雇用

同僚・部下の不正行為を調査報告しなかった従業員の懲戒処分

AさんとBさんの問題

従業員500名の会社で、原料の仕入部門に所属するCさんは、取引先と結託して架空の仕入処理をおこなう等して数千万円を会社からだまし取り、それを会社が知るところとなり、懲戒解雇されました。
Cさんと同じ部署で仕事をしていたAさん(役職のない担当者)は、Cさんの仕入れに関して何かおかしいと思ってはいたのですが、具体的な事実を確認していたわけではなく、不正に関する確証はなく、特に会社に報告することはしていませんでした。
このような事情のもと、Cさんが懲戒解雇されてから間もなくして、Aさんは、Cさんの不正の疑いを会社に報告しなかったことを理由として、減給の懲戒処分を受けることとなりました。
一方、Bさんは、Cさんの直属の上司で仕入部門を統括する責任者の部長でした。
Bさんは、Cさんの不正行為に薄々気付いてはいましたが、確証を持つには至っておらず、特に調査することも、会社に報告することもしていませんでした。
そうしたところ、Cさんが懲戒解雇されてから間もなくして、Bさんは、Cさんの不正の調査も会社への報告もせずに、会社の損害を拡大させたとして、懲戒処分として部長職から次長職に降格されることとなりました。
AさんもBさんも、今回の懲戒処分に関しては不満を抱いています。
AさんとBさんは、各々の懲戒処分が不当であるとして、会社に対し懲戒処分の撤回を求めることは出来るのでしょうか。

部下の不正行為を調査報告しなかった上司の懲戒処分

まず、会社は、就業規則で定められた範囲内でのみ懲戒処分をなし得るのが原則ですから(労働基準法89条9号参照)、減給、降格という懲戒処分が就業規則に明記されていないと、会社はAさんとBさんに対して、減給、降格といった処分はなし得ません。
それでは、就業規則上、減給、降格を懲戒処分としてなし得るとした場合、Aさん及びBさんに対し、上記の各処分をなし得るのでしょうか。
まず、Bさんについて考えてみます。
今回の事例と類似した事案の裁判として、部下の横領行為を見過ごしたことを理由として懲戒解雇された人が地位確認を求めた大阪地判平成10年3月23日がありますが、この裁判の判決の中で、

原告がAの横領行為に積極的に加担ないし関与した・・・とまでは断定できないものの・・・Aが経理手続を一手に握っている以上、原告が健全な常識を働かせればAの行為に不審の念を抱き、同人が被告の金員を横領していることを容易に知り得る状況にあったということができる。そして、原告が・・・営業所長(ないし所長代理)として経理関係書類をチェックしていれば容易にAの横領行為を発見できたのであり・・・確認照合するなどしさえすればAの横領行為をたやすく発見し得たにもかかわらず、原告が経理内容のチェックを著しく怠ったため、Aの横領行為の発見が遅れ、その結果、被告の被害額を著しく増大させたということができ・・・被告就業規則・・・に規定する「重大な過失により会社に損害を与えたとき」に該当するものということができるので、本件解雇は有効である

大阪地判平成10年3月23日

として、懲戒解雇処分を有効としています。
ここでは、懲戒解雇された人が、営業所長あるいは所長代理として、横領をしていた部下を管理監督する立場にあったことに留意が必要です。
また、この事案では、懲戒解雇された人が、部下の横領の事実を調査し得る権限も有していたことも処分の有効性判断の要因となっている点にも留意が必要です。
Bさんの場合、詳しくは分かりませんが、少なくともCさんの上司で、仕入部門を統括する責任者なので、Cさんの業務を管理監督する立場にあったといえますし、仕入部門の伝票、納品書、検収書、在庫管表などを調査する権限も有していたと思われます。
そうしますと、Bさんに対し、何らかの懲戒処分をおこなうことは可能であると思われますし、上記の裁判例からしますと、降格処分は処分として重すぎるとまでは言えないように思われます。

同僚の不正行為を報告しなかった平社員の懲戒処分

一方、Aさんですが、Aさんは、いわゆる平社員であり、同僚に過ぎないBさんを管理監督する立場にありません。
また、詳細は分かりませんが、平社員であるAさんは、同僚の仕入れ関係の伝票、納品書、検収書、在庫管理表等を調査する権限があったとは言い得ないように思われます。
AさんがBさんの横領行為について確証を抱いていたような場合は、Cさんの不正を助長したとも言い得、その場合は懲戒処分をなし得るのかもしれません。しかし、AさんはCさんの仕入れの何かがおかしいと思っていただけなので、Cさんの不正を助長したとまで言い得ないと思われます。
そうしますと、職務上、Cさんの管理監督者ではなく、また、特に不正を調べる手段を持たないAさんを、単にCさんの仕入れの何かがおかしいとAさんが感じていたというだけで懲戒処分をおこなうことは難しいと思われます。
したがいまして、Aさんは、会社に対し、懲戒処分の不当性を主張して、減給された分の賃金の支払いを求めることが出来そうです。

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