登山事故

登山事故の裁判において認容された損害賠償の範囲、特徴について

この記事で扱っている問題

登山事故において、事故にあった登山者以外の人(他者)の過失が、当該登山事故の原因(一部の原因)であった場合、その他者は、損害賠償義務を負うことがあります。

ここでは、登山死傷事故で、他者の過失責任が認定された裁判例において認められた損害賠償の範囲、賠償額算出上の特徴など、登山事故の損害賠償について解説します。

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登山事故の損害賠償請求

訴訟外での請求

登山時の死傷事故の原因の全部あるいは一部が、死傷した被害者である登山者以外の人(以下「他者」といいます。)の過失にあるとされ、他者が法的な責任を負う場合、原則として、他者は損害賠償義務を負うこととなります(以下、登山事故に対して損害賠償義務を負っている者を「賠償義務者」といいます。)。
その場合、登山事故が傷害事故であれば主に遭難者本人が、死亡事故であれば主に遭難者の相続人が、賠償義務者に対し、損害賠償を請求することとなります(以下「賠償請求者」といいます。)。

通常は、まず、賠償請求者(あるいはその代理人弁護士)から、賠償義務者に対し、任意に損害賠償金を支払うよう求めることとなります(訴訟外請求)。
この時点で、話し合いがまとまれば、賠償義務者から賠償請求者に対し、合意に至った金額が支払われることとなります。

裁判上の請求について

一方、この段階で話し合いがまとまらない場合、賠償請求者が賠償義務者に対し損害賠償請求訴訟を提起することがあります。
しかし、訴訟を提起しても判決前に和解が成立、あるいは1審判決が下されても控訴され、控訴審で和解に至るケースもあります。

このように当事者間での話合いにより解決、あるいは1審判決前に和解により損害賠償問題が解決した事故に関しては、その賠償額は一般的には公表されません。

そこで、ここでは、判決が下された登山事故の中で、損害賠償請求が認められた事件のうち、判決文が一般的に公表されている事故の損害額および損害賠償額に関し若干の分析を加えてみることとします。

ここでは、控訴された事件については、原則として控訴審における認容額をみていくこととします。
また、控訴されたものの、控訴審判決が下されなかった事件については1審の認容額をみることとします。

裁判の口頭弁論終結時点において、一部損害が保険金支払、公務災害補償等で填補されている場合、判決は、賠償義務者に対し、認定した損害額から当該金額を控除した金額の支払いを命ずるものとなることから、認定された損害額の(過失相殺後の)合計金額と判決主文において認容される賠償金額は異なる場合があります。

また、ここでは登山事故を山岳地帯で生じた人身事故のうち、遭難者が登山目的で入山していたものを指すこととしますが、「登山」という用語の外縁も不明確であることから、他の文献等の登山事故に関するデータと必ずしも一致するものではありません。

損害賠償請求が認められた裁判例

概要

これまで、裁判上で損害賠償請求が認められた登山事故は、事故件数では11件(9件)、遭難者数では18人(16人)となっています(カッコ内は死亡事故)。
複数遭難者の相続人が原告となった死亡事故の裁判が2件あるため、死亡事故の事故数と遭難者数は一致しておりません。
尚、同一事故における複数の遭難者の相続人が2組に分かれて訴訟を提起した事件が1件あるため、裁判件数としては、12件の裁判において損害賠償請求が認められています。

損害の項目と認容額

判決で認められた損害項目の内訳は、①治療関連費、②逸失利益、③慰謝料、④葬儀、埋葬関連費用、⑤弁護士費用となっており、過失相殺がなされた事故は6件(内1件は複数遭難者のうち、1名のみ)あります。

尚、下記のページに登山事故の裁判における損害認容額の概略をまとめた表を掲載しております。

損害項目ごとにみてみますと、

①治療関連費用は傷害事故2件のうち1件で認められています。

②逸失利益は、交通事故をはじめとする一般的な人身事故の損害賠償請求事件と同様な算出方法が採用されており、登山事故の特殊性はあまり認められません。

③慰謝料に関しましては、死亡事故の場合は、遭難者本人の固有の慰謝料のほか、相続人など遭難者の近親者独自の慰謝料も認容されるケースが多く、平成以降に発生した事故に関しては、遭難者固有のものと近親者に対する慰謝料を合計して2000万円~3000万円となっています。同一事故で複数の遭難者が発生した裁判において、原告となった相続人(親)の人数および遭難者の属性により、相続人への認容された慰謝料合計金額が遭難者ごとに異なっているケースもあります。

④葬儀・埋葬関連費用は、死亡事故の多くにおいて請求額の一部が認められています。

⑤弁護士費用は、現実に原告が代理人弁護士に支払った報酬(その一部)が損害として認定されています。

過失相殺について

過失相殺は、12件の裁判のうち、6件の裁判において、20~70%の割合で認定されています。

過失相殺による損害賠償額の算定に際しては、

近時の裁判では、上記⑤弁護士費用を除く①~④の損害認定額の合計金額から、その合計金額の過失相殺割合分を控除した金額に⑤弁護士費用の損害を加算して計算しています((①~④の合計金額)×過失相殺割合+弁護士費用)。

しかし、古い裁判例では、逸失利益のみ過失相殺割合分を控除したもの、弁護士費用まで含めた全ての損害項目について過失相殺割合分の控除をおこなっている判決もあります。

ただし、逸失利益は算出方法が一定程度定型化されているのに対し、それ以外の慰謝料、弁護士費用などの損害に関しては、その損害額の認定において裁判所の幅広い裁量が働くことから、逸失利益の計算方法のこのような相違が、最終的な損害賠償請求金額の認定額に及ぼす影響は少ないとも考えられます。

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