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公序良俗違反について

公序良俗違反

法律用語として、「公序良俗違反」という言葉がよく出てきます。
しかし、日常用語ではないこともあり、分かったようで分からない言葉でもあります。
公序良俗違反という用語は、「公序」「良俗」「違反」の3つの単語からなります。
「公序」とは、「公の秩序」の略語で、「良俗」は「善良の風俗」の略語です。
民法90条は、

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法90条

と規定しています。
公序良俗違反とはこの民法90条の「公の秩序又は善良の風俗に反する」ことで、そのような行為は同条により無効となります。
法律行為自由の原則から、合意当事者は、当事者間の合意内容に拘束されるのが原則です。
しかし、民法90条は、形式的に成立した合意が公の秩序あるいは善良の風俗に反する場合、合意(あるいは法律行為)を無効とし、当事者の合意内容への拘束を解く(あるいは法律行為により生じた結果がなかったことにする)こととなります。
この公序良俗違反は、民事事件、労働事件、行政事件など幅広い事案で用いられています。
元々、「公の秩序」は国家社会の一般的利益、「善良の風俗」は社会の一般的な倫理・道徳観念を意味するとされていますが、近時では、この二つを特に分けることをせずに、「公序良俗」ひとくくりで社会的妥当性を意味する抽象的な概念と考えるのが一般的です。

公序良俗違反が主張された裁判

近時の公序良俗違反が問題となった事件をみてみますと、地方自治体が所有していた温泉施設を私企業に負担付贈与した契約が公序良俗違反であるとの主張がなされた住民訴訟(福岡地判令和3年4月28日)、有期雇用契約の不更新条項等が労働契約法18条の趣旨に反し公序良俗違反により無効であるとの主張がなされた労働事件(横浜地裁川崎支部判決令和3年3月30日)、違約金合意が公序良俗違反であるとの主張がなされたプログラムの著作権侵害差止等請求事件(東京地判令和3年3月24日)、従業員同士の私的交際の禁止と違約金を定めた同意書を公序良俗違反とした違約金及び損害賠償請求事件(大阪地判令和2年10月19日)等幅広い事件で公序良俗違反に関する主張、適用がなされています。

公序良俗違反に関する金銭の返還請求

ところで、公序良俗違反により、契約が無効となった場合、公序良俗違反の契約に基づき支払った金銭の返還を求めることは出来るのでしょうか。
また、公序良俗違反となる犯罪行為を第三者に依頼し、その依頼料を支払った後、気が変わり、依頼を取消した場合、依頼料の返還を求めることは出来るのでしょうか。
確かに、契約が無効となった場合、支払った依頼料を契約相手方が保持し続ける根拠がなくなりますし、契約を解除すれば、遡及的に契約関係が覆滅されるので、やはり、支払った依頼料を契約相手が保持し続ける根拠はなくなります。
そうすれば、いずれの場合も返還を求めることが出来そうにも思われます。
しかし、民法708条は、

不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

民法708条

と規定しています。
犯罪行為の依頼者は同条の「不法な原因のために給付をした者」に該当しますので、「その給付したものの返還を請求することができない」こととなり、依頼料の返還を請求することはできないのが原則です。
それでは、犯罪の対価ではなく、潜在的被害者へ撒き餌的に配った金銭の返還を求めることは出来るのでしょうか。
これに類するものとしては、架空の投資話で被害者から金銭を騙取した後に、更に金銭を出させるため、あたかも実際に投資をおこなっているように見せかける目的のもと配当金名目で被害者に金銭を配った事件において、被害者が加害者に対し、騙取等の返還を求めた裁判があります。
この裁判で、下級審は、被害者は詐欺により騙取金相当額の損害を被っているが一方仮装配当金相当額の利益を受けているとして、損害額の算定上、仮装配当金の額を控除しました。
しかし、この訴訟において、最高裁は、最判平成20年6月24日で、

・・・本件詐欺が反倫理的行為に該当することは明らかであるところ,被上告人は,真実は本件各騙取金で米国債を購入していないにもかかわらず,あたかもこれを購入して配当金を得たかのように装い,上告人らに対し,本件各仮装配当金を交付したというのであるから,本件各仮装配当金の交付は,専ら,上告人らをして被上告人が米国債を購入しているものと誤信させることにより,本件詐欺を実行し,その発覚を防ぐための手段にほかならないというべきである。そうすると,本件各仮装配当金の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,本件損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として本件各騙取金の額から本件各仮装配当金の額を控除することは許されないものというべきである

最判平成20年6月24日

としています。
民法708条は反社会的・反道徳的行為をした者の法的な保護を拒否するものなので、直接の犯罪対価のみでなく、このように犯罪と一定の関連性のある金銭の返還にまで同条の適用があり得ることとなります。

このように、民法708条は民法90条に定める公序良俗違反行為をおこなった者(のうち特に悪質性が高い者)の法的救済を拒否するものでもあることから、民法90条の実効性を担保する役割も果たしていると言い得ます。(尚、民法90条の適用範囲と民法708条の適用範囲に関しては、民法90条の適用があるケースでは全て民法708条の適用があり得るとする説、民法90条の適用があるケースの中で特に悪質性が高いものに民法708条の適用があり得るとする説など、諸説あることから、前文では、括弧書部分の記載を追加しています。)

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