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ゴルフ場の落雷事故と法的責任

ゴルフ場の落雷事故の概要

以前の記事で、高校サッカー部の学外試合での落雷事故における学校、試合会場の管理者および試合の運営者などの法的責任についてみましたが、今回は、ゴルフ場内で落雷事故によりプレーヤーとキャディーの人が、死亡した事故の裁判を通じ、落雷事故におけるゴルフ場運営会社及び関係者の法的責任についてみてみます。

この事故は、9月上旬の午後1時40分ころに、プレーしていた4人とキャディーが、松の木の下で雨宿りをしていたところ、その松の木に雷が落ち、プレーしていた4人のうち1人とキャディーが死亡した事故です(以下、死亡した人のうち、プレーしていた人を「A」、キャディーを「乙」といい、この事故を「本件落雷事故」といいます。)。尚、Aは中学の教員でした。

事故後、Aの遺族は、ゴルフ場の運営会社(以下「甲」といいうます。)に対し、①落雷の前に、プレー中止の放送をするほか、キャディーの乙にAらを避難誘導させる注意義務を負っていたが、その注意義務をおこたっていることから民法709条の不法行為責任を負う、②乙は、落雷の前に、同行するプレーヤーを適切に避難誘導してその安全を確保すべき注意義務を負っていたが、その義務に反し本件落雷事故を招いており、乙の使用者である甲は民法715条に基づく使用者責任を負う、③本件落雷事故の発生したゴルフ場は広大であるから、事故現場近くにも避雷針、待避所を設置すべきであったのに、事故現場付近に避難設備を設置していなかったことは設置の瑕疵に該当し、甲は、民法717条1項の責任を負う、④甲は、ゴルフ場施設利用契約に基づく信義則上の付随義務として、利用者の生命・身体を危険から保護すべき安全配慮義務をおっていたが、その義務に反しており、民法415条の債務不履行責任を負う等と主張し、甲に対し、民法709条、同715条、同717条及び同415条に基づき損害賠償を求め提訴しました。

裁判所の判断

事故当日の天候等について

本件落雷事故の発生日の天候について、裁判所は、次の様に認定しています。

・・・九月・・・日、本件ゴルフ場の朝は日が差しており、雨が降る気配はなかったが、午前一〇時ころから曇り始め、午前一一時ころには完全な曇り空となって、遠くで雷鳴が聞かれるようになり、午前一一時二五分、本件ゴルフ場のある・・・県南部に大雨洪水雷注意報が発令された。そして、午後〇時ころから本件ゴルフ場に雨が降り始めたが、この時点の雨はさして強い降りではなく、雨具がなくともプレーは可能な状態であった。この時点においても、遠くで雷鳴が聞こえていた。その後、遠方で稲光が見え、急に空が暗くなり、激しい雨となった。そして、午後一時三五分過ぎころ、急に大きな雷鳴とともに、近くに雷が落ちた(以下、この落雷を「一回目の落雷」という。)。その後、再び近くで落雷(以下「二回目の落雷」という。)があり、更に本件松の木に落雷があった(以下、この落雷を「三回目の落雷」あるいは「本件落雷」という。)。

東京地判平成12年11月15日

ゴルフ場運営会社の責任について

そして、上記①と④の原告の主張に関し、

・・・落雷地点を局地的に予測するのは極めて困難であるが、本件ゴルフ場では、「落雷の危険が予想され、退避指示が出された場合は、プレーを中断して避難所等、安全と思われる場所に退避して下さい。」(一〇条六項)と記載したゴルフ場利用約款をプレーヤーに交付して、落雷の危険を一部引き受けているから・・・落雷の危険が予想される場合にはプレーヤーに対して退避指示を出すべき注意義務あるいは信義則上の安全配慮義務を負う・・・〈1〉降雨、雷雲、雷鳴、稲光、周囲の明暗等の諸状況の変化によって雷の接近は・・・おおよそ判断することができ、かかる判断に特段の専門的、科学的知識を必要とするものでない・・・〈2〉・・・雷鳴や稲光ほど、大きな音や光を出すという点で、雷接近を知らせる正確な警報装置は他にはない・・・〈3〉・・・(ゴルフ場支配人(以下「丙」といいます。))は、午前一一時過ぎに得た雷情報によって、・・・雷雲は本件ゴルフ場に接近していないとの認識を得たが、その後も・・・特に雷鳴が大きくなるとか稲光が接近するなどの状況の変化が起きたわけではなかった・・・〈4〉・・・午後一時三〇分少し前ころ、当日二回目の雷情報の照会を電力会社にしたところ・・・市及び・・・市北方方面に午前中とは別の雷雲が発生中との情報を得、そこで発生した雷雲が本件ゴルフ場に移動してくることはまずないが、仮に移動してきた場合には、大きな落雷があることを心配し・・・降雨状況がますます激しくなるので雷接近の危険を感じ、退避指示を出そうとした途端、近くで一回目の落雷があり、停電となったが、直ぐに復旧したので本件放送を流し、その情報はAにそれなりに伝達されたこと、〈5〉本件ゴルフ場から一キロメートルほど離れた・・・ゴルフクラブでは、避難勧告放送すらしていなかったことなどを併せ考えると、一回目の落雷前に丙が落雷の危険を予測することはできなかったというべきで・・・そのことについて何ら非難されるいわれはないし、また、右のとおり丙はとるべき措置を講じているから、被告には何ら注意義務違反あるいは信義則上の安全配慮義務違反は認められない。

東京地判平成12年11月15日

としています。

キャディーの責任について

次に、上記②の原告の主張に関し、

キャディーは、プレーヤーのプレーに関する補助者で・・・用具の運搬に従事し・・・プレーについてプレイヤーにアドバイスをするものであり・・・プレーヤーに危険が生ずるおそれがあるプレーが行われようとしているときにはその安全を確保すべき立場にあるが、雷の接近及び落雷の危険についてプレーヤー以上の専門的、科学的な知識を持ち合わせているべきものであるということはできないから、キャディーにプレーヤー以上に正確な落雷の危険を予測すべき義務を措定することはできない・・・避難誘導義務違反の主張は理由がない・・・

東京地判平成12年11月15日

としました。更に、

もっとも、Aは本件松の木の真下という危険な場所に避難し・・・乙もその近くにいたが・・・落雷の危険につき・・・アドバイスをした形跡は・・・ない。しかし、そのことから乙に避難誘導義務違反を問うことは相当ではない。けだし、〈1〉キャディーは・・・落雷からの避難方法に関し、キャディーにプレイヤー特に中学校教員以上の知識を要求することは相当でないこと、〈2〉Aらは中学校教師として、生徒を引率して遠足等に行くこともあるから、屋外における落雷からの避難方法に関する知識は一般人以上に有すると推測されること、〈3〉・・・屋内又は車内への移動・・・が不可能・・・次の落雷までに間に合わない場合・・高さが四メートル以上の木があるところならば、その木の根元から二ないし四メートル離れたところで、四五度の角度から木の頂点を見上げる位置内に避難すべきであり、四メートル以下の木には近づかないようにすべきであり、周囲を樹木に囲まれていて樹木から離れられない場合には枝先や葉から二メートル以上離れなければならないというものであること・・・〈4〉Aらが本件松の木の・・・真下でなく、木の根元から二ないし四メートル離れるなどした場所ならば、必ずしも危険な避難場所ではなかったこと・・・〈5〉丙は高い木の真下へ避難することが落雷の被害に遭う危険が高いとの認識を有していなかったこと・・・乙に本件松の木の真下が危険な場所であるとの認識があったとはうかがわれず、また、そのことについては何ら非難されるいわれもないことなどにかんがみれば、乙に右避難誘導義務違反を問うことは相当でないからである。

東京地判平成12年11月15日

と避難誘導義務違反も否定し、更に、

・・・乙は、丙の本件放送を聞いたのに、Aらを避難場所に誘導した形跡は何らうかがえない。しかし、そのことから乙に避難誘導義務違反を問うことも相当ではない。けだし、〈1〉高い木の近くに避難することは落雷に対する避難方法の一つである・・・〈2〉丙は高い木の真下へ避難することが落雷の被害に遭う危険が高いとの認識を有していなかったこと・・・乙にそこが・・・危険な場所であるとの認識があったとはうかがわれず・・・そのことについては何ら非難されるいわれもないこと、〈3〉本件落雷事故現場から・・・売店までは約二五八メートルであるところ、近くに落雷があり、辺りは暗く、しかも激しい豪雨があり、かつ、直ぐにクラブハウスからの迎えの車がカート道を通り収容してもらえることが十分に予想できるという状況下において、乙がAらに対し、右売店への避難誘導すべきことを期待するのは酷であることなどにかんがみれば、乙の避難誘導義務違反を問うことは相当ではないからである。

東京地判平成12年11月15日

と避難誘導義務違反も否定しています。

土地の工作物の瑕疵について

更に、原告の③の主張に対し、

原告らは、七番ティーグラウンド付近に避難設備を設置していなかったのは設置の瑕疵に当たる旨主張する。しかしながら、〈1〉雷は一定の予兆を伴って次第に接近してくるのが一般であり、また、一度落雷があると一分間は充電期間があるので、その間に避難する余裕がある場合が多いこと、〈2〉実際のゴルフ場においても、各ホール毎に避難所が設置されているわけではないこと・・・〈3〉本件落雷事故現場から・・・売店までは約二五八メートルの距離があり、その手前約八〇メートルの場所には避難ベンチがあること、〈4〉他の二つのパーティーは・・・売店に避難していることなどからすれば、各ホールごとに避難所を設置する必要があるとは到底考えられず・・・付近に避難設備を設置しなかったことがゴルフ場として通常有すべき安全性を欠いていたと評することはできない。

東京地判平成12年11月15日

と土地の工作物の瑕疵も否定し、裁判所は、原告の請求を棄却しています。

落雷事故におけるゴルフ場関係者の責任

この判決からみますと、落雷事故に関しても、ゴルフ場の運営会社はプレーヤーに対し、一定の安全配慮義務を負う場合が多いと考えられます。

しかし、キャディーは、一般的には、落雷の危険性からプレーヤーを保護する義務を負うものではないと考えられます。ただし、本件落雷事故の判決でも、「プレーヤーに危険が生ずるおそれがあるプレーが行われようとしているときにはその安全を確保すべき立場にある」と判示されているように、プレーの中の危険に対しては、一定の安全配慮義務を負っていることから、プレーに付随する危険として、落雷の危険性に対してもプレーヤーに対する一定の注意義務、安全配慮義務を負う可能性は否定できないようにも思われます。ただし、本件判決の中でも「キャディーは・・・プレーヤー以上の専門的、科学的な知識を持ち合わせているべきものであるということはできないから、キャディーにプレーヤー以上に正確な落雷の危険を予測すべき義務を措定することはできない」と判示しているように、キャディーの注意義務、安全配慮義務も、専門的知識を必要とするような水準まで求められるのではなく、あくまで、一般人が通常の状況で気づく程度の範囲・水準にとどまるものと思われます。

本件落雷事故と以前みました、高校サッカー部の学外試合での落雷事故における教員の注意義務を比べますと、本件落雷事故の判決では、乙の過失の認定に際し、

「・・・キャディーにプレイヤー特に中学校教員以上の知識を要求することは相当でないこと、〈2〉Aらは中学校教師として、生徒を引率して遠足等に行くこともあるから、屋外における落雷からの避難方法に関する知識は一般人以上に有すると推測されること」

と被害者であるA側の落雷に関する知識を乙の過失を否定する事情として扱っています。しかし、高校サッカー部の落雷事故では、生徒の落雷に関する知識は問題となっていません。

この点は、上記のように、キャディーである乙は落雷事故に関して一般的にはプレーヤーを保護する義務を負っているわけではないことから、被害者の落雷に対する知識は、被害者自身が、落雷の危険から身を守る行動をとるであろうということへの期待につながると考えられます。そのことから、被害者の落雷に対する知識は、乙の注意義務を相対的に軽減する方向へ働くものと考えられます。このようなこともあり、裁判所も被害者であるAの落雷に関する知識を検討したものと思われます。
一方、教員は生徒に対し一般的な安全配慮義務を負っております。そうしますと、生徒の落雷への知識を、そのまま、生徒自身で落雷の危険から生徒自身で身を守ることへの教員の期待につなげることは適切ではないと考えられます。更に、学習途上で教師から教育を受ける立場にある高校生の落雷の知識を、教える立場にある教員が期待すること自体が適切とは言えないとも考えられます。これらのことから、高校サッカー部の落雷事故では、生徒の落雷への知識は、教員の過失の認定に際し問題とされなかったのだと思われます。

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