登山事故

登山道整備不良に起因する事故の法的責任~登山道の瑕疵と管理者の責任

登山道の整備不良が原因の事故

登山道整備不良が問題となった登山事故について

ここでは、(f)登山道の整備不良に起因する事故において、施設管理者に対し責任を追及した登山事故についてみてみます。

この類型で裁判にまで発展した登山事故としては、

A 歩道の設備瑕疵が直接原因となった事故としては、
13)黒金山から西沢渓谷へ下山してきた4名のパーティーの内1名が、西沢歩道に設置されていた柵の横木に体重を掛け、下方を流れる谷川を見ようとしたところ、横木が折れ、谷川へ転落し即死した事故(西沢渓谷転落事故)

B 木道あるいは遊歩道での落木事故としては、
14)3人で尾瀬地域に入山し、尾瀬の山小屋で宿泊した翌日に尾瀬の木道を歩いていたところ、うち1人の頭部にブナの枝が落下、直撃し、その場で頭蓋底骨折により死亡した事故(尾瀬木道枝落下事故)

15)十和田八幡平国立公園内で、遊歩道付近に立っていた人の頭上からブナの枯れ枝が落下、胸椎脱臼骨折等の傷害を負った事故(奥入瀬渓流落木事故)

C 遊歩道の落石事故としては、
16) 同好会メンバー約20名で、城ヶ倉渓流歩道のロックシェルター(岩石群が溜まる場所)直下地点を歩行中、うちひとりの頭に落下してきた岩石が直撃、搬送先の病院で死亡した事故(城ヶ倉渓流落石事故)

17)清津峡歩道を通行していた人の頭に、断崖から落下してきた岩石が直撃、3時間弱後に搬送先の病院で死亡した事故(清津峡歩道落石事故)

などがあります。

それぞれの事故は、下記の記事で扱っています。

登山道の管理上の過失について

ところで、登山道に設置された鎖、梯子、ロープ、ベンチ等の整備不良に起因する事故に関しては、登山道の管理上の責任が問題となり得るとされています。

この登山道の管理上の責任に関しては、一般的には民法第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)の問題となります。
ただし、国・地方公共団体が所有・管理している登山道に関しては、民法第717条の特則的な性質も有する国家賠償法の第2条1項(及び3条)の問題となり得ます。

まず、民法第717条には、次のように規定されています。

第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

民法717条

この第1項(条文の第1項は、第2項以下が条文の冒頭に「2」「3」・・・と記載されているのと異なり、冒頭に採番されていませんが、最初の項が第1項となります。以下、法律の条文番号の「第」は省略します。)の「土地の工作物」には、登山道の鎖、梯子、ロープ、ベンチ等が含まれます。

一方、国家賠償法2条は次のように規定されています。

第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

国家賠償法2条

自然状態の登山道で自然落石などの事故が発生しても、通常は管理上の責任の問題は発生しません。
なぜなら、自然状態のままの登山道であれば民法717条1項の「土地の工作物」には該当しないからです。

尚、国家賠償法2条1項では「道路」の解釈の問題となります。
国家賠償法2条1項の「公の営造物」には、自然状態の河川、海浜などの自然公物も、公の目的に供されていれば公の営造物に含まれるとされることもあり、法定外公共物とされる里道の延長として、自然状態の登山道が自然公物に含まれるかについては諸説あります。

しかし、「土地の工作物」あるいは「公の営造物」該当性の問題とは別に、地形、地盤の構成等により自然状態の登山道が元々落石が多発している場所なのであれば、現状の落石が生じる地形、地盤には、そもそも民法717条1項および国家賠償法2条1項のいう「瑕疵」(欠陥)があるとはいい得ないとも考えられます。

このようなことから、自然状態の登山道での事故においては、国家賠償法2条1項の責任が問題となるケースは少ないものと考えられます。

一方、山道でも、一般車両が通行する道路として公の目的に供されていれば、法面に落石防止の何らかの工事をおこない、落石の発生を防止する対策を施さないと、具体的状況によっては、道路の瑕疵が認定されるケースが生じ得るものと考えられます。

このように、山道に国家賠償法2条1項の責任が生じ得るのかは、道路の形状・性質・使途・利用状況等により異なると考えられます。

この違いを意識しながら登山道について考えてみますと、登山道でもいわゆるバリエーションルートと北アルプス・南アルプスの市販の登山地図に実線で描かれているルート、高尾山の登山道、栂池自然園の観光道では、何が瑕疵になるか(国家賠償法2条1項の「公の営造物」該当性も)は異なってくるといえそうです。

尚、「瑕疵」という用語は、法律上様々な局面で使用されますが、登山道の瑕疵を考える際には、他人に危険を及ぼすような欠陥があるかが、主に問題となります。

国家賠償法2条1項と1条1項の関係について

管理者が国、地方公共団体である登山道の瑕疵を原因とする国家賠償法に基づく損害賠償請求においては、

  • 国家賠償法2条1項および民法717条により登山道の瑕疵責任に基づく損害賠償請求と
  • 登山道の管理責任者である公務員の過失を理由として、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求

を併合して請求することがあります。

上記で紹介しています14)尾瀬木道枝落下事故においても、地方公共団体に関しては、木道について国家賠償法2条1項および民法717条2項の瑕疵、職員について国家賠償法上1条1項の過失の認定をおこなっています。
一方、国については、ブナの木について民法717条2項の瑕疵、職員について国家賠償法1条1項の過失の認定をおこなっています。

この判断を下すに際し、裁判所は、地方公共団体の責任については、木道の国家賠償法2条1項の瑕疵に関しては詳細に検討をおこなっていますが、民法717条2項の瑕疵および職員の国家賠償法1条1項上の過失の検討に際しては、結局のところ、国家賠償法2条1項の瑕疵が認定できないことから民法717条2項の瑕疵も認められず、職員の国家賠償法1条1項上の過失も認められないと認定しているにすぎません。
このことからしますと、裁判所は判断の前提として、各々の瑕疵および過失の検討、判断は実質的には重なっている(同じ)ととらえているものと考えられます。
国の責任に関しても同様に、民法717条の瑕疵については詳細に検討していますが、職員の国家賠償法1条1項の過失については、結局のところ民法717条の瑕疵が認定できないから認められないとしているにすぎません。

この裁判所の認定からも、国家賠償法2条1項、民法717条の瑕疵と国家賠償法1条1項の過失の判断は、実質的には重なっているとも考えられます。

しかし、国家賠償法2条1項あるいは民法717条の責任は無過失責任とされており、民法717条では(占有者の責任を除き)、過失がなくとも損害賠償責任は認められることとなりますが、国家賠償法1条1項の成立には過失が要求されます。

このことから、登山道の瑕疵による国家賠償法2条1項あるいは民法717条の責任と、国家賠償法1条1項の責任とは一致するとはいえません。

しかし、多くの場合、国家賠償法2条1項の責任と国家賠償法1条1項の責任は、14)尾瀬木道枝落下事故の場合のように重なるものと思われます。

このことは、

登山道あるいはその周辺環境に危険が内在しており、登山者が通過した時にその内在していた危険が現実化し、その結果事故が生じたようなケースにおいて、

  • 登山道またはその周辺環境の客観的な危険性に着目し、管理者あるいは所有者に責任を求めるのが民法717条あるいは国家賠償法2条1項
  • 登山道あるいはその周辺環境を、危険な状態のまま放置していたという管理者あるいは所有者の(不作為)行為という主観面に着目し、責任を求めるのが国家賠償法1条1項

であると考えると分かりやすいと思われます。
同一の事象に対する視点が異なるとも言い得ます。

国家賠償法1条と2項請求の選択について

ところで、登山道の瑕疵が問題となるような場合の多くは、管理者あるいは所有者が、本来おこなうべきであった登山道あるはその周辺環境の安全維持行為をおこなわなかったという不作為行為(義務のある行為をしないこと)が問題となります。

しかし、不作為行為を国家賠償法1条1項の違法行為として主張・立証するのは、行政裁量等からハードルが高くなることもあり、道路の瑕疵に関しては、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求を選択するのが一般的です。

尚、上記の14)尾瀬木道枝落下事故の裁判において、国家賠償法2条1項と1条1項の認定が重なっていたのは、国家賠償法1条1項の違法性を否定する事案であったことも理由のひとつであると考えられます。
違法性を認定する場合には、必ずしも重なるとはいいえません。

ただし、登山道の瑕疵が問題となる事案で、その瑕疵が不適切な工事をおこなったことにより生じたといった、管理者あるいは所有者の作為行為が違法行為として問題になるような場合は、国家賠償法2条1項と1条1項の主張・立証の困難さは、不作為行為の場合のように異なるものではないと考えられます。

上記で紹介しました14)尾瀬木道枝落下事故~17)清津峡歩道落石事故の4つの事故は、登山道整備不良に起因する事故といい得ますが、これらの事故は、管理者または所有者が枝払い、落石防止工事等をおこなわず、登山道あるいはその周辺環境を、瑕疵がある状態のままにしていたという不作為行為が事故の原因であるとも考えることができます。

そのため、国家賠償法1条1項の請求をおこなおうとすると、国・地方公共団体の不作為行為の違法性を主張・立証することが必要となり、主張、立証のハードルが上がることから、裁判では国家賠償法2条1項と民法717条の瑕疵が主に問題とされたものと思われます。

尚、国家賠償法2条1項の責任が認められる場合に、被害者の落ち度を想定した過失相殺がなされ得るかという問題に関しては、一般的には過失相殺をなし得ると考えられています。

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救助ヘリコプターで遭難者が救助隊に吊り上げられている遭難者救助時の写真


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