退職金と退職時の未払い給与はいつまでに支払われるのでしょうか?

この記事で扱っている問題

退職金と退職時に未払いとなっている賃金は、法的には、いつまでに支払われるものなのでしょうか。

ここでは、退職金の法的性質と労働基準法23条の条文に触れた上で、退職金と退職時の賃金の支払時期について解説します。

退職金支払日と退職時の賃金支給日について

退職金の支払日と最後の給与支給日の問題

Aさんは、来月末で退職することとなっています。
先日、家族が病気で入院し、急遽、お金が必要となりました。
退職金は、社内規程では退職日の翌月末日に支払われることとなっているのですが、退職日まで1カ月以上あることから、何とか退職日前に支払ってもらうことはできないだろうかと思い悩んでいます。

Bさんも来月末に退職する予定ですが、給与は月末締め翌25日払いと社内規程で決められています。
退職時も支給日がこれまで通りであるとすると、来月分の最後の給与は、再来月の25日の支給となるように思われます。
しかし、お金が必要なこともあり、来月分の給与を退職する来月末日までに支給するよう会社に頼んでみようと考えています。

退職金と退職時賃金の支払いについて

しかし、下記のようなことから、Aさんの場合、退職金を退職前に支払うよう請求する権利はないものとされています。
一方、Bさんの場合、退職日当日は無理ですが、退職日から7日以内に最後の給与を支給するよう会社に請求することは可能です。

退職金の退職前支給請求の可否

退職金と労働基準法25条の「賃金」

下記の記事でもみましたが、労働基準法25条および労働基準法施行規則9条1号により、「労働者の収入によつて生計を維持する者が出産し、疾病にかかり、又は災害をうけた場合」は、「既往の労働に対する賃金」の前払いを会社に対し請求できます。

Aさんの場合、家族が病気で入院していることから、Aさんの収入で家計が賄われているのであれば、具体的事情によっては、これまで働いた分の賃金の前払請求は可能となり得ます。

しかし、今回のAさんの場合、月の給与ではなく、退職金の前払いが問題となっています。
そこで、退職金が労働基準法25条の「既往の労働に対する賃金」に該当するのかが問題となります。

退職金の法的性質と支払時期について

ところで、退職金は、勤務年数に基礎賃金と支給率を掛けて算出されることが多いこともあり、賃金の後払い的性質も有していると考えられています。
このような、賃金の後払い的性質からしますと、退職金も労働基準法25条の賃金に該当するようにも思われます。

しかし、退職金に関しましては、一定の勤務評価を考慮することがあるなど功労報償的性質も有しており、通常の賃金とは異なるものと考えられます。

昭和26年12月27日基収5483号、昭和63年3月14日基発150号、婦発47号でも、

退職手当は、通常の賃金の場合と異なり、予め就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものである。

昭和26年12月27日基収5483号、昭和63年3月14日基発150号、婦発47号

とされているように、実務でも、退職金は毎月の給料と異なり、退職という具体的な要件を充たした時に支払われるという性質を有していることもあり、退職日前に支払いを求めることは出来ないと考えられています。

退職時に未払いとなっている賃金の支給日

一方、退職時に未払いとなっている賃金の支給に関しては、労働基準法23条で、

第二十三条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
② 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

労働基準法23条

と規定されています。

この労働基準法23条1項から、退職者が、会社に対し請求すれば、会社は、7日以内の未払い賃金等の支払いを義務付けられることとなります。

退職金と退職時未払分賃金の支払請求について

以上のことから、法的には、退職者は、社内規程に定められた支給日より前に退職金を支給するよう会社に請求することはできません。

一方、退職日に未払いとなる賃金に関しては、退職日前に支給するよう請求する権利はありません。
しかし、労働基準法23条1項により、退職から7日以内に支払うよう請求することは可能です。

最近の記事
人気の記事
おすすめの記事
  1. 那須雪崩事故~公立高校の部活時の登山事故と指導教員個人の責任

  2. 定年後再雇用時の賃金と定年前の賃金について

  3. 同一根拠法の処分の取消訴訟における異なる原告適格の判断と判例変更

  4. 行政処分に対する取消訴訟の原告適格が認められる範囲について

  5. 外廊下の水たまりは民法717条1項の瑕疵となるのでしょうか

  1. 法律上の期間、期限など日に関すること

  2. 職務専念義務違反とは?~義務の内容、根拠、問題となるケースなど

  3. 公序良俗違反とは?~その意味、具体例、法的効果と金銭返還請求など

  4. 権利の濫用とは?~その意味、適用範囲、適用事例など

  5. 帰責事由、帰責性とは?~その法的意味、問題となる民法の条文など

  1. 山の頂、稜線が県・市町村の境界と一致しない例と理由、帰属の判断基準

  2. スキー場立入禁止区域で発生した雪崩事故の経営・管理会社、同行者の責任

  3. 日和田山転落(クライミング)事故にみる山岳会での登山事故の法的責任

  4. 八ヶ岳残雪期滑落事故にみるツアー登山での事故における主催者の法的責任

  5. 配置転換は拒否できるのでしょうか?

関連記事