変更解約告知と労働契約解除-労働条件変更に応じないとき解雇可能?

この記事で扱っている問題

まず、「変更解約告知」の意味を説明します。
その説明後に、変更解約告知として労働条件の変更を提示されたものの、これに応じなかった労働者が解雇された場合、どのような要件をみたしていると解雇が有効と判断されるのかを、裁判例をみながら解説していきます。

変更解約告知とはどのようなものでしょうか

Aさんに対する会社からの労働契約条件の変更申入れについて

Aさんは、有期雇用社員としてX社で勤務していましたが、先日、会社から、次年度の契約として勤務時間と賃金を変更した条件を提示され、もし合意できないのであれば、次年度の契約は出来ないと言われました。

変更解約告知について

この、AさんがX社から告げられた次年度の労働契約に関する一連のことを、「変更解約告知」ということがあります。

変更解約告知とは、労働条件変更のためにおこなわれる労働契約の解約(解雇)のことを意味します
Aさんの場合のように、労働契約の解約と労働条件変更後の労働契約内容提示(あるいは契約締結)が同時におこなわれるケース、労働契約の解約(解雇)を先行させ、その後に変更後の労働条件などの契約内容が提示されるケース等のバリエーションがあります。

変更解約告知に関する裁判例

変更解約告知の定義を示した裁判例

この変更解約告知が問題となった裁判(東京高判平成22年12月22日)において、裁判所は、

控訴人らは、本件制度は、子会社に新たに切り下げられた労働条件で再雇用されるものであるから、変更解約告知に類似する旨主張する。しかし、変更解約告知とは、使用者が労働条件変更を目的として、現在の労働契約の解約(解雇)と、新契約の申込みを行うことを意味すると解されるところ、本件制度は従業員に雇用形態を選択させるもので解雇するものではないから、変更解約告知とはいえず、退職・再雇用型を選択した場合には被控訴人を退職するから、その点において変更解約告知に類似するものの、被控訴人の経営合理化の必要性及び労使の利害を調整した上で本件制度の導入がされたという経過並びに本件制度は65歳までの雇用の安定を確保するための措置で、必ずしも従前と同一の労働条件を確保することまで要求するものではないことを勘案すると、本件制度には合理性があるといえるから、控訴人らの主張を採用することはできない。

東京高判平成22年12月22日

と判示し、変更解約告知の定義を「使用者が労働条件変更を目的として、現在の労働契約の解約(解雇)と、新契約の申込みを行うこと」としています

変更解約告知の解雇有効性判断枠組みを示した2つの裁判例

また、新たな労働条件が提示され、その条件に同意できなければ解雇する旨を告げられた職員が、提示された条件を拒否したところ解雇された事件の裁判(大阪地判令和元年6月6日)において、変更解約告知による解雇の有効性が問題となりました。
裁判所は、この事件の解雇の有効性の判断枠組みについて、

被告らは,原告・・・に対する解雇が,労働契約内容の変更の申し出を伴ったものであり,いわゆる変更解約告知であると主張するところ,被告らの主張によれば,原告・・・に対して労働契約内容の変更を申し出た理由は,人件費を削減する点にあり,この場合,いわゆる変更解約告知は,実質的には整理解雇としての機能をもつものというべきであるから,原告・・・に対する解雇の有効性についても,上記整理解雇の4要素を検討する枠組みによって判断することとする

大阪地判令和元年6月6日

と判示して、ここでの変更解約告知は実質的には整理解雇の機能を持つとして、整理解雇の4要素を検討して解雇の有効性の判断をおこなっています。

また、変更解約告知をおこなったものの、実際には、解約告知の時点で予定されていた従業員の解雇の有効性が問題となった裁判(東京高判平成19年5月17日)では、

ところで,労働契約を解約(解雇)するとともに新たな労働条件での雇用契約の締結(再雇用)を募集すること(いわゆる変更解約告知)が,適法な使用者の措置として許される場合はあろうが,本件のように,それが労働条件の変更のみならず人員の削減を目的として行われ,一定の人員については再雇用しないことが予定されている場合には,整理解雇と同様の機能を有することとなるから,整理解雇の場合と同様に,その変更解約告知において再雇用されないことが予定された人員に見合った人員整理の必要性が存在することが必要となると考えられる。すなわち,人員の削減を目的として本件のような変更解約告知が行われた場合に,変更解約告知に応じない者が多数生じたからといって,人員整理の必要性により本来許容されるべき限度を超えて解雇が行われることは許されないというべきである。

東京高判平成19年5月17日

と判示し、人員整理の必要性と解雇手続の相当性を検討した上で、解雇を無効と判断しています。この判決でも、解雇の実質が整理解雇であるとしています。

上記の3つの裁判例のうち、後者2つからもわかりますように、変更解約告知は、事業の再構築・再編成の一環としての整理解雇の一手段としておこなわれることも少なくないようです。
その場合、これらの裁判例からしますと、整理解雇の4要素(あるいは整理解雇の4要件、整理解雇の4要素(要件)に関しては下記の記事を参考にしていただければと思います。)を検討して変更解約告知の解雇の有効性判断をおこなうこととなりそうです。

留保付き承諾の可否と雇止めの有効性基準に触れた裁判例

変更解雇予告については、従業員が留保付き承諾をなしうるかが問題になり得ます。
従業員からしますと、提示された労働条件の一部は同意できないものの、勤め先を確保するために新たな労働契約を一定の時期までに締結したいと考えることがあり得るからです。

このような、留保付き承諾が問題となった裁判としては、ホテルにおける日々雇用契約の配膳人の解雇が問題となった事件(東京高判平成14年11月26日)があります。
この裁判では、

常用的日々雇用労働者に該当する一審原告らと一審被告の間の雇用関係においては、雇用関係のある程度の継続が期待されていたものであり、一審原告らにおけるこの期待は法的保護に値し、このような一審原告らの雇止めについては、解雇に関する法理が類推され、社会通念上相当と認められる合理的な理由がなければ雇止めは許されないと解するのが相当・・・・

前記のとおり、一審原告らと一審被告は日々個別の雇用契約を締結している関係にあったのであるから、本件労働条件変更に合理的理由の認められる限り、変更後の条件による一審被告の雇用契約更新の申込みは有効である。そして、これに対する一審原告らの本件異議留保付き承諾の回答は、一審被告の変更後の条件による雇用契約更新の申込みに基づく一審被告と一審原告らの間の合意は成立していないとして後日争うことを明確に示すものであり、一審被告の申込みを拒絶したものといわざるを得ない・・・・

そのような意思表示をしている一審原告らの雇用継続の期待権を保護するため一審被告に対し一審原告らとの日々雇用契約の締結を義務付けるのは、今後も継続的に会社経営の合理化や経費削減を図ってゆかなければならない一審被告にとって酷であること等との事情によれば、本件雇止めには社会通念上相当と認められる合理的な理由が認められるというべきである。したがって、本件雇止めは有効・・・

東京高判平成14年11月26日

と判示しています。

この事件では、直接は雇止めが問題となっていますが、現在の労働契約法16条に引き継がれた解雇権濫用法理により有効性の判断をおこなっていることから、解雇においても参考になると考えられます。

この裁判例からは、変更解約告知が人員削減目的の整理解雇とは関係なくおこなわれたケースにおいては、変更解約告知による雇止めあるいは解雇の有効性は、解雇権濫用法理(現在では労働契約法16条)により判断されるものと考えられます。

尚、この裁判例では、留保付き承諾は、変更解約告知に対する拒絶の回答になると判示されています。

変更解約告知による解雇の有効性の判断について

ここで引用しました裁判例からしますと、変更解約告知として会社から労働条件変更が申し入れられたのに対し、従業員がこれを拒否し、解雇あるいは雇止めされたケースを

  1. 単純に労働条件変更を目的として変更解約告知がおこなわれた場合
  2. 整理解雇目的で変更解約告知がおこなわれた場合

に分類できそうです。

そして、上記の1のケースでは、変更解約告知による解雇(労働契約解除)、雇止めの有効性は、労働契約法16条(解雇権濫用法理)により判断されることとなりそうです。
一方、2のケースでは、整理解雇の場合と同様に、整理解雇の4要素(要件)により解雇の有効性が判断されることとなりそうです。

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