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登山事故と刑事事件・民事事件

登山事故(ここでは、山岳事故と区別して、山菜採り、一般観光での入山等登山目的以外での入山時の発生事故を除く登山目的での入山時の事故を「登山事故」と呼びます。)に関連して、警察庁が年次の山岳遭難概況をWeb上で公開しています(以下警察庁発表の概況を「公開概況」といいます。)。現時点では、令和元年の遭難件数と遭難者数まで公表されていますが、令和元年は前年に比べ遭難件数・遭難者数共に若干減少したようです。しかし、長期的なトレンドは未だ増加傾向にあるようにも見られます。

ただし、この山岳遭難件数及び遭難者数は山菜取り、観光目的で入山した方の遭難も含んでおり、令和元年の山岳遭難者数2937人の内、登山者の遭難者数は2223人となっています。そして、平成27年から令和元年の登山者の遭難者数は、2283→2101→2223→2315→2223(人)と推移しており、横ばい傾向にあるようにも思われますが、令和元年から減少傾向になったと捉えている団体もあるようです。尚、令和2年からは新型コロナの影響が出てくることから、長期的な傾向が明確になるのは、新型コロナの終息後になろうかと思われます。

この公開概況では、遭難の原因、遭難者の携帯電話の携行状況などの数値も公開されていますが、山岳遭難全体を母集団とする統計が多く、登山者の遭難者属性の詳細な分析をおこなうことは出来ません。しかし、遭難原因としては、道迷い遭難が最も多いようです(山岳遭難者全体では道迷い遭難がここ5年、4割程度を占めています。)。しかし、近年、スマートフォンのナビゲーション機能のある地図アプリが急速に普及しており、この普及に伴い、道迷い遭難は減少に転ずるのではないかとも考えられています。

尚、山岳三団体が山岳遭難事故調査報告をまとめてWeb上で有益な詳細分析結果を公開しています。

このような登山事故は、全てが法的に問題となり得るのではなく、法的な問題が生ずるのは登山事故の中でも一部の形態のものであり、そのうち、限られた形態の事故が訴訟にまで発展しています。しかし、法的な問題となり得る形態も固定的なものではありません。例えば、単独行の登山者が自らの帰責で傷害を負った場合、特段の事情がなければ法律問題とはなり得ないものが、山岳保険の普及により保険金給付の問題が生じ得るようになってきています。このように、時代の趨勢、環境の変化により法的な問題となり得る登山事故の形態も変化してきています。

登山事故が法的な問題になる場合、多くは、刑事責任と民事責任(国家賠償責任を含む)の双方、あるいは民事責任のみが問題となります。登山事故も交通事故あるいは施設の管理不備による事故と同様に、第三者の過失により何らかの損害が生じた場合、損害賠償責任等の民事上の責任と共に業務上過失致死傷等の刑事上の責任が問題となり得ます。

登山事故の具体的状況から刑事上の責任と民事上の責任の双方が問題となる場合、一般的には、刑事裁判が先行し、刑事裁判の後で民事訴訟が提起されることとなります。これは、登山事故においても訴訟上、被害者側に違法性・過失などの主張・立証責任があるのですが、具体的な過失行為を特定し、その証拠を取集することが困難な場合も少なくありません。しかし、刑事裁判において、検察は被告人の具体的な過失行為を特定し、その証拠を提出することから、被害者あるいはその家族は、刑事事件で検察が主張した過失行為の具体的内容を民事事件の参考にすることが出来ますし、場合によっては刑事事件の証拠の一部を民事訴訟において利用することができるからです。刑事事件では民事事件より厳格な立証が要求されること及び捜査機関の強制力のある捜査等により証拠が収集されていることもあり、刑事事件の結果が出てからの方が、民事事件での主張・立証負担を軽減し得るからです。

ただし、登山事故の刑事事件も起訴あるいは訴訟進行に時間を要するケースもあり、時効の問題から、刑事裁判の判決が下る前に民事訴訟を提起する必要が生ずることもあります。

例えば、平成18年10月7日に清水岳から白馬山荘の稜線上で遭難したツアー客の内4名が凍死した事件(いわゆる「2006年白馬岳遭難死事件」)が長野地方裁判所松本支部に起訴されたのは平成26年のようであり、控訴審の東京高裁の判決が下ったのは平成27年10月30日(上告はされず、控訴審で確定しました。)であり、事件発生から刑事裁判の確定まで9年以上かかっています。この事件の民事訴訟は、刑事事件での起訴前の平成22年に提訴されたようで、平成24年7月20日に第1審の判決が下っています(その後控訴されましたが、控訴審で和解したようです。)。

平成21年7月にトムラウシ山で登山ツアー客7名及びガイド1名が亡くなったいわゆるトムラウシ山遭難事故では、検察で不起訴が決まったのは平成30年3月のことであり、その間8年半を要しています。

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