ミステリーツアーの契約内容~この宿、この食事は契約違反?

この記事で扱っている問題

バス旅行のミステリーツアーでは、申込時には食事の詳細な内容、宿泊施設については明らかにされません。
そこで、実際の食事、宿などが予想していたものとは異なっていた場合でも、旅行会社に対し、一切の法的な責任を問えないのでしょうか。

ここでは、ミステリーツアーの契約に関し、その契約の特殊性、どのような場合に旅行内容に関する債務不履行責任が生じうるかを、裁判例に基づいて解説します。

ミステリーツアーの契約に関する問題

ミステリーツアーへの不満

Aさんは、一人旅をしようと考え、駅に置かれていたバスツアーのパンフレットを家に持ち帰り、「ミステリーツアー」と書かれた1泊のバスツアーを申し込みました。
Aさんは、パンフレットに掲載されていた部屋のイメージ写真が和室であったことから、久しぶりに畳でくつろごうと楽しみにしていました。
ところが、当日割り当てられた部屋はシングルルームの洋室でした。
Aさんは、旅行会社が旅行契約を守っていないのではないかと思い、翌日も楽しめないまま、不満を残して帰宅しました。
Aさんは、契約を守っていないと主張して、旅行会社に対し、損害賠償を求めることができるのでしょうか。

ミステリーツアーの契約上の問題点

Aさんのケースでは、

①申し込んだバスツアーの内容が、広告とどのように異なっていた場合、旅行契約の債務不履行を理由として損害賠償を請求できるのかという点

②Aさんが申し込んだバスツアーが「ミステリーツアー」であるという点

が問題となりそうです。

尚、バスツアーでは、目的地を秘匿したまま募集するミステリーツアーは人気企画といわれており、多くの日帰り・宿泊のミステリーツアーが企画・募集されています。

バスツアーの契約履行が問題となった裁判例

バスツアー契約の債務不履行が問題となった裁判例

まず、①の点に関連した裁判としては、バスツアーの参加者が、旅行中に提供された昼食が広告には、「きのこバーベキュー」と記載され、ドラム缶を半分にしたような形状のバーベキューグリルで食材を焼くイラストが掲載されていたのに対し、実際の昼食は、卓上ガスコンロに鉄板を載せキノコ等を焼くものであったことから、期待が裏切られたとして、旅行契約の契約を解除し、旅行費用の返還と債務不履行及び不法行為に基づく慰謝料の支払い等を求めた事件があります。

この事件の控訴審(東京地判平成18年9月5日)において、裁判所は、

・・・募集型企画旅行に参加しようとする者にとっては,主催者等が作成する広告が旅行内容に関するほぼ唯一の情報源であるから,旅行参加者に誤った期待を抱かせることがないよう,広告に掲載する説明やイラスト等は,実際に提供されるものと同一のものを用いることが望ましいというべきで・・・本件旅行における昼食について,広告に掲載されていたイラストと実際に提供されたものとでは,使用する器具が異なっていたというのであるから,旅行参加者の誤認を防止するという観点からは,必ずしも適切ではなかったといえなくもない。・・・ しかし,・・・本件旅行で提供された昼食も社会通念上はバーベキューといい得ることから・・・上記の点を考慮しても,広告における説明文及びイラストと実際に提供された昼食とが異なっていて,控訴人らの期待が裏切られたことが,債務不履行や不法行為に該当するとまでは認めることができないというべきである。

東京地判平成18年9月5日

と判示して、参加者の請求を棄却した1審の簡裁判決を支持し、控訴を棄却しています。

しかし、この判決では、卓上ガスコンロに鉄板を載せ焼いたものも「バーベキュー」といいうることから、適切ではないものの、債務不履行や不法行為責任が生じるほどのものではないとして請求を棄却しています。

そうしますと、この判決の趣旨からしても、調理室で焼いたキノコを皿にのせて提供していたのであれば、損害賠償請求が認められる余地があったと考えることができそうです。

Aさんの場合、写真が和室であったにもかかわらず、実際に割り当てられた宿泊室が洋室で、この違いが問題となっています。
上記の裁判例の趣旨からしますと、この違いをどのように考えるかにより、損害賠償請求が認められるか否かが異なってくるものと考えられます。

和室も洋室も上位概念の「宿泊施設」という括りに含まれるととらえると、損害賠償請求は認められないと考えることになりそうです。
一方、「和室」と「洋室」を異なるものととらえると損害賠償請求が認められる余地はあるように思われます。

ミステリーツアーの裁判例

更に、Aさんの場合に問題となるミステリーツアーは、通常のバスツアーのように行程を明確にして募集できるものではなく、募集時に行程を秘匿して参加者を募る必要がある旅行商品です。
このような旅行商品としての特殊性が、旅行契約の性質、内容に対し、どのように影響するのかを考える必要があります。

このようなミステリーツアーの債務不履行が問題となった裁判としては、バスツアーの夕食および宿泊先ホテルの部屋等が、広告に掲載されていた説明文と異なり、期待が裏切られたなどとして、参加者が損害賠償等を求めた事件(東京地判平成24年10月15日)があります。

この事件では、原告である参加者は、

①宿泊部屋について、「バスルームとトイレ付き」と、バスルームとトイレが別のスペースになっているように広告には記載されていたが、実際にはバスルームとトイレが独立していないユニットバスであったこと

②客室の例として洋室の写真が広告に掲載されていたが、実際には一間の和室であったこと

③夕食のバイキングに供された食事が参加者の人数に比べ少なく、補充もされなかったこと

といった点が、広告に掲載されていた説明文と異なっていたと主張しました。

これに対し、被告である旅行会社は、

・・・被告は・・・広告記載の内容と一致する本件旅行を催行したもので,旅行業法の禁止する誇大広告には当たらないし,また広告表示について本件通達に違反するものではなく,債務不履行及び不法行為も成立しない。・・・本件広告において,バスルームとトイレが独立しているとは表示していないし,原告らが宿泊した部屋は広告記載の広さを満たしており,夕食のバイキング料理は,和食・洋食・中華の各シェフによる特製料理をはじめ30種類以上の品を60分間以上にわたり提供し,必要に応じて補充していたから,誇大広告には当たらない。また,本件旅行はいわゆるミステリーツアーであり,旅行者に新鮮さや驚きを与えるという企画である以上,宿泊施設等の詳細について広告表示に記載しないのは当然のことであって,本件通達においても許容されるものであるし,原告においても,宿泊施設等の詳細が表示されていないことを了承した上で申込みをしたものというべきである。

東京地判平成24年10月15日

と主張しました。

裁判所は、旅行業公正取引協議会の調査結果等から、

本件旅行は本件広告の記載内容と一致する催行内容であったと認められるので,本件広告は旅行業法の禁止する誇大広告には当たらないと認められる。

東京地判平成24年10月15日

として、誇大広告には該当しないと認定しています。

更に、ミステリーツアーの特殊性について、

本件旅行はいわゆるミステリーツアーであり,顧客において,旅行先,宿泊施設及び食事の内容等があえて特定されていない募集型企画旅行であることを了承した上で,申込みをする性質のものと認められるから,本件通達に従った広告表示がされていない旨の原告主張は失当と言わざるを得ない。

東京地判平成24年10月15日

と判示しています。

詳細は不明ですが、問題となったバスツアーが、ミステリーツアーという宿泊施設などの内容を事前にあえて特定されていない旅行企画であり、参加者も、そのことを了承の上で旅行契約を締結していることから、参考写真が、実際の部屋と多少異なっていたとしても、契約違反にはならないと判断しているものと考えることが出来ます。

尚、判決では、部屋の広さについて、募集広告では「35平方メートル以上のお部屋」とされていたのに対し、実際の部屋について「部屋は,和洋室ともに・・・37.38平方メートルであるが,デッドスペース・・・を除くと36.255平方メートルであった」と詳細に認定しています。
この認定からは、参加者の中には洋室を提供された人もいたものと考えられますし、部屋の広さも募集広告のとおりであったと言い得ます。

ミステリーツアーの旅行契約に対する考察

上記の裁判例からも、次のことがいえそうです。
尚、ここでは、旅行業法に関しては触れません。

ミステリーツアーの場合、旅行商品としての性質から、食事内容、宿泊施設を特定しないことを知ったうえで、参加者は旅行契約を締結しています。
そのことから、広告の写真、イラストと実際の旅行内容が多少異なっていても、債務不履行責任が生じることにはなりません。

しかし、ミステリーツアーといえども、事実と異なる記載、あるいは積極的に参加者を誤認させることまで許容されるものではありません。
募集広告に数字を記載した場合はその数字をみたすこと(部屋の広さ、食事の皿数などの数字が明記されていた場合は、明記された数字)、参考写真、イラストについても、明らかに実際と異なるようなものを掲載することまで許容されるものではなく(夕日が海に沈む眺望の、室内風呂のある広々とした和室の写真を募集広告に掲載しながら、参加者全員に対し、窓から隣のビルの壁しか見えない狭い洋室が割り当てられていたような場合は問題となりえます。)、そのような場合は、旅行会社の契約違反が認定され、損害賠償請求が認められる余地もあります。

したがって、上記の裁判例の趣旨からしますと、Aさんの場合、参加者全員が洋室を割り当てられていたといった特段の事情がない限り、旅行会社に対し損害賠償を求めることは難しそうです。

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