テレワークにより通勤手当を減額支給できる?-在宅勤務の問題

この記事の主な内容

テレワークの導入により在宅勤務となったとき、それを理由に企業が通勤手当を減額することは許されるのでしょうか。
通勤手当の法的な位置付けに触れた上で、通勤手当額の決定方法ごとに、減額の有効性について事例をみながら解説します。

在宅勤務での通勤手当の取扱いの問題

テレワーク導入による通勤手当削減の問題

Aさんの会社では、ようやく先月からテレワーク(リモートワーク)が導入され、週に2回出社し、残りの日は在宅でのテレワークとなりました。

先日、給与の支給日にオンラインで給与明細を確認したところ、いつもより支給総額が少なく計算されていました。よく見ると、通勤手当がいつもの半分位の金額となっていました。
念のため、給与振込口座を確認すると、やはり、給与明細に記載されていた金額しか入金されていません。
Aさんは、何かの処理ミスであろうと考え、会社に問い合わせたところ、「テレワークになったので、通勤手当は実際に出社している週2回分となっています。」との回答がありました。

Aさんは、会社に対し、これまでの通勤手当の金額との差額の支給を求めることは出来るのでしょうか。

通勤手当金額の決め方により減額支給の有効性は変わり得ます

下記のように、労働基準法上、会社には、通勤手当の支給義務はありません
ただし、労働契約書、就業規則などに通勤手当の支給が規定されている場合、支給義務が生じます。

通勤手当の規定がある場合、通勤手当支給額を、

  1. 一定金額と定めている場合、労働契約あるいは規定等の変更がなければ減額できません
  2. 実費あるいは合理的金額などと定めている場合、減額も可能となり得ます

そこで、Aさんの場合も、通勤手当について1のように決められており、契約書、規則などの変更もなされていなければ、差額を請求しうる余地があります。
一方、2のような決め方がされている場合、会社に対して差額の支給を求めることは特段の事情がなければ困難ということになります

通勤手当の法律上の位置付けをみてみます

まず、通勤手当の法律上の位置付けをみてみます。

一般的には、通勤手当が支給されることが多いと思われますが、労働基準法上は、会社には通勤手当の支給義務はありません。

しかし、入社時における会社と従業員の間の労働契約、あるいは就業規則・通勤手当支給規程等で通勤手当の支給に関し規定していることも多く、その場合、会社には通勤手当の支給義務があることとなります。

このように通勤手当についての規定がある場合、会社の通勤手当支給義務の根拠は、労働契約あるいは就業規則、通勤手当支給規程等ということになります。
そこで、会社が支払義務を負う通勤手当の金額に関しては、労働契約あるいは就業規則、通勤手当支給規程等における規定の仕方により異なることとなります。

支給金額に関しては、①月額定額の支給を定めているケースと、②会社が経済的・合理的と考える経路を基に算出した金額(公共交通機関利用の場合は定期代、自家用車通勤の場合は距離に一定金額を掛けた金額)としている会社が多いものと思われます。

テレワーク導入後の通勤手当はどのように考えるのでしょうか

これらのことをもとに、全営業日の通勤を原則として求められていた時期の通勤手当と、テレワーク導入により実際の通勤日が減少した後の通勤手当について考えてみます。

上記①のように月額定額の支給を労働契約書あるいは就業規則等で定めているような場合、実際の通勤日が減少したとしても、会社が一方的に通勤手当の支給額を減らすことは出来ないこととなります。

一方、上記②の類型として、「通勤手当は、月額○○円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。」あるいは、「通勤手当の月額は、運賃、時間、距離などを勘案して経済的かつ合理的と認められる通常の通勤経路及び方法により算出する」といった内容の規定となっているような場合、実際に通勤回数が減少したのであれば、前者でいえば「通勤に要する実費に相当する額」、後者でいえば「経済的かつ合理的と認められる通常の通勤経路及び方法により算出」した金額も減少することとなります。
したがって、この場合、会社が従業員に対し支払義務を負う通勤手当の金額も減少してくるものと考えられます。

ただし、この場合でも、通勤手当として6カ月の定期代を参考にして算出した金額を支給しているようなケースでは、会社は払戻金額を確認した上、従業員に不利益が発生しない範囲で支給通勤手当の減額幅を定める必要があると一般的には考えられています。

このような、通勤手当の減額の問題は、以前より、長期出張者長期休業者等の場合に問題とされてきました。
長期出張者あるいは長期休業者の場合も、原則としては、テレワーク導入後の状況と同様に考えることができます。

在宅勤務手当を支給する会社もあります

在宅勤務のテレワークでは、通勤の必要がなくなる一方、会社業務遂行のため、自宅のネット環境の整備など、環境整備が一定範囲で必要となり得ます。
また、自己所有の自宅のPCなどを会社業務にも使用するケースも出てきます。

このため、在宅勤務のテレワークを導入する際に、通勤手当の減額と同時に、一定金額の「在宅勤務手当」を支給して対応する会社もあります。

そこで、Aさんは差額を請求できるのでしょうか

Aさんの場合、まずは、労働契約書あるいは就業規則・給与規程・通勤手当規程等から通勤手当支給額の算出方法を確認する必要があります。

確認の結果、上記の①のような一定金額での支給と定められていたような場合、会社に対し差額の支給を求めることが可能な場合もあります。

しかし、②のように実費あるいは合理的金額と定められていたような場合、残念ながら会社に対して差額の支給を求めることは特段の事情がなければ困難ということになります。

尚、テレワークに関連して、テレワーク中の事故による労災保険支給の問題を下記の記事で扱っております。

最近の記事
人気の記事
おすすめの記事
  1. 那須雪崩事故~公立高校の部活時の登山事故と指導教員個人の責任

  2. 定年後再雇用時の賃金と定年前の賃金について

  3. 同一根拠法の処分の取消訴訟における異なる原告適格の判断と判例変更

  4. 行政処分に対する取消訴訟の原告適格が認められる範囲について

  5. 外廊下の水たまりは民法717条1項の瑕疵となるのでしょうか

  1. 法律上の期間、期限など日に関すること

  2. 職務専念義務違反とは?~義務の内容、根拠、問題となるケースなど

  3. 公序良俗違反とは?~その意味、具体例、法的効果と金銭返還請求など

  4. 帰責事由、帰責性とは?~その法的意味、問題となる民法の条文など

  5. 解雇予告の30日前の数え方と夜勤の労働時間の計算-労働基準法の日と時間

  1. スキー場の雪崩事故と国賠法の瑕疵認定~判断枠組み、予見可能性の影響等

  2. 日和田山転落(クライミング)事故にみる山岳会での登山事故の法的責任

  3. 八ヶ岳残雪期滑落事故にみるツアー登山での事故における主催者の法的責任

  4. 登山事故の分類と民事訴訟について

  5. 配置転換は拒否できるのでしょうか?

関連記事