その他

遠足時の転落事故と国家賠償法責任について

問題の所在

遠足の児童が公営の公園あるいはその近くで死傷した場合、①公園の管理者は国家賠償法2条1項の公の営造物の瑕疵責任をどの範囲まで負うのでしょうか。また、②公園の設置管理者が同条の責任を負う場合、児童の落ち度を認定し、過失相殺を出来るのでしょうか。
③更に引率の教員も過失責任を負い、公園の管理者との間で共同不法行為が成立する場合、公園の設置管理者および教員の児童との間のそれぞれの過失相殺の割合は同じになるのでしょうか。
今回は、遠足で山頂に設けられた公園に出かけた児童が、公園あるいは公園に隣接した場所から転落し、入院後に死亡した事故の判決をとおして上記の点について考えてみます。

裁判事例の問題点

裁判概要

この事故は、地元地方公共団体(以下「甲」といいます。)の設置、管理する公園に公立小学校(当該小学校の設置者を「乙」といいます。尚、甲と乙とは別異の公共団体です。)が遠足を実施したところ、公園内の展望台付近で昼食をとった後に展望台のやや下方の斜面を駆けて遊んでいた児童(以下「A」といいます。)が、斜面下方にあった高さ約4mの崖から転落し、病院に運ばれましたが、1か月弱後に死亡したものです。
この事故で、遺族は、事故のあった公園は甲の設置管理下にある公の営造物であるとし、その設置、管理に瑕疵があったとして国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を求めるとともに、小学校の校長及び教員に注意義務違反があったとし、設置者である丙に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を連帯して支払うよう求めました。

公の営造物性について

この事故の甲に対する請求における争点のひとつは、事故が発生した場所である崖が甲が設置管理していた公園の一部かあるいはその一体をなす場所といえ、崖を国家賠償法2項1条の公の営造物として評価できるかという点です。
甲は、この点について、崖は人工的掘削により生じたものではなく、遊歩道等は公の営造物だが、崖は公の営造物ではないと主張しました。
これに対し、裁判所は、

・・・(事故のあった公園は、)山頂付近に展望台、休憩舎、駐車場、便所等が設けられ・・・芝生広場及び遊歩道がある・・・自然公園として自然公園法四一条、四二条により設置された・・・ものである・・・

斜面は、かつては樹木に覆われていたが、甲は、これら樹木を全て伐採した上で芝を植えて広場とし、桜を植樹し、遊歩道をつけるという形で人工的に作り変えた・・・斜面上の草については定期的にこれを刈り取って・・・崖の下の底状の地面は、甲による車道造成に関連して、人工的に掘削されて形成されたものであり、本件事故発生時より相当以前から存在していた・・・

公園のうち、展望台、休憩舎、駐車場、便所等が設けられている・・・山頂付近から本件斜面(芝生広場及び遊歩道がある。)及び本件崖を含む一帯は、大勢の人々が訪れることができるようにするために諸設備を設けて一つの公園として造成したものであって、国家賠償法二条一項にいう「公の営造物」に該当すると解するのが相当・・・

右一帯内に存在する個々の設備は一つ一つが他と無関係に存在しているのではなく、互いに他の設備と場所的・機能的に密接に結び付き合うことによって、その存在意義が認められるのであるから、これら設備を包含した地域を一体として扱うのが相当である。また、仮に「公の営造物」の意義を狭く解し、本件崖自体は公の営造物ではないとしても、芝生広場は公の営造物であると解すべきところ、その芝生広場の延長上に本件崖が存在することによって、芝生広場が瑕疵を帯びることになる・・・

として、崖部分も公の営造物に該当すると判示しています。
ここで、裁判所は、崖も公園のその他の施設と一体となっていると評価できるから公の営造物に含まれるとしていますが、上記引用部分の最後に、崖が公の営造物に含まれなくとも「芝生広場の延長上に本件崖が存在することによって、芝生広場が瑕疵を帯びることになる」と述べています。
このように、実際の事故原因となった物あるいは場所をストレートに公の営造物と認定し辛い場合、他の公の営造物の物的・場所的範囲を拡大し、原因物・場所を他の公の営造物と一体としたものであると捉える方法と、他の公の営造物の管理範囲を拡張して、他の公の営造物の周辺に内在的な危険を有する物・場所があった場合、他の公の営造物の安全性を担保するためにもその周辺物・環境の管理が必要と捉え、他の営造物の瑕疵を問題とする方法があります。
このことは、前にブログ記事でもみました、温泉旅館の雪崩事故における国有林野の公の営造物性、尾瀬木道枝落下事故、奥入瀬渓流落木事故などでも問題となっています。
本件の事故現場の崖は、崖の上も下も公の営造物となっており、また、公の営造物との間を区切る施設・設備等もなく、崖を公の営造物と一体のものと評価するのが容易であったことから、裁判所は、前者の方法で公の営造物性を認定したものといえます。
その上で、

本件斜面及ひ本件崖を含む一帯は、幼児や児童が頻繁に利用する自然公園として通常有すべき安全性を欠いていたものであり、公の営造物の設置管理に瑕疵があったというべきであるから、甲には、国家賠償法二条一項により、原告らの損害を賠償する責任がある。

仮に、本件崖自体は公の営造物ではないと解する余地があるとしても、芝生広場の延長上に本件崖があり、しかもその間に何らの障害物もなく、芝生広場を中心に遊んでいるうちに本件崖に近づき、そこから転落してしまう危険が認められる以上、公の営造物である芝生広場が幼児や児童の頻繁に利用する場所として通常有すべき安全性を欠いていたものと解すべきであるから、甲は、国家賠償法二条一項による責任を免れない。

と、前者の立場で瑕疵を認定した上で、上記引用部分の第2段落において、念のため、後者の立場でも「公の営造物である芝生広場が幼児や児童の頻繁に利用する場所として通常有すべき安全性を欠いていた」といえ瑕疵が認定できるとした上で、国家賠償法2条1項の責任を甲に対し認定しています。

引率教員の注意義務違反について

一方、乙に対する責任の根拠となる引率教員の注意義務違反に関し、裁判所は、事前に遠足の下見をしていた教員について、

昼食をとり終えた児童が集合時間まで遊ぶことは容易に予測でき、とりわけ同所が芝生広場であってみれば、児童がここを走るなどして行動範囲を広げてみたくなることも明らかである。そして、本件斜面が・・・教諭自身危険を感じたような急な斜面であった以上、児童が走った勢いで斜面の下方まで行ってしまうことは、容易に予測できることである。このような地形の状況をふまえて考えると、児童を遠足に引率する教員としては、斜面の下方がどのようになっているかを見分しておくべきであり、また、この部分を見分しておけば、本件崖の存在を容易に現認することができたことは明らかである。そしてこれを現認していれば、児童に対し、単に走ることが危険であることを注意するにとどまらず、本件崖に近づかないように指示するなど、これに対処する方法を講ずることができたものと考えられる。

 しかるに・・・教諭は、本件斜面の下方部分を十分に下見しなかったため、本件崖の存在に気がつかなかったのであるから、同教諭には、下見に関し過失があったと言わざるを得ない。

として、その下見行為に過失があったことを認定し、乙に対し、国家賠償法1条1項の責任を認定しています。

過失相殺について

ところで、本件では、事故にあった児童が小学生ではありますが、過失相殺を認めています。
以前、友人と鬼ごっこをしていた時に帽子が風に飛ばされ、その帽子を取ろうと引率教員の許可を得た上で、崖から降りようとして転落した石鎚山転落事故をみましたが、その事故では、生徒の落ち度を否定し、過失相殺を認めていません。
本件は事故にあったのが小学校児童ですから、年齢面でいえば、石鎚山転落事故より過失相殺が認められにくい事案ではあります。しかし、事故の発生した場所の状況、事故態様等から、本件事故の児童の方が落ち度が認められやすい状況にあったと言えるのかもしれません。
裁判所は、この点について、

・・・公園到着後、・・・教諭が児童に対し、斜面で走ってはいけない旨の注意を与えたこと、本件斜面は傾斜角度が二○ないし三○度ある急斜面であること、Aが斜面を駆け降りて遊んでいたこと、それが本件事故を重大なものにした一つの要因になっている・・・注意は公園到着後二度にわたって繰り返されたもので・・・本件事故の発生につき、Aにも過失があったと認めるのが相当である。小学校四年生の児童が遠足に行って、解放感や冒険心から、広場のようなところで走り回りたい気持ちになることも理解できないではないが、同所は急な斜面であり、先に何があるのか分からない状態である上、引率の教諭から繰り返し注意を受けていたのであるから、同女の年齢(九歳)に照らせば、走ることが危険であるという警戒心を持つことが不可能であるとまでは言えず、従って、右の注意に背き、また下方の状況を警戒をせずに走ったことについては過失があったと言わざるを得ない

と認定しています。
ここで、問題は、甲と乙は、共同不法行為として審理されていたのですが、各々の過失相殺の割合については、

過失相殺の割合は、原告らと乙との関係では五割、甲との関係では二割とするのが相当である。なお、このように各被告らとの関係で過失相殺の割合を別異に認定することは、各被告らについて別個に訴えが提起された場合には通常当然に起こり得ることであり、たまたま共同不法行為の関係にあるとして併合審理されたからといってこの結論が変わるものではない

として、異なる過失相殺の割合が認定している点です。
やはり、Aの落ち度らしさは、引率教員が注意した行為との間で強く働いており、本来、物の客観的な瑕疵が問題となると考えられている公の営造物の設置管理上の瑕疵責任との間ではそれ程強く働かなかったとも言えます。
その意味では、損害の公平な分担という観点からは、甲と乙に対する過失相殺の割合が異なるのは公平であるということになるのかもしれません。
尚、国家賠償法2条1項に関しても過失相殺がおこなわれている点も、同条の瑕疵の認定との関係では留意が必要です。

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