相続

遺留分の放棄

相続の悩み

法定相続人が子の2人のみの人(配偶者がすでに亡くなっており、子どもが2人いるような人)が一方の子に全ての財産を相続させる旨の遺言書を作成した場合、遺言自体は有効でも、財産を相続させないこととした子が遺留分侵害額の請求をおこなうことにより、遺言を作成した被相続人の意思とおりに全ての財産を、事実上、一方の子に承継させることが出来なくなる場合もあり得ます。

しかし、事業主で、めぼしい財産が事業用の店舗・工場等しかない場合、自分の死後の円滑な事業継続のために、財産を後継者となる一方の子に相続させることも事情によっては合理的な考えと言い得ます。

遺留分の放棄について

そこで、このような場合に取り得る有効な手段として、一方の子に全ての財産を相続させる内容の遺言を作成し、もう一方の財産を残さない子に自分の生前に遺留分を放棄(民法1049条)してもらう方法が考えられます。

この「遺留分の放棄」と似たような名前の「相続の放棄」(民法938条~940条)という制度がありますが、この2つは異なります。

相続の放棄は具体的に発生した相続について相続人が放棄することにより、当初より遺産を承継しなかったことにするもので、相続の開始前には出来ません。
したがって、遺言を作成する被相続人の存命中には相続放棄の手続きを取ることが出来ません。

一方、遺留分の放棄とは法定相続人である子が(被相続人である親ではない。)遺留分を放棄する旨の意思表示をおこなうものであり、相続開始前におこなうことが出来ます。

遺留分の放棄の手続き

しかし、相続開始前に遺留分の放棄をするには、家庭裁判所の許可が必要となります。
被相続人である親の生前に、子が家庭裁判所に対し、遺留分の放棄について許可の申立てをし、家庭裁判所から許可の審判がなされると遺留分の放棄の効力を生じることとなります。

財産を残さない子に対し、自分の考えを説明し、納得してもらい、遺留分の放棄の手続きをしてもらうことにより、遺留分の問題をクリアにして全ての財産を特定の子に承継させ、円滑な事業の継続を可能とし得ることとなります。

ただし、家庭裁判所は遺留分の放棄の許否判断に際しては、
①遺留分権利者の自由意思に基づくものであること
②放棄理由の合理性・必要性
③放棄に対する代償の有無
等を考慮することから、無制限におこなえるものではありません。

遺留分の放棄の効力が生じない場合について

また、仮に遺留分の放棄の審判がなされても、遺留分放棄の前提となった事情が変更した場合には、遺留分の放棄の許可取消し審判がなされることもありえます。

遺留分の放棄の取消しに関しては、東京地裁令和元年11月12日においても、

被告らは、遺留分放棄が裁判所の許可を要する要式行為であることを理由に、遺留分放棄の効力は、裁判所の許可の取消しによらなければ否定できないと主張する。しかし、遺留分の放棄は、被相続人に対する意思表示であって、私法上の法律行為であるから、裁判所の許可を要する行為であるからといって、直ちに要素の錯誤の主張が許されないとはいえず、要件を満たす場合には、相続放棄と同様に、要素の錯誤の主張が許されると解される。

東京地判令和元年11月12日

と、遺留分の放棄の意思表示の錯誤を主張し得る余地があると判示されているように、許可の取消し以外でも遺留分の放棄を取り消し得る余地はあり得ます。(尚、当該裁判において、原告の錯誤無効の主張は退けられています。)

このように、遺留分の放棄の許可審判を得られていても、後日、その審判の効力が失われることがあり得ることには留意が必要です。

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