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山岳スキーツアー事故時の損害賠償の範囲

山岳スキーツアー事故

今回は、山岳スキーツアーで事故が発生し、参加者が障害を負った時に主催者が損害賠償義務を負う範囲についてみてみます。

ここでみる事故は、山岳スキールートで主催された商業スキーツアーにおいて、雪崩に巻き込まれ、参加者及び主催者関係者ら計24名の内2名が死亡し、7名が負傷した事故です。
この事故により、下腿の神経障害,左橈骨の変形障害,左下肢の短縮障害等の後遺障害を負ったツアー参加者の一人が、ツアー主催者に対し、スキーツアー契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴しました。

裁判所の損害賠償金額の認定

この事故の裁判では、過失(安全配慮義務違反)に関しては争いはなく、損害の発生及び額が争点となりました。
裁判所は、治療費、交通費、入院雑費、医師らへの謝礼、建物改造費等を事故と相当因果関係のある損害と認めましたが、原告が事故当時65歳を超えており、就労をしておらず、就労する予定もなかったことから、休業損害及び逸失利益については認めておりません。

この裁判では、原告の慰謝料も問題となっています。
入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料に関しましては、ツアー主催者が保険料を負担していた傷害保険の給付があったことから、その分が減額されたものの、一般的な金額が認定されています。
このあたりまでの損害賠償の金額の認定に関しましては、一般的な交通事故などの損害賠償請求事件とさほど変わりはないようです。

死の恐怖に関する慰謝料

この事故の特殊性は、山岳事故の損害賠償請求事件という点なのですが、この特殊性がこの事故の裁判で最も明白にあらわれたのは、「死の恐怖に関する慰謝料」の認定だと思います。
公表されている事故調査報告書によりますと、事故は、山岳スキールートの標高約900mの地点において午前11時頃に発生した雪崩にツアー参加者が巻き込まれたもので、現場付近は気温-4.7°、風速33mの猛吹雪、視界20メートル以下、事故現場周辺の山頂付近の積雪は340cmという状況であったとされ、原告である遭難者が救急搬送されたのは16時20分頃のようです。
この原告は、裁判において、

原告は,約4時間30分という長時間,本件事故の現場に放置され,死の恐怖にさらされた

ことを慰謝料請求の理由としていますが(尚、ほかにも慰謝料の理由を挙げていますがここでは省略します。)、被告は、

死亡の恐怖等に関する慰謝料は否認する

としています。
これに対し、裁判所は、

本件事故は・・・標高1000m程度の地点にて発生したものであり,同事故においては,原告を含めた合計24名が非常に速い速度で流れてきた雪崩に押し流しされ,2名が死亡し,1名が行方不明(ただし,後述するとおり,事故後の捜索により発見された。)となり,複数の者が重症を負ったこと,原告は,雪崩遭遇後,現場にいたガイドらにより掘り出され,左下腿骨骨折,左橈骨骨幹部骨折,第12胸椎圧迫骨折等の傷害を負った状態で,自ら動くこともできないまま雪面上に腰を下ろした状態で約4時間30分の間,本件事故の現場において救助を待たざるを得なかったことが認められる。このように,本件事故は雪深い冬の山岳という過酷な環境において発生した重大な事故であり,原告は重い傷害を負ったまま,寒さや更なる雪崩の発生等による生命の危険が生じていたと推認され,原告は雪崩に巻き込まれた恐怖のみならず救助されるまでの約4時間30分に渡り,死の恐怖に直面し続け,大きな精神的苦痛を受けていたものと認められる。このような精神的苦痛に対する慰謝料は50万円とするのが相当

と認定しています。
上記の気象状況下で標高900m程度の場所で発生したスキーツアーの事故の死の恐怖に対する慰謝料金額として50万円が少ないのか多いのかは一概に判断することは出来ませんが(精神的な慰謝料の金額は、全体の損害賠償認定額の調整弁として用いられることもありますので、この慰謝料項目の金額を単体で評価し得るかは具体的事情によるように思われます。)、このような状況下での山岳事故においては、死亡の恐怖等に関する慰謝料が認定され得るということが分かります。

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