登山事故

山岳地帯での事故における法的責任について(その4)

これまで、商業ツアーにおける主催者の責任及びその非商業ツアーのパーティー登山事故でのリーダーの責任についてみてきました。
今回は、登山ではありませんが、23)同好会的性質のスキースクールの仲間内で実施されたスキーツアーにおいて、スキー場の立入禁止区域において滑走していたところ、雪崩に巻き込まれて死亡した事故(スキー場外雪崩事故)の判決をみながら、自己責任と同行者の責任の範囲、スキー場の立入禁止区域へのスキー場運営会社の責任についてみてみます。

この23)スキー場外雪崩事故は、同好会的性質を有するスキースクールの仲間がスキー場の立入禁止区域での滑走を予定して出かけたスキーツアーにおいて、グループに分かれて行動していたところ、5人のグループが立入禁止区域で滅多にスキーヤーが入り込まない相当の急斜面で滑走することとなり、グループの3番目に滑走した雪山の経験・知識が豊富で、新雪滑走を得意とし、ゲレンデスキーよりも山スキーを好み山スキーの経験がスキーツアー参加者の中でも最も長かった人(以下「A」といいます。)が滑走している途中で、Aの次に滑ってきた人(後述の「丁」)と更に丁の後ろからグループの最後尾で滑ってきた人(以下「B」といいます。)の間で、当該グループの滑走により刺激が与えられたことにより、積雪内部の弱層が破壊され、それが伝播して広がった人為的な面発生の乾雪表層雪崩が発生し、この雪崩にAが巻き込まれて雪に埋没し、約1時間後に掘り起こされ病院に搬送されたのですが、病院において窒息による死亡が確認されたという事故です。
この事故後、Aの遺族は、スキー場の経営、管理会社(以下「甲」といいます。)並びにスキースクールの主宰者・リーダーとされる人(以下「乙」といいます。)、サブリーダー的立場で事故時の滑走グループのリーダー的立場だった人(以下「丙」といいます。)及びAの後ろから滑走してきた上記丁に対し、連帯して金1億円余りの損害賠償を求めて提訴しましたが、1審裁判所では請求が棄却されました。その後、控訴されましたが、控訴も棄却され確定したようです。

まず、甲の雪崩の危険告知義務ないし立入防止措置義務を怠った過失の検討に際し、裁判所は、

一般に、スポーツは常にある程度の危険を内在するところ、殊にスキーは、山の自然の地勢を利用したスポーツであり、滑走面の状況、スキーヤーの滑走技量ないし熟練度、滑走態様、滑走速度、気象条件等に応じてその危険の程度は様々であるとしても、その性質上高度の危険を伴うスポーツであるということができる。そして、スキーにおいて、どのような注意配分をし、滑走コースを選択し、速度を調節するかは、ひとえに当該スキーヤーの自由な判断に委ねられており、その判断に基づきコース状況と自己の技量に応じて斜面を滑走することを本質とするものである以上、スキーヤーは、スキーそのものに内在する危険を承知しているものと見なされ、スキー滑走に伴う具体的危険に対しては、当該スキーヤー自身の責任において、危険を予見、回避するなどの安全管理を行い、自己の技量に応じた滑走をすることに努めるべきである

また、スキー場を滑走するスキーヤーは、本来滑走が予定されている経路(ゲレンデ)を滑走すべきものであって、滑走予定先の雪面が通常の滑走に適さない区域、殊に、スキー場管理者によって滑走を禁止された区域であることを知りながら、敢えて同区域を滑走する場合には、当該スキーヤー自身の責任において、同区域におけるスキー滑走に伴う危険を予見し回避するなどの安全管理義務を負担しているものというべきであって、このような義務を尽くさずに危険に遭遇し、死亡、負傷することになった場合、その結果は原則として当該スキーヤー自身において甘受すべきものと解するのが相当

と判示しています。
引用部分の最初の段落は、スキーヤーの自己責任について摘示したものですが、登山、特にクライミング、高山の雪山登山等の高度の危険を伴う登山においても参考になると思われます。
2つ目の段落は、立入禁止区域でのスキーにおける危険の負担の原則について触れている点で、スキー場のリフトを利用したバックカントリースキー(スノーボード)において参考になると思われます。
尚、1審判決では、甲の上記過失に関し、

甲に原告主張のようなAに対する過失があり、安全配慮義務に欠けるところがあったと認めることはできない。かえって、本件雪崩は、Aを含む乙グループが本件立入禁止標識を無視して、スキーヤーがほとんど立ち入らない本件立入禁止区域や(事故現場)斜面に強いて立ち入り滑走するというスキーヤーとしての基本的な行為規範に違背し、(事故現場)斜面を複数人が滑走するという過失に起因して発生した事故というべきであって、甲の管理上の過失によるものということはできない

と明確にその過失を否定しています。
尚、原告は、事故現場にも民法717条1項の工作物責任が及ぶと主張し、その過失責任を主張していましたが、

・・・(事故現場)斜面は急峻で滑走に適さない斜面であり、甲においては、(事故現場)斜面部分については借地の対象外とし、営業許可上も滑走コースとしておらず、そのため、本件スキー場開業当時から樹木の伐採や地盤の造成などの整備を全く施さずに自然の状態のまま放置してきたものであり、スキーヤーを(事故現場)斜面を含む本件立入禁止区域内に立ち入らせないよう本件立入禁止標識等の進入禁止措置を施していたことなどの事情に照らせば、(事故現場)斜面について、甲の事実的支配は及んでおらず、人工的作業が加わった斜面とはいえないというべきであるから、(事故現場)斜面が被告会社の占有する土地工作物であるとの原告の主張は理由がない

と判示しています。この判示部分は、スキー場の立入禁止区域でのバックカントリースキー(スノーボード)において参考になろうかと思われます。
隣接していても、スキー場と立入禁止区域を一体として立入禁止区域も土地工作物に含まれると主張するのは、立入禁止区域もスキー場運営会社が占有しているといいうる、あるいは、一定の整備をおこなっている等の特段の事情がない以上困難なように思われます。
このように、1審裁判所は、甲の過失責任及び土地工作物責任ともに否定し、甲への請求を退けています。

次にツアーのリーダーの責任についてみてみます。
まず、乙の過失の検討に際し、1審裁判所は、

スキーには本来的に相当高度の危険が内在するもので、スキーヤーは、原則として、スキー滑走に通常伴う具体的危険を自身の責任において予見、回避すべきことは前記のとおりであるが、スキーツアー等を主催しあるいは他のスキーヤーを指導しようとする者が、当該ツアーの参加者を自己のツアー実施計画下ないし自己の指導下におくことでその行動に一定の制約を課することになる場合には、当該参加者が自ら対処しうる危険の範囲を超えた危険に直面することのないよう、参加者らの装備、技術、経験及び体力等に相応した日程のもとで、コース選択、指導を行うべき義務を負い、これを尽くさずスキーヤーを危険に曝した場合は不法行為が成立するものというべきである

としています。
ツアースキーの場合も、参加者の自己責任が原則ではあるものの、主催者あるいは、指導者等により、参加者も一定の範囲で行動を制限されることにより、その分、参加者の自己決定権も制約を受けざるを得なくなります。つまり、参加者が本来は判断していた事項の一部を主催者・指導者が担うことになる分、主催者・指導者は参加者に対し責任(注意義務・安全配慮義務)を負うこととなり、その分、参加者の自己責任は軽減されることになるのだと裁判所も考えているのであろうと思われます。
そのこともあり、この事故の判決の上記引用部分でも、

・・・主催しあるいは・・・指導しようとする者が・・・参加者を自己のツアー実施計画下ないし自己の指導下におくことでその行動に一定の制約を課することになる場合には

とツアースキーの場合、いかなる場合においても主催者・指導者に責任が生じるとするのではなく、その責任が生じる場合を制限しています。
このこともあり、判決は、上記引用に続いて、

・・・スキーにおいてスキーヤーが本来的に甘受すべき危険の程度は様々であることに鑑みれば、当該スキーツアー主催者あるいは指導者が負うべき右義務の内容、程度も当該具体的事案に応じて様々であり、結局、前記1の(一)に掲げた事情のほか、当該ツアー等に参加した参加者のスキー技量や経験、参加者の当該ツアーへの参加形態など種々の事情を考慮のうえ、その相関関係に応じて、個々具体的に判断するのが相当というべきである

としています。その上で、

・・・スキースクールの実態、本件スキーツアーの参加者のスキー技量、本件スキーツアーの趣旨及び実施状況等の諸事情を総合すれば、同スクールの実態は、主として趣味としてのスキーをともに楽しむという目的の下に創設された集団であり、また、本件スキー場での滑走も各参加者らが足慣らしとして自由に好きなルートを好きなように滑るという趣旨で行われているものであるから、本件スキーツアーにおける乙の立場は、本件スキーツアーの幹事的立場にあった参加者の一員としての性格を超えるものではなく、乙が他の参加者の指導やルート指示などを事細かに指示すべきリーダーないし指導者としての立場にあったとまでは認められない。また、Aは、乙が(事故現場と別の)斜面を滑り始めた後に、他の6名とともに(事故現場)斜面上部に向かったものであって、乙が敢えてAを危険箇所に誘導しあるいは放置したとの事実も、本件雪崩を誘発したとの事実も認めることはできない。よって、乙には、原告主張のようなAに対する過失を認めることはできない

として、乙が実質的に主催者あるいは指導者的立場ではなかったとして、裁判所は、乙の責任を否定しています。

続いて、丙の責任についても裁判所は、

丙は、乙から請われて・・・宿泊所の予約をとり、本件スキーツアーに参加したに過ぎず、また、・・・(事故現場)斜面上部への行程も、丙グループ6名が三々五々新たな新雪を求めて移動したもので、丙が(事故現場)斜面に誘導したものではなく、丙が(事故現場)斜面を最初に滑走したのも、かつて同斜面を滑った経験があり、他のメンバーから「お先に」と請われたためであり、Aを含む他の参加者が丙に先導されて・・・(事故現場)斜面に向かったとの事情は認められない。これに・・・スキースクールの実態、本件ツアーの参加者のスキー技量、本件スキーツアーの趣旨及び実施状況等の諸事情を総合すれば、丙についても・・・参加者としての立場を超えるものとはいえず・・・サブリーダーないし指導者として参加していたとは認めることはできない。よって、丙について原告主張のようなAに対する過失を認めることはできない

として、丙がサブリーダーあるいは指導者的立場になかったことを認定し、主催者・指導者としての責任を否定しました。

更に、原告は、雪崩を引き起こしたことに対する丙及び丁の単独での過失責任及び丙及び丁の共同不法行為責任を主張していますが、裁判所は、この点について、

証人・・・は、本件雪崩の発生機序について、本件雪崩は自然発生の雪崩ではなく、滑走者の滑走が契機となって発生したものであるが、複数滑走者が同一斜面を滑走した場合に、後続の滑走者の滑走中に雪崩が発生するというケースも多く、その場合にどの滑走者が雪崩発生の直接の原因を作出したかは特定することができないことがあり、また、特定の滑走者の影響か、滑走者全員の影響かも不明というほかない旨供述するところであって、右供述によれば、丙の滑走が本件雪崩の発生について直接の原因となったと認めることはできず、他に右の供述の信用性を左右するに足りる証拠はない。また、丙の本件雪崩発生についての共同不法行為(民法719条1項後段)の成否についてみても・・・丙の滑走が、(訴外の別の参加者)、丁の滑走と相まって本件雪崩の発生に何らかの影響を与えた可能性についても不明というのであり、Aが本件雪崩発生の直接の原因を作出した可能性も否定できない以上、丙あるいは丁の滑走が本件雪崩及びAの死亡の結果を惹起せしめたとまでは認めることができず、共同不法行為が成立するとはいえない

として、雪崩を引き起こしたことに対する丙個人の過失責任及び丁との共同不法行為責任の成立のいずれも否定しています。

また、裁判所は、雪崩を引き起こしたことに対する丁個人の過失責任も丙と同様の理由により否定しています。

更に、原告は、甲、乙、丙、丁がAの救助義務を怠った過失責任があると主張しましたが、これも否定されています。

23)スキー場外雪崩事故の判決では、スキー場に隣接した立入禁止区域の法的性質及び管理責任について参考になります。
また、ツアー主催者・リーダーの参加者に対する注意義務・安全配慮義務が生じる理由及びそれらの義務が課される主催者・リーダー該当性判断において実質的な検討を要する必要性及びその時の判断要素を考えるにあたり大変参考になります。
このように、この事故の判決は、商業ツアーにおける主催者・リーダーの責任並びにそれ以外のパーティー登山におけるリーダーの責任及び参加者の自己責任を考える際にも参考になるものと考え、ここで扱うこととしました

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