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公の営造物である期間について

公の営造物である期間

国家賠償法2条1項では、

道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

と規定されていますが、例えば、都道府県の建物の瑕疵が問題となるとき、その建物はいつからいつまでが「公の営造物」に該当するのでしょうか。基礎工事の段階でも公の営造物なのでしょうか、建物が一応完成したが、未だ使用開始していない時期も公の営造物なのでしょうか、更に老朽化し、立入禁止となっている建物も公の営造物なのでしょうか。
今回は、国家賠償法の「公の営造物」該当性の問題を構築物・工作物などのライフサイクルから考えてみます。

未使用構築物の公の営造物該当性

公の営造物該当性を否定した裁判例

公の営造物は「国又は公共団体により直接に公の目的に供用される有体物又は物的設備」とされていることから、「公の目的に供用されている」状態にあるかが、判断基準となりそうです。
条文の文言からしても、都道府県が、実際にパスポート申請窓口の庁舎として使用しているような状態であれば、「公の目的に供用されている」といえ、公の営造物に該当すると判断することに問題はなさそうです。
それでは、工事がある程度進み、使用できる状態になっているが、まだ、使用していないような場合はどうなるのでしょうか。
この点については、東京地裁立川支部判決平成22年11月29日が参考になります。
この裁判は、戦時中に掘られていた地下壕が崩落し、土地が陥没するなどして建物が傾斜する等の被害を被った人が、地下壕が公の営造物に該当する等として国家賠償法2条1項等に基づき損害賠償請求をおこなったものです。
この裁判で裁判所は、

公の営造物とは,国又は地方公共団体が設置又は管理する施設等のうち,公の目的のために利用に供されているものをいうと解するのが相当である。

とした上で、

・・・本件地下壕は,そもそも未完成のものであることに照らすと,坑口から一定程度堀り進み,地下壕として使用できる状況になった時点においても,未だ本件地下壕が公の目的に供されていたと認めることはできない。また,その後,公の目的に供されていたと認めるに足りる証拠もない。したがって,本件地下壕は公の営造物には該当せず,被告は国賠法2条1項の責任を負わない。

として、使用できる状態になっても、実際に公の目的のために使用されていなければ、公の営造物に該当しないとしています。

公の営造物該当性を肯定したようにみえる裁判例

しかし一方で、都の下水道工事の現場に資材として置かれていたコンクリート製の輪状の継目管が倒れた下敷となり遊んでいた子どもが死亡した事故において、遺族が都と都から工事を請け負っていた業者に対し損害賠償を求めた裁判(東京地判昭和47年1月28日)では、

国家賠償法第二条第一項の規程は国や公共団体の所有又は管理する危険物から生じた損害の救済を完全ならしめようとする趣旨の規定であるから、国や公共団体の所有又は管理する有体物で公の目的に供用されるべき物は、いまだ現に公の目的に供用されていなくても、当該場合の具体的事情により、現に公の目的に供用されている物に準ずるものと認められる場合には、同条項にいう「公の営造物」にあたるものと広く解すべきである。本件の場合・・・本件継目管は被告都の所有物で・・・都はこれを被告会社によって保管していたのであり、被告会社において、これを工事に要するものとして、その他の下水道管や継目管とともに現場に搬入して、その敷設位置に平行して並べて置いたのである以上、右継目管は、その他の下水道管等とともに格別その形態の変更を伴わぬ連結、埋設という作業によって公共用物である下水道を構成するに至ることが、現実に明らかになったものといえるから、本件継目管はいまだ公の目的に供用されている物ではないにしても、それに準ずる性格を帯有するに至ったものとして、同条項にいう「公の営造物」にあたるものと解するのが相当

として、未だ、つないでいない継目管を公の営造物と認定しています。
しかし、この判決では、上記引用部分に先立ち、

本件下水道工事は被告都が既設の幹線下水道に接続させて約二〇〇〇メートルに及ぶ枝線下水道を作る工事で・・・都は・・・被告会社に請負わせる契約を結び・・・

と認定していることからしますと、この工事は、事故当時に既に使用されていた下水道の配管延長工事であり、既に使用している部分は「公の営造物」に該当することは問題なく認定できることから、既存の「公の営造物」の未完成延長部分に使用される材料を既存の公の営造物と一体に捉えたとも考えられます。
そうしますと、この裁判例は、いつから「公の営造物」性が認められるかという時間的な範囲の問題ではなく、どこまで「公の営造物」性が認められるかという物理的範囲の問題であるとも言い得ます。

公の営造物該当性の終期について

次に、いつまで「公の営造物」といいうるかという終期に関する裁判例として、東京地判平成元年10月16日があります。
この裁判は、旧海軍が掘削、使用していた防空壕内に立ち入った子どもが、土砂崩れのために死亡した事故で、国に対し国家賠償法2条1項等に基づき、防空壕の所在県に対し同法1条に基づき損害賠償請求をおこなったものです。
この裁判では、防空壕が国家賠償法2条1項の公の営造物に該当するかについて、

「本件防空壕は、右大戦中、旧海軍(国)の用務に供されていたものとして、講学上のいわゆる公用物に当たるものと解されるが、右用務の性質上、右大戦の終了した昭和二〇年八月一五日をもって公用が事実上廃止されたものと解するのが相当である。そして、右公用廃止がされた以上、本件防空壕をもって国家賠償法第二条にいう公の営造物に当たるということはできないから、同条の適用を論ずる余地はない。」

としています。
尚、最初に引用した東京地裁立川支部判決平成22年11月29日も上記の東京地判平成元年10月16日も、民法717条の土地の工作物責任を認めています。

公の営造物とされる期間

この最初と最後に引用した2つの判決をみますと、公の営造物に該当するかは、その形状が構築物(工作物)としての状態を保っていたか否かではなく、実際に「公の目的」のために使用されていたか否かで判断されることになると考えられます。
確かに、2つ目に引用した判決(東京地判昭和47年1月28日)は、公の目的に供される以前の資材の段階で公の営造物性が認定されたと解する余地もあろうかと思われますが、3つの裁判例を無理なく整合性を維持して解釈しようとすれば、2つ目に引用した裁判例は、先述の通り、どこまで「公の営造物」性が認められるかの問題ととらえた方が良いのではないかと考えます。

このように、国家賠償法の「公の営造物」に該当するかは、問題となった構築物(工作物)が実際に公の目的のために使用されていたかにより判断されるのが原則であろうと考えられます。

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