不可抗力とは?~その意味、根拠条文、位置付け、免責効果、適用事例など

この記事で扱っている問題

不可抗力という言葉は、日常用語としてもよく使われます。
しかし、法的な意味となりますとあまり明確とはいえません。

ここでは、不可抗力の意味、根拠と考えられる条文、その要件、免責効果などについて解説します。

不可効力の概要

不可抗力とは、一般的には、災害など外部発生事象により債務の履行ができなくなったり、社会通念上、通常に要求される注意義務を果たしても損害を防止できなくなったりすることを意味すると考えられています。

不可抗力の原因となる外部事象としては、地震、台風などの天災、感染症拡大、および戦争などが考えられます。

そして、不可抗力の法的効果としては、

  • 債務不履行責任を免れ
  • 損害賠償責任を負わない

ことをあげることができます。

不可抗力に関する民法の条文

民法において、直接不可抗力に触れた条文としては、民法609条、610条および419条3項などがあります。

民法609条、610条は下記のように規定しています。

(減収による賃料の減額請求)
第六百九条 耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。

(減収による解除)
第六百十条 前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き二年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。

民法609条、610条

本来、賃貸借契約に定められた賃料支払債務を履行しない場合、債務不履行責任を負うこととなりますが、609条では、不可抗力により債務不履行となる場合に、賃料減額請求権を認め、債務不履行責任を免れさせることとなり、610条では、賃貸借契約の解除権を認め、債務不履行責任を免れさせることを規定しています。

一方、民法419条3項は、不可抗力について、金銭債務に関しては、上記のような効力を認めないことを規定しています。

民法419条は、下記のような条文となっています。

(金銭債務の特則)
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

民法419条

このように、民法419条は、1項において金銭債権の履行遅滞に関する損害賠償額を規定し、2項は、一般の債務不履行において損害額の証明責任を損害請求者が負うところを、その証明責任を債務者に転換したものと考えられています。

ところで、上記のように不可抗力により債務の履行ができなくなったときには、債務者は債務不履行責任を負わないものと考えられています。
しかし、上記の民法419条3項では、例外的に金銭債務に関しては、不可能力により履行遅滞に陥った場合においても、債務不履行責任を免れ得ないことを規定しています。
これは、履行期の経過とともに、債権者には当然に遅延利息相当額の損害が生じる一方、債務者には同額の利益が生じている可能性が高いことから、両者間の公平の観点から、とくに不可抗力の抗弁を認めないこととしたものであると考えられています。

このことからしますと、同項の規定の反対解釈からは、金銭債務以外の債務に関しては、不可抗力による債務不履行は免責されると解することができます。
そこで、民法上、同項から一般的な不可抗力の効力を導くことができるとも考えられています。

不可抗力による免責が認められる要件

不可抗力による免責が認められるには

  • 不可抗力であること
  • 不可抗力と債務不履行、損害の間に因果関係が認められること

が必要であるとされます。

まず、不可抗力とは、

  • 外部からの事情で
  • 取引上、社会通念上、通常要求される
  • 一切の注意や予防方法をとっても
  • 防止できないもの

をいうとされています。

大地震、大水害などの災害、戦争、動乱などが該当します。

しかし、たとえば、債務者が債務の履行のために準備した物を、偶然通りかかった関係のない人が破損したというような、単なる第三者の行為は不可抗力に該当しないと考えられています。

そして、不可抗力が発生した場合でも、不可抗力とされる事実とは異なる事情により債務不履行、損害が生じた場合は、不可抗力を理由とする免責は認められません。
不可抗力と債務不履行、損害との間に因果関係が必要であると考えられています。

不可効力条項

契約条項として、不可抗力により履行遅滞、履行不能となった場合、債務者は、債務不履行責任を負わない、あるいは責任を制限する旨の条項を設けることがあります。
このような契約条項を不可抗力条項といいます。

この不可抗力条項には、
責任を免除する不可抗力条項を設けているものとしては、賠償責任保険普通保険約款
責任を制限している不可抗力条項を設けているものとしては、公共工事標準請負契約約款
などがあります。

不可抗力が裁判で問題となるケース

自然災害が問題となるケース

台風に伴う大雨で河川が氾濫し、店舗に浸水したことにより、店内に保管していた顧客の自動車が水没したことに対し、店の善管注意義務違反などを理由とする損害賠償請求がなされた裁判があります(1審:長野地判令和3年2月2日、控訴審:東京高判令和3年9月9日)。

この裁判では、被告から、台風に伴う大雨は不可抗力であるとの主張がなされています。

尚、この事件は、下記の記事で扱っています。

労働基準法26条が問題となるケース

労働基準法26条においては、使用者の責に帰すべき事由による休業に対する使用者の休業手当支給義務を規定しています。
下記の記事でも解説していますが、この「使用者の攻めに帰すべき事由」は広く解されていますが、不可抗力の場合は除外されると考えられています。

近時の裁判としては、ホテルが新型コロナウイルス感染拡大による売上減少に対応するため従業員の勤務時間を減少させたことが休業に該当するとして、休業手当の支給などが請求された事件(東京地判令和3年11月29日)において、この問題が争点となりました。

裁判所は、

・・・新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛などにより・・・令和2年2月頃以降売上の減少という影響を受けはじめ・・・売上は停滞・・・売上減少に対応するため,同年・・・日以降,従業員全体の出勤時間を抑制することとし,原告には本件休業を命じたもので・・・売上減少の状況において人件費削減の対策を講じたことの合理性は認められるところであり,これによる雇用維持や事業存続への効果が実際に生じたであろうことを否定するものではない。しかしながら,被告は,事業を停止していたものではなく・・・売上の状況やその予測を踏まえつつ,人件費すなわち従業員の勤務日数や勤務時間数を調整していたのであるから・・・使用者がその裁量をもった判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならない。そうだとすれば,本件休業が不可抗力によるものであったとはいえず・・・本件休業は,被告の「責めに帰すべき事由」によるものと認められる。

東京地判令和3年11月29日

と判示し、不可抗力を認めず、「使用者の攻めに帰すべき事由」による休業と認定しています。

国家賠償法2条の瑕疵について

国家賠償法2条は、公の営造物の設置管理の瑕疵により損害が生じた場合の国、公共団体の損害賠償責任について定めたものです。
この国家賠償法2条の瑕疵責任は無過失責任といわれていますが、不可抗力の事故にまで責任を負うものではないとされています。
この点につきましては、下記の記事において解説しています。

上記の点が争点となった裁判としては、東日本大震災直後に、市道を走行中、道路が陥没して車両が損傷した事故に関し、車両の所有者が国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めた裁判(福島地裁郡山支部判決平成26年6月20日)があります。

裁判所は、

・・・原告は、国家賠償法は無過失責任を定めたものであり、予見可能性がないことは免責事由に該当しないなどと主張する。しかしながら、無過失責任といっても、解釈上、不可抗力などといった免責事由は認められているのであって、同法二条一項の「管理の瑕疵」については・・・客観的に管理可能な状況のもとにおける管理の瑕疵を前提としているものというべきで・・・道路である場合に関していえば、事故時には客観的に通常有すべき安全性を欠いているものと認められるとしても、道路管理者において当該事故を予見することができず、その回避可能性がなかったことを主張立証した場合には「管理の瑕疵」がないと解するのが相当・・・
・・・本件事故現場の陥没は、東日本大震災により地盤が変動し、また、東日本大震災の本震及び余震による揺れにより液状化が生じ、本件事故現場の路面の下が空洞化したことが主たる原因であると推察され・・・外形上、道路の陥没の危険性があることを具体的に窺い知るような事情等が存在したものとは認められないのであって、被告が本件事故現場における道路の陥没の危険性を具体的に認識又は予見することはできなかったものというべきで・・・被告は・・・本件道路に関して本件事故の発生原因となるべき事象が生じていたことを具体的に知り又は知り得る可能性はなかったというほかなく、本件事故はそのような中で原告車両が本件事故現場を通過したのと同時に発生したものであって、被告には本件事故の発生を阻止又は回避する余地はなかったと言わざるを得ない。・・・
・・・本件事故は、被告においてこれを予見することができず、その回避可能性がなかったといえ、被告が本件道路の管理を怠った瑕疵により発生したものということはできないのであって、被告には本件道路について「管理の瑕疵」があったものとは認められない。

福島地裁郡山支部判決平成26年6月20日

と判示しています。

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