登山事故

審級で裁判所の判断が分かれた登山事故について(その2)

今回は、審級で裁判所の判断が分かれた登山事故として、19)堂倉吊り橋事故をみてみます。
この事故は、登山サークルの会員50名が参加した9月中旬の大台ケ原からの大杉谷一泊登山において、一行は堂倉吊り橋に午後3時前に到着、12~3名ずつ4班に分けられていた1班と2班が吊り橋を渡った後に、3班のリーダーの「三人ずつ渡ろう。」との指示に従い3班のメンバーが吊り橋を渡り始めたところ、先頭で渡り始めたリーダーが全長約46mの吊り橋の中央よりやや前方まで進んだところで吊橋を支えていたメーンワイヤー2本のうち1本が切れ、橋面が大きく傾いたことにより、吊り橋を渡っていたメンバー1名が墜落し重症を負い、やはり、吊り橋を渡っていた他のメンバー(以下「B」といいます。)は咄嵯に補助ワイヤーに両手でぶら下がったものの、力尽き約20m下の谷底に墜落、露岩に激突して即死した事故です。この事故で、遺族は、吊り橋の所在地である地方公共団体(以下「戊」といいます。)に対し国家賠償法2条1項に基づき、また、国(以下「丁」といいます。)に対し国家賠償法2条1項及び3条1項に基づき損害賠償を求め訴訟を提起しました。この裁判で、1審は戊に国家賠償法2条1項の責任を認め、丁に対しては、国家賠償法2条1項の責任は否定しましたが3条1項の責任を認めて損害賠償請求を認容しました。その後、控訴審は、過失相殺の割合を変更しましたが、丁と戊の責任に関しては、1審と同様の判断をしました。この控訴審の判決を受けて丁が上告したところ、上告審は、丁の国家賠償法3条1項の責任を否定し、原判決破棄、1審判決を取り消し、原告の請求を棄却しました。

この事故の裁判は、丁の戊への補助金の交付により、丁を国家賠償法3条1項の費用負担者と認定できるかという争点に関する1審及び控訴審の認定と上告審の認定が異なったことから丁への請求に関する裁判所の判断が変わったものです。事実認定の変更というより、法解釈・適用の相違により判決が変わった事案と言えます。尚、1審・控訴審は丁と戊の損害賠償債務を連帯債務と認定していますので、被害者(その遺族)への金銭面での損害の補填という点ではあまり影響はなかったものと思われます(戊も地方公共団体ですので、支払い能力という点で問題となるケースではなかったと思われます。)。

それでは、19)堂倉吊り橋事故の1審判決での丁及び戊の責任の認定についてみてみます。
戊の国家賠償法2条1項の責任に関して、裁判所は、まず、問題となった吊り橋について、

本件吊橋は、自然公園法一四条二項に基づき、戊が、環境庁長官の承認を受けて国立公園に関する公園事業の一部執行として、設置、管理するもので・・・国家賠償法上の「公の営造物」にあたる

と認定した上で、吊り橋に瑕疵があったかの検討へ移り、

本件吊橋のメーンワイヤーは、直径21.5ミリメートルであり、本来ならば・・・一〇名程度の渡橋者の荷重には十分耐えうるものである・・・が、本件事故当時、メーンワイヤーは、錆びて褐色化し腐食のひどい外側ではぼろぼろの状態であつたこと、とくに破断したメーンワイヤーについてみると、支柱上部に接するワイヤー支点部は、雨水の浸入を受けて、外周の素線は腐食し、内側の素線数本でもつている状態であり、その耐荷重は、設計時の約一〇〇分の四(約1.2トン)であつたことが認められ・・・本件吊橋は、本件事故当時、公の営造物たる国立公園内の歩道施設として通常有すべき安全性を欠いていたというべきことは、明らかである

と事故当時、吊り橋は性状的には通常有すべき安全性を欠く状態であったことを認定しています。続いて設置の瑕疵に関しては、

・・・設置時・・・耐荷重は約三〇トンであつたのであり・・・支点部に何らかの構造上の欠陥があつたとは考え難いことが認められるから、戊には本件吊橋に対する設置の瑕疵はなかつた・・・

と認定し、続いて管理の瑕疵の検討へ移り、危険の予見可能性について、

事故当時・・・吊橋の金属製部品は、一様に茶褐色にさびて、表面がざらざらしていたこと、破断したメーンワイヤーの腐食は・・・外観を注視すれば容易に腐食を発見できること・・・腐食の進行は通常で年間約0.2ミリメートルで・・・破断したメーンワイヤーの外層の素線・・・が完全に腐食するには約四年の歳月を要すること・・・によれば、本件吊橋のメーンワイヤーが腐食し、耐荷重が極度に低下していることは、容易に認識しえたというべきである。・・・戊は・・・本件吊橋の両側渡り口に「通行制限、一人づつゆすらないで静かに渡つて下さい・・・」との記載のある・・・警告板を設置し、これは、本件事故当時も存在していた・・・仮に、右警告板の指示が登山者の間で一般に遵守されるものであつたとすれば、一度に多数の登山者が本件吊橋を渡橋することを予見できなかつたということになり、危険の予見可能性の有無に影響を及ぼすこととなる・・・しかしながら・・・大杉谷線道路は、一泊二日の登山コースとしては比較的楽な、登山というよりはハイキングというべきコースで・・・スカートやヒール靴をはいたままの登山者もあること、近鉄がこれを一般用の登山コースとして宣伝していること、ここには年間約一万二〇〇〇名、シーズン中一日約五、六〇〇名の登山者が訪れること、現に本件事故当日は約四〇〇名の登山者が訪れていたこと、大杉谷線道路にかかる本件吊橋以外の各吊橋において、同時に五名以上の登山者が渡橋することが、しばしば見られること、・・・(Bの参加していたパーティー)も、大杉谷登山に際し、吊橋に通行制限がある場合、制限人数一人の場合は三人で、同二人の場合は五人で同時に渡橋する旨を打ち合わせていたことが認められ・・・警告板記載の「一人づつゆすらないで静かに渡つて下さい」という文言が、荷重によるワイヤーの破断の危険を警告する旨の表現とは必ずしも看取し難いことを総合して考慮すれば、本件吊橋を含む大杉谷線道路の各吊橋においては、通行制限の警告板の存在にもかかわらず、登山者の間では同時に五名以上もの人数で渡橋することが常態化していたものと推認することができ・・・前記警告板の存在するにもかかわらず、なお、登山者が本件吊橋を同時に多人数で渡橋する事態は、十分に予想しえたというべきで・・・戊としては、腐食のため本件吊橋の耐荷重が極度に低下していたこと及び登山者が本件吊橋を同時に多人数で渡橋することのいずれの事実も、予見可能であつたというべき

と予見可能性を認定した上で、

したがつて、戊は、本件吊橋の危険回避のため、腐食したメーンワイヤーを取り換え、正常な安全性を回復するようにするとか、それまでの間、本件吊橋を通行禁止にし、又は、同時に多人数の登山者が渡橋しないよう監視員を配置するなど、単なる前記警告板設置以上により確実性のある危険防止の措置を講ずべき義務が存したものというべき・・・

ところで、本件吊橋を含む・・・かけ換え予算の要求がなされたが、財政上の理由から本件吊橋のかけ換えは行われなかつたこと、昭和四九年以降・・・六年間・・・かけ換え予算の要求はなされていないこと・・・他方、戊は・・・本件吊橋については通行制限員数を一名と決定し・・・前記警告板を本件吊橋の渡り口両側に設置したこと・・・大杉谷線道路を利用する者の安全確保のため随時パトロールを実施していたが、昭和四七年以降は・・・村に委託し、・・・村は、毎年約一六回大杉谷線道路のパトロールを実施し、これにつき被告県から大杉谷登山歩道パトロール事業補助金の交付を受けていること・・・昭和四三年に二七万一九八四円、昭和四八年に八万八七八九円、昭和五〇年九月に一八万三〇七八円、昭和五四年三月に一二万九六一八円の事業費を費して、本件吊橋の補修工事をした・・・しかしながら、被告県の右措置にもかかわらず、耐荷重の著しい低下による本件吊橋の危険性は何ら改善されないまま推移したのであるから、戊としては、同時に多人数の登山者が本件吊橋を渡橋することによる危険を完全に防止するため、前述のとおり、メーンワイヤーの交換、通行禁止または監視員の配置等より確実性のある具体的措置を講ずべき義務があつたのであり、右のごとく、単なる警告板の設置や、年間約一六回のパトロールをさせていただけでは、戊の本件吊橋に対する管理には瑕疵があつたといわざるをえない

として、事故が戊の管理の瑕疵に基づく吊り橋の安全性の欠如に起因するものだとして、国家賠償法2条1項の賠償すべき義務を認定しています。このように、登山道ではありますが、軽装のハイキング者が多く利用する一般的な人気ルート上の吊り橋であったこともあり、吊り橋の管理者である戊に対し相当程度の管理責任を課しているといえます。

次に丁の国家賠償法2条1項の責任について、

丁は・・・本件吊橋について一般的事業執行権限を有する(が、)戊が自然公園法一四条二項に基づく国立公園に関する公園事業の一部執行として自ら設置、管理するものであること、環境庁長官が、本件吊橋につき、現実に報告の徴収、立入検査、質問、改善命令をなしたことを認めるに足りる証拠はないことを総合して考慮すれば、丁が右一般的事業執行権限を有していることのみをもつて・・・丁を本件吊橋の設置、管理者と認めるには、不十分

であるとして、国家賠償法2条1項の責任を否定しました。その上で丁が吊り橋の費用負担者に該当して国家賠償法3条1項の責任を負うかについて検討をしています。裁判所は、

丁は、戊が大杉谷線道路の架設、補修等の事業をなすに際し、自然公園法二六条に基づき・・・一一回にわたりそれぞれ事業費の二分の一にあたる額の補助金を交付したこと、右のうち昭和四三年一月二〇日・・・交付補助金一五〇万円のうち一三万五九九二円は・・・本件吊橋の補修工事の費用にあてられた(が)・・・費用総額は、二七万一九八四円であつたこと、戊は・・・右のほか昭和四八年度、昭和五〇年度及び昭和五三年度にそれぞれ・・・県費を支出して補修工事をなしたが・・・丁は、補助金の交付をしていない・・・右認定の事実のとおり、丁は、右四か年度にわたる本件吊橋の補修費用総額六七万三四六九円のうち一三万五九九二円を補助金として交付したにとどまり・・・丁の本件吊橋の補修に関する費用負担の割合は、戊の約四分の一にすぎない・・・国家賠償法三条一項の費用負担者とは、当該営造物の設置、管理費用につき法律上負担義務を負う者またはこの者と同等もしくはこれに近い設置管理費用を負担し、実質的にはこの者と当該営造物による事業を共同執行していると認められる者であつて、当該営造物の瑕疵による危険を効果的に防止しうる者をいうと解すべきところ(最高裁判決昭和五〇年一一月二八日民集二九巻第一〇号一七五四頁参照)・・・丁の費用負担は・・・法律上の義務に基づくものではない・・・し、負担の割合も、せいぜい戊の四分の一にとどまつている。しかしながら、自然公園法二六条の補助金交付の主たる目的は、丁が本来執行すべき国立公園事業を現に執行しまたは執行を・・・同法の見地から助成の目的たりうると認められる事業の一部について補助金を交付することにより、その財源的裏付けを確保するとともに、その執行を義務づけ、かつ、その執行が国立公園事業としての一定水準に適合すべきものであることの義務を課することにあり、当該事業が国民の利用する道路、施設等に関するものであるときは、その利用者の事故防止に資することを含むのは明らかで・・・本件吊橋の設置、管理のため、国が被告県に交付した右補助金の額が・・・戊の支出額に対し四分の一にすぎないものであつても、国家賠償法三条一項の適用に関する限り、被告国は本件吊橋の設置管理費用の負担者たることを免れえないものというべきである

と判示して国家賠償法3条1項の責任を認めています。

控訴審では、戊の責任に関しては、

本件吊橋を同時に多人数の者が渡つたため発生したとはいえ、通常の用法に即しない行動の結果生じた自損行為によるものとはいえず、戊の管理の瑕疵に基づく本件吊橋の安全性の欠除に起因するものというべく

と瑕疵と事故との因果関係に言及した上で、1審の判決を支持して国家賠償法2条1項の責任を認めています。

丁の国家賠償法3条1項の責任に関しては、

・・・公の営造物の設置または管理に瑕疵があるため国または公共団体が国家賠償法二条一項の規定によつて責任を負う場合において、同法三条一項が、同法二条一項と相まつて、当該営造物の設置もしくは管理に当たる者とその設置もしくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、その双方が損害賠償の責に任ずべきであるとしているのは、危険責任の法理に基づく同法二条の責任につき、同一の法理に立つて、被害者の救済を全からしめようとするためでもあるから、同法三条一項所定の設置費用の負担者には、当該営造物の設置費用につき法律上負担義務を負う者のほか、この者と同等もしくはこれに近い設置費用を負担し、実質的にはこの者と当該営造物による事業を共同して執行していると認められる者であつて、当該営造物の瑕疵による危険を効果的に防止し得る者も含まれると解すべきであり、したがつて、法律の規定上当該営造物の設置をなし得ることが認められている国が特定の地方公共団体に対してその設置を承認したうえ、その設置費用につき当該地方公共団体の負担額と同等、もしくはこれに近い経済的な援助を供与する反面、右地方公共団体に対し法律上当該営造物につき危険防止の措置を請求し得る立場にあるときには、国は、同項所定の設置費用の負担者に含まれるものと解するのが相当であり、右の補助が地方財政法一六条所定の補助金の交付に該当するものであることは、直ちに右の理を左右するものではない

と同条の責任の内容について触れた上で、

・・・丁は、自然公園法一四条二項により、戊に対し国立公園に関する公園事業の一部の執行として本件吊橋を含む本件道路の架設補修などの工事を承認し、その際その事業費の半額に相当する補助金を交付し、丁の本件道路に関する架設補修の費用の負担の割合は二分の一近くにも達しているのであるから、本件吊橋の設置管理のため丁が戊に交付した補助金の額が戊の支出額に対し四分の一にすぎないものであつても、丁は国家賠償法三条一項の適用に関しては、本件吊橋を含む本件道路の設置管理費用の負担者であるというべきである。・・・

一般に国が、地方財政法・・・一六条によつて交付すべき補助金・・・においては、地方公共団体に一応その開始が任されており・・・国が費用の全部または一部の負担・・・義務が法文上認められていない・・・しかし・・・国と地方公共団体との間に、補助金交付契約が締結されたときには、国は補助金給付義務を、地方公共団体は当該事業または事務の遂行義務を負うのであり・・・補助金の交付は地方公共団体に対し補助対象事業または事務を一定の水準で実施することを義務付けることを狙いとして行われるものであるが、自然公園法二六条は国が地方公共団体に対し補助金を交付することができるとし、「国立公園及び国定公園施設整備費、国庫補助金取扱要領」によれば、補助金の対象となる事業は、車道及び橋、歩道及び橋、園地、駐車場などの施設に限定され、国立公園の施設についていえば、当該施設が「利用者の事故防止に資するもの」であることが補助金交付対象事業の適格要件をなしているものであるから、本件吊橋を含む本件道路を「利用者の事故防止に資するもの」たらしめるためにも行われたものと認められる以上、丁が本件吊橋を含む本件道路につき国家賠償法三条一項の費用負担該当者に当たるというべきである

として1審同様、丁に対し国家賠償法3条1項の責任を認めています。

控訴審は、事故のあった堂倉吊り橋が大杉谷線道路の一部であると捉え、大杉谷線道路全体の架設補修の費用負担の割合が2分の1近くに至っていること等から、大谷杉線道路の一部を構成する堂倉吊り橋の国家賠償法3条1項の費用負担者であると認定しています。

この丁の責任に関し、上告審である最高裁判所は、

国が、自然公園法一四条二項により地方公共団体に対し国立公園に関する公園事業の一部執行として特定の営造物を設置することを承認したうえ、同法二五条により右地方公共団体が負担すべきものとされているその設置管理(補修を含む。)の費用について同法二六条に基づく補助金を度々交付し、その額が右地方公共団体の負担額と同等又はこれに近い額に達している場合には、国は、当該営造物についての費用負担の点においては国家賠償法三条一項にいう費用負担者に当たるものということができる(最高裁昭和四八年(オ)第八九六号同五〇年一一月二八日第三小法廷判決・民集二九巻一〇号一七五四頁参照)。しかしながら、この場合、当該公園事業に関する施設が、社会通念上独立の営造物と認められる複数の営造物によって構成される複合的な施設(以下「複合的施設」という。)であって、その設置管理に瑕疵があるとされた特定の営造物が右複合的施設を構成する個々の施設(以下「個別的施設」という。)であるときは、当該個別的施設と複合的施設を構成する他の施設とを一体として補助金が交付された場合などの特段の事情がない限り、右費用負担者に当たるか否かは、当該個別的施設について費用負担の割合等を考慮して判断するのが相当である。けだし、地方公共団体は、自然公園法一四条二項に基づく承認を受けて執行する国立公園に関する公園事業施設について補助金の交付を申請する場合には、特定の施設ないしその部分についての設置、補修工事等を特定して申請し、国は、右申請を受けて、国家的観点から個別にその必要性を判断して補助をするか否かを決定すべきものとされているのであり、また、国が補助金の交付を通じて地方公共団体に対し具体的に危険防止の措置を要求することができるのは、補助金が交付された設置、補修等の工事の範囲に限られるからである・・・本件道路は・・・五人以上の登山者の渡橋に耐えられる程度の規模構造を備えた一三の吊り橋のほか、木橋、歩道などによって構成され・・・本件事故の原因となった本件吊り橋は・・・本来ならば一〇人程度の渡橋に耐えられるように設計されている全長約四六メートルに及ぶ橋であるというのであるから、本件道路は、前記複合的施設に該当し、本件吊り橋は社会通念上本件道路の他の施設とは別個独立の営造物と認められるべきもので・・・本件吊り橋のみについてみると、その架設については(丁は)費用を負担しておらず、戊がした四回の補修工事のうち本件事故の一〇年以上前である昭和四三年に行われた一回の工事についてのみその費用の二分の一・・・を補助金として交付したに過ぎず、上告人の本件吊り橋の補修費用負担の割合は同県の負担額の四分の一に過ぎないというのである。そうすると、右補助金の交付においては、本件吊り橋の設置管理費用と本件道路の他の施設の設置管理費用とは、区別されていることが認められるとともに、他に本件吊り橋を本件道路の他の施設と一体として判断すべき特段の事情がある場合には当たらないと認められるから、本件吊り橋の設置管理の費用として交付された補助金のみを基準として費用負担者に当たるか否かを判断すべきであり、本件吊り橋に対する前示の補助金の額、内容、交付の時期、回数、戊との負担の割合等に照らすと、丁は、本件吊り橋について国家賠償法三条一項にいう費用負担者に当たらないというべきで・・・同項にいう費用負担者に当たるとした原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものというべき

として丁の国家賠償法3条1項の責任を否定しています。

上告審は、複数の営造物からなる複合的施設の場合、同一の複合的施設を構成する複数の営造物に関して一体として補助金が交付されたというような事情がない限り、個別の営造物への補助金の支出状況から国家賠償法3条1項の費用負担者の判断をするとしています。つまり、大谷杉線道路の一部を構成する堂倉吊り橋の補修工事を大谷杉線道路の堂倉橋吊り橋以外の各種橋と一体として工事するような場合(例えば大谷杉線道路補修工事と称して大谷杉線道路自体の補修とそこに架かる複数の橋の補修工事を一体として予算取りされて、補助金が道路事態の補修及び複数の橋の補修工事の全てを対象として交付されていたような場合は、大谷杉線道路全体の補修工事に対する補助金の割合により費用負担者の判断をなし得るのですが、19)堂倉吊り橋事故の場合、そのような形で補助金の支出がされていなかったことから、堂倉吊り橋単体の補修工事の補助金負担割合で費用負担者の判断をすべきであると最高裁は判断しているのです。

このように、19)堂倉吊り橋事故の場合、審級によって裁判所の判断が異なったのは、事故の具体的な事実関係の認定あるいは具体的事実が瑕疵に該当するかといった要件該当性の認定の相違というよりは、国家賠償法3条1項の費用負担者の法的意味といった法解釈の違いによるものと言えます。

登山事故においても、審級で裁判所の判断が分かれている理由が、事実の認定が変わったことによるのか、過失・安全配慮義務該当性の認定の違いなのか、事故内容とは少し離れた法解釈の違いなのかを意識することにより、1審あるいは控訴審の判決のどの部分を他の登山事故の参考とすることが出来るかが分かるかと思われます。

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