相続

遺言の無効について

遺言の無効理由

自筆証書遺言の要件

以前の記事でも取り上げましたが、民法968条には、

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

民法968条

と定められており、自筆証書遺言の場合、この民法968条の要件を欠くと無効となり得ます。

遺言能力

このほか、民法では、

(遺言能力)

第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

第九百六十二条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

民法961条~963条

と規定し、遺言書作成時に遺言者が遺言能力を有することを求めております。そこで、遺言時の認知能力を理由として遺言が無効と判断されることもあります。近時では、下記の 東京地判令和3年3月31日 において、遺言が無効と判断されています。

公正証書遺言の無効

公正証書遺言で遺言能力が問題となったケース

ところで、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言においては、公証人が関与していることから、遺言書が無効になることはないと考えられている方も少なくはないようです。しかし、公正証書遺言においても遺言書の有効性が争われることはあります。
近時では、東京地判令和3年3月31日において、上記で触れました遺言者の認知能力に関係して遺言の有効性が争われています。この裁判では、

・・・A(遺言者、被相続人)は・・・平成・・年4月・・日・・・B公証役場において,先行遺言をした(その内容は,原告に対して・・・を相続させ,被告・・・に対して,被告・・・の自宅の敷地等・残る一切の財産を相続させることなどであった。)ところ,同年6月・・・日頃,アルツハイマー型認知症と診断された。Aは,その後,平成・・・に,・・・C公証役場において本件遺言をした・・・上記のとおり,その約2年半前に先行遺言をしていたにもかかわらず,本件遺言において,「半年位前より以前の時期のことについては,(中略)よく記憶していませんし,よく思い出せません。ですから,ひょっとしたら,半年位前より以前に遺言書を作っているかもしれない気もするのです。しかし,自分でもはっきりしません。」と付言している。これによれば,Aは,本件遺言の作成当時,B公証役場においてした先行遺言の具体的な内容ばかりでなく,先行遺言をしたこと自体を失念していたものと認められる・・・本件遺言をした当時のAの認知力及び判断力が著しく低下していたことを裏付けるものと評価するのが相当である。・・・被告らは,Aに遺言能力が認められる旨を主張し,その根拠の一つとして,本件遺言が「一切の遺言を全部撤回する」という単純な内容であることを挙げる。しかし,・・・当時のAの認知力及び判断力は著しく低下していたといえるから,本件遺言の内容自体が複雑,難解といったものでないことを考慮しても,その遺言能力を肯定するには躊躇を覚える。・・・本件遺言の内容が,それ自体は複雑,難解といったものでないとしても,それがもたらす帰結等を考慮すると,その作成当時,Aが同遺言の内容を理解し,これによりもたらされる結果を弁識し得る能力があったとまでは認められないというべきである。・・・被告らは,Aに遺言能力が認められることの根拠として,D公証人(C公証役場の公証人)がAに遺言能力が認められると判断したことを挙げるが,本件においては,D公証人が,本件遺言の作成当時,Aがアルツハイマー型認知症と診断されていたことを認識していたか否か,Aが平成24年ないし平成25年頃,前記1(1)のような状態にあったことを認識していたか否か,Aの遺言能力の有無を判断するに当たりいかなる確認方法を用いたのか,Aが複数の不動産を所有しローン等の債務を負っていることを認識していたのか否かといった点が,いずれも不明で・・・D公証人がAに遺言能力が認められると判断したことをもって,Aに遺言能力が認められるということはできない。したがって,本件遺言をした当時におけるAの遺言能力について,被告らの主張を採用することはできないというべきで・・・Aは,本件遺言をした当時,認知力及び判断力が著しく低下していたものと認められるのであり,本件遺言の内容を理解し,遺言の結果を弁識し得る能力があったとは認められないから,本件遺言は無効であるといえる。

東京地判令和3年3月31日

と判示されています。

公序良俗違反による遺言無効

また、遺言が無効になる場合として、公序良俗違反が問題となることもあります。
東京地判昭和58年7月20日では、

右認定によれば、亡Aと補助参加人とは不倫な関係にあったものであり、本件遺言がなされたときは両者間に右関係が生じて間もないころであって、亡Aは右関係の継続を強く望んでいたが、補助参加人はむしろそのことに躊躇を感じていた時期に符合すること、当時五〇才の初老を迎えていた亡Aが、一六才年下の補助参加人との関係を継続するためには、財産的利益の供与等により補助参加人の歓心を買う必要があったものと認められること、本件遺言後両者の関係は親密度を増したことなどの諸事情を考え合わせれば、亡Aは補助参加人との情交関係の維持、継続をはかるために、本件遺贈をなしたものと認めるのが相当である。そして、本件遺贈は、被告が居住する居宅である前記建物及びその敷地である土地を含む全財産を対象とするものであり、それは長年連れ添い、亡Aの財産形成にも相当寄与し、しかも経済的には全面的に夫に依存する妻の立場を全く無視するものであるし、また、その生活の基盤をも脅やかすものであって、不倫な関係にある者に対する財産的利益の供与としては、社会通念上著しく相当性を欠くものといわざるを得ない。したがって、本件遺贈は、公序良俗に反し無効というべきである。よって、被告らの公序良俗違反の抗弁は理由がある。

東京地判昭和58年7月20日

と判示し、公序良俗違反により遺言を無効としています。

公序良俗違反による死因贈与契約の無効

死因贈与契約について

ところで、遺言は、財産を特定の人に相続させることを目的として遺言者がひとりで意思表示する「単独行為」と呼ばれる法律行為ですが、似たような効果を生じさせる法律行為として、遺言者の死後に遺言者の特定の財産を特定の人に贈与することを目的として締結される「死因贈与契約」があります。

死因贈与契約が無効となった事例

近時の裁判で、この死因贈与契約において公序良俗違反が問題となった裁判(名古屋地裁岡崎支部令和3年1月28日があります。この裁判では、養護老人ホーム入居者とその入居していた老人ホームへの身元保証をおこなった特定非営利法人との間で、身元保証契約に付随して一体として締結された死因贈与契約の有効性が争点となりました。この裁判では、死因贈位契約は公序良俗に違反し無効であると認定されています。

遺言及び死因贈与契約の無効について

このように、遺言あるいは死因贈与契約も形式的な要件を充たしていても無効となることがあり得ますので、遺言書作成時あるいは死因贈与契約時には、十分に注意することが必要となります。
特に、公正証書遺言でも無効となることがある点には留意が必要です。

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