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渓流沿いの崖上からの落木による死傷事故の責任

渓流公園内の事故

以前、国有林野の使用許可地を敷地とする旅館で働いていた人が、使用許可地外の裏山斜面からの雪崩で負傷した事故の裁判をみましたが(タイトル名「国有林野と公の営造物」記事参照)、今回は、山岳地帯の渓流公園内で、渓流沿いの崖からの落木により公園利用者が死傷した事故の裁判を通して、事故発生地とその隣接地の設置管理者が異なる場合の各々の責任について考えてみます。

渓流公園内の事故に関する裁判

渓流公園の設置管理者の責任

この事故は、渓流公園の渓流内で水遊びに興じていた公園利用者(以下「A」といいます。)が、渓流沿いに垂直に切り立った崖の上からの落木により死亡、Aに同行していた公園利用者(以下「B」といいます。)が負傷した事故です。
この事故の裁判の1審判決は公表されていないことから、事実関係がやや不明瞭ですが、事故現場となった渓流公園は、地元の地方公共団体(以下「甲」といいます。)が設置し、財団法人(以下「乙」といいます。)が管理していたもので、枯れ木が落ちてきた崖上は別の地方公共団体(以下「丙」といいます。)が造林事業のために地上権を設定し管理していました。しかし、事故当時、事故の発生原因となった場所一帯は、急傾斜地であったことから手つかずの状態におかれ、造林はなされていませんでした。尚、この渓流公園は、入場料を徴収していました。
Aの遺族とBは、甲、乙及び丙に対し、安全配慮義務違反及び営造物あるいは工作物の瑕疵に基づく損害賠償を求めて提訴しました。
1審は、原告の請求を棄却しましたが、控訴審は、甲及び丙に対する請求の一部を認容し、丙に対する請求は棄却しています。
その後、上告されましたが、上告棄却されています。

1審は、樹木はもちろん人に危害を加えるような物が事故現場に落下してくることを予見することはできなかったとして、安全配慮義務違反を否定しました。
しかし、控訴審は、

甲及び乙は、本件公園の設置者又は管理者として、公園施設の利用に伴って入園者の生命身体に危険が及ぶことがないようにすべき安全配慮義務が認められる

福岡高判平成12年8月30日

とした上で、

(1)本件事故現場南側崖の上は急傾斜の原生林であり、植林除外地となっていて、そこには朽ち木、枯れ木、岩石等が散在しており、(2)右崖は本件事故現場の幅約五メートルの川の端から垂直に切り立っており、崖上から落下物があると川の中に落下する位置関係にあり、(3)本件事故現場のすぐ上流には・・・滝があり、展望所も設けられていて、入園者のうち相当数が右展望所への経路として本件事故現場側の遊歩道を通行することは十分に予想され、(4)遊歩道から本件事故現場の渓流に入るのは容易であり、(5)本件公園は「渓流公園」と名付けられており、渓流・・・での水遊び、やまめのつかみ捕りが行われており、本件事故現場の渓流も公園利用者の利用に供されているといえるのであって、以上によれば、頻度は稀であるとしても、管理不可能な本件事故現場南側崖の上から本件事故現場の渓流に落石、落木がある可能性は認められ、一方、公園化したことにより相当数の公園利用者が本件事故現場の渓流に立ち入る可能性が増大し、その結果、落石、落木により本件事故現場において人身被害をもたらす危険は増大したのであるから、公園利用者の安全について配慮すべき義務がある本件公園の設置、管理者は、本件事故現場について、落石、落木の可能性のある危険箇所として立て札を立てて注意を喚起したり、あるいは立入禁止にするなどの措置をとるべきであったといわざるを得ない。したがって、本件事故現場について右注意喚起ないし立入禁止等の措置をとっていなかった甲及び乙には、本件事故について安全配慮義務違反の責任がある

福岡高判平成12年8月30日

として、甲及び乙に対する安全配慮義務違反を認定しています。更に、

以上認定の事実によれば、甲の本件公園の設置又は管理に瑕疵があったことも認められるから、甲は国家賠償法二条一項の責任を免れない。

福岡高判平成12年8月30日

としています。
ここでは、「国有林野と公の営造物」で検討しましたように、渓流公園の管理範囲を崖上まで広げたり、あるいは、渓流公園と崖上の場所の一体性を認めて崖上の場所の瑕疵を問題としたわけではなく、事故現場に立て札を設置したり立入禁止にしなかったことが渓流公園の敷地の瑕疵であるとしています。崖上まで瑕疵の判断区域を拡張したわけではありません。

事故原因となった落木の起点場所の管理責任

丙に対する請求に関しては、

本件事故現場南側崖上の原生林は、急傾斜地であって人が分け入るのが危険であるため植林除外地となっており、とりわけ、本件事故現場南側崖近くは分け入って管理するのは不可能であり、一般人の立ち入りも予定していないのであるから、右原生林内に枯れ木ある本件樹木が存在していたとしても、通常有すべき安全性を欠いていたということはできず、民法七一七条の竹木の栽植又は支持に瑕疵があったとはいえない。

前記認定のとおり、本件事故時の状況では、右原生林の崖下に位置する本件事故現場に本件公園の入園者が近づく可能性があり、それとの関係で入園者の安全性の確保の問題が生ずるが、この問題は正しく本件公園の設置、管理者にかかる問題であって、右原生林の崖下に本件公園が設置されたからといって直ちに右原生林内の樹木の所有者に民法七一七条の無過失責任が生ずるものではない。

福岡高判平成12年8月30日

として、工作物責任を否定しています。
この点は、登山道の瑕疵に関しても参考になるかと思われます。
渓流公園を登山道と置き換えて考えてみますと、切り立った崖下の登山道の設置管理者と切り立った崖上の原生林の管理者が異なる場合、少なくとも崖上の原生林が立入り困難地であれば、崖上からの落木で登山道の通行者が負傷したとしても、崖上の原生林の工作物(あるいは公の営造物)の瑕疵を認定するのは、上記の控訴審判決の趣旨からすると困難だということになりそうです。

過失相殺について

控訴審では、過失相殺も問題となっています。
過失相殺に関して、控訴審裁判所は、

本件公園は山中の渓流公園であり、本件事故現場の渓流は、人工施設とは異なり自然のまま公園利用者の利用に供されていたものであって、渓流広場ややまめつかみ捕り広場等とも異なり、本件公園のパンフレットや案内板に渓流に入って遊ぶ場所として掲示されてはいなかったこと、また、そこは垂直に切り立った崖下であり、崖上には枝を伸ばしている樹木が見えることなどを考えると、崖上から本件事故現場への落木、落石の危険性はA及びBにおいても認識可能であったと認められ、自ら危険な場所に進入して本件事故に遭遇したAらには本件事故を招いたことについては八割の過失を認めるべきである。

福岡高判平成12年8月30日

として、8割の過失相殺の割合を認定しています。この過失相殺の割合は、これまでみてきた裁判例からすると高いものといえます。
留意すべき点は、事故現場は明確に立入禁止区域とされていたわけではありませんが、パンフレットや案内板には渓流内の遊興スポットが明示されていたものの、事故現場は遊戯場所と書かれていなかったということです。
ここで、①遊戯場所として明示されている場所、②今回の事故現場のようにパンフレットや案内板に遊戯場所が明示されている時に、遊戯場所として明示されていない場所、③立て看板等で立入禁止区域と明示されている場所の3つの場所で利用者が落木で負傷した場合、施設設置管理者の責任と過失相殺の割合がどのように異なるかを考えてみたいと思います。
①の場所においては、施設設置管理者の責任は重く、過失相殺の割合は低くなると思われます。利用者には当該場所の安全性に対する信頼が生じるのが通常であり、利用者に対し、周囲の危険に気を配ることをあまり求めることができないと考えられるからです。
③の場合は、施設設置管理者の責任は軽減され(場合によって責任は否定)ると考えられます。一方、利用者は、そのような立入禁止区域に入り込んでいる以上、周囲の危険性については、自分で判断すべきとも考えられ、過失相殺の割合は高くなると思われます。
今回のように、②の場合、立入を明示では禁止していませんが、パンフレットや案内板の記載からしますと、黙示の禁止があったと言い得るのかもしれませんし、施設設置管理者が遊戯場所に使われると想定していなかったと言い得る場合もありそうです。そうしますと、利用者としては、一定の危険があり得ることをやはり想定すべきだったということになるのかもしれません。
このように、施設設置管理者の責任と利用者が危険性を認識すべき度合いは、その場所が、積極的に遊戯場所とされている場所から立入りが明白に禁止されている場所のどのカテゴリーに含まれるかにより異なるものと考えられます。
この事故の場合は、上記の②の場所で発生したと言い得ることから、渓流公園利用者のA及びBは、周囲の危険に注意を払うことが求められていたといい得ます。また、事故現場は、周辺の状況から、外観上も崖の危険性を認識し得る状況であったこともあり、A 及びBには高い落ち度らしさが認定され、8割の高い過失相殺の割合が認定されたといえそうです。
この事故は、他の自然公園内の事故とともに登山道の事故においても参考になりそうです。

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