害に関しては、労働保険での救済はおこなわれず、国家公務員災害補償法あるいは地方公務員災害補償法に基づき救済がなされることとなります。
尚、地方公務員の公務災害に関しましては、下記の記事でも扱っております。

どのような事故が労災保険の給付対象となるのでしょうか

労災保険給付の対象として、業務災害と通勤災害があります

労災保険給付の対象事故としては、

業務災害・・・業務上の負傷、疾病、障害又は死亡事故

通勤災害・・・通勤による負傷、疾病、障害又は死亡事故

があります。

業務災害には業務性が認定される必要があります

業務災害では、事故に、「業務性」が認められる必要があり、そのためには、

業務遂行性・・・事故が、会社の支配・管理下にあるときに発生したか

業務起因性・・・事故が、雇用契約に基づく仕事に潜在的に存在していた危険性が現実化したと経験則上いえるか

という2つの要素が認められることが必要であるとされています。

事業所内での作業中の事故のみならず、

  • 休憩中、始業前、終業後の事故
  • 事業所外での業務中、出張中の事故

に関しても、業務起因性が認められれば、業務災害として労災保険が給付されます。
業務災害の業務性に関しましては、下記のブログ記事でも扱っておりますので、参考にしていただければ幸いです。

通勤災害として、どのような事故まで認められるのでしょうか

通勤災害としては、住居と就業場所の間の合理的な経路での往復時の事故が対象となりますが、具体的事情によっては、範囲が拡張され認定されることがあります。
この点につきましては、下記のブログ記事で扱っておりますので、参考にしていただければ幸いです。

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