雇用

学歴・職歴の虚偽記載による解雇

問題の所在

AさんはX株式会社の総務部員の中途採用に応募しました。Aさんは失業中ということもあり応募の際に大学を留年していたのにもかかわらず履歴書には4年で卒業したと書き、本当は以前の職場では経理の仕事しかしたことがないのに経理以外にも総務の経験がある旨記載し採用されました。
Aさんは見事X社に採用され総務部に配属されました。
Aさんは本屋で「総務のお仕事」と「会社における総務の仕事」という本を買うとともに、社外の友人に総務の仕事内容を聞きなんとか日々の業務を大過なく過ごしてきました。
しかし、入社から9カ月たったある日人事部長から呼び出され学歴と職歴の虚偽記載を理由に懲戒解雇を告げられました。
Aさんは仕事の上ではミスはないのだから問題ないだろうと納得できません。
Aさんは、会社に対し何かいえるのでしょうか。

Aさんの場合、学歴詐称と職歴詐称による解雇が解雇権の濫用に該当するかが問題となります。

学歴詐称の懲戒解雇事由該当性

懲戒解雇事由になるとされた裁判例

まず、大学中退であったのに高校卒業として入社した学歴詐称及び前科等を理由とする懲戒解雇無効を主張した事件の東京高判平成3年2月20日では、経歴詐称、特に学歴詐称について次のように述べています。

雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者と使用者との相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるということができるから、使用者が、雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負うというべきである。就業規則三八条四号もこれを前提とするものと解される。

 そして、最終学歴は、右(1)の事情の下では、単に控訴人の労働力評価に関わるだけではなく、被控訴会社の企業秩序の維持にも関係する事項であることは明らかであるから、控訴人は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる。

このように、学歴に関しても必要かつ合理的な範囲で真実を告知する義務を負っていると考えられています。
この事件では、1審の判断を控訴審、上告審ともに支持していますが、その1審判決では、

「被告会社においては、旋盤工やプレスエについては、その職務内容及び他の従業員の学歴との釣合いという観点から、最終学歴としては、高等学校又は中学校卒業の者を採用することとしていた・・・

最終学歴は、右(1)の事情のもとでは、原告の労働力の評価と関係する事項であることは明らかであり、原告は、これについて真実を申告すべき義務を有していたということができる

として、学歴詐称は懲戒解雇事由として正当である旨の判断をしていました。
この事件では、募集していたポジションの人材としては、最終学歴が重要な要素であり、企業秩序の維持にも関係する事項であったため、学歴に関し真実を会社に申告する義務を負っていたとされました。そのため、学歴詐称も懲戒解雇事由となると判断されたものです。

懲戒解雇事由にならないとされた裁判例

一方、大卒者が高卒と偽っていた事案において、福岡高判昭和55年1月17日は、

・・・懲戒解雇は経営から労働者を排除する制裁であるから、経歴詐称により経営の秩序が相当程度乱された場合にのみこれを理由に懲戒解雇に処することができるものと解するのが相当で、控訴会社の就業規則の経歴詐称に関する前記条項も右の趣旨に解すべきものであるところ・・・会社は現場作業員として高校卒以下の学歴の者を採用する方針をとつていたものの募集広告に当つて学歴に関する採用条件を明示せず、採用のための面接の際被控訴人に対し学歴について尋ねることなく、また、別途調査するということもなかつた。

被控訴人は二か月間の試用期間を無事に了え、その後の勤務状況も普通で他の従業員よりも劣るということはなく、また、上司や同僚との関係に円滑を欠くということもなく、控訴会社の業務に支障を生じさせるということはなかつたのであるから被控訴人の本件学歴詐称により控訴会社の経営秩序をそれだけで排除を相当とするほど乱したとはいえず、本件学歴詐称に関する前記条項所定の懲戒事由に該当するものとみることはできず、本件主位的解雇の意思表示は・・・無効というべき

と判示しています。会社は現場作業員として高卒以下の学歴の者を採用する方針をとっていましたが、募集広告に学歴を採用条件として明示することをせず、また、採用面接においても学歴について尋ねることはせず、別途調査するということもなかったことから、学歴詐称により会社の経営秩序が相当程度乱されたとはいえないとして、学歴詐称を理由とする解雇を無効にしています。

懲戒解雇事由になり得る場合

これらの判決から、①特定の学歴を採用決定の重要な要素として重視している、②学歴により職能・資格等を決定している等の事情が認められるときは学歴詐称が懲戒解雇事由となり得ると考えられます。

職歴詐称の懲戒解雇事由該当性

次に、職歴詐称の問題ですが、上記の福岡高判昭和55年1月17日からも、

経歴詐称により経営の秩序が相当程度乱された場合にのみこれを理由に懲戒解雇に処することができる

と考えられるのですから、職歴詐称も必ず懲戒解雇事由となるというものではなく、経営の秩序が相当程度乱されるような事情がある場合、例えば、特定の職務経験を募集職に必要としていたり、職歴を重視していたような場合に懲戒解雇事由となり得ると考えられます。

Aさんの事例の検討

Aさんの学歴詐称は1年の留年の事実を秘匿したにすぎないことから、積極的に留年していない旨を面接の席で述べた等の特段の事情がない限り、これを理由とする解雇は無効と認定される可能性が相当程度あると考えられます。

一方、総務の経験がないのにあると履歴書に記載したのは、総務担当者を募集していたことからすると、募集条件で経験不問と書かれていたような事情がなければ解雇理由となりうるとも考えられます。しかし、入社後9カ月問題なく業務を遂行していることからすれば解雇理由とならないとも考える余地もあり得ます。

このように、学歴詐称、職歴詐称等の経歴詐称は必ず懲戒解雇事由になるというものではなく、懲戒解雇事由になり得るかは採用時の具体的な事情により異なるものと考えられます。

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