雇用

降格処分と降給

理由不明の降格と降給処分

AさんはX株式会社に入社して20年、2年前には営業所長となり、営業所の売上向上のために尽力してきました。
しかし、1カ月前に所長から課長に降格、更に、今日、係長への降格処分が発令されました。
所長から課長への降格は営業所の売上予算未達が理由とされました。しかし、今回の降格の理由ははっきりしません。
給料は前回の所長から課長への降格により月5万円の減収となり、今回の降格により更に月3万円の減収となります。
営業所の予算見達は30年来の大口取引先の倒産という特殊事情が理由でした。しかしこの売上の減少をカバーするため新規取引先を2件開拓して売上減少を最小限に留めていたことから、降格はAさんにとって納得がいくものではありませんでした。
その上、この3カ月間、一度も月次の予算を下回ったこともなく、トラブルもなかったことから、今回の係長への降格は到底納得出来るものではありません。
Aさんは会社に対し何か言えるのでしょうか。

降格処分とその限界

一般的には、降格には、懲戒処分としての降格と、人事異動としての降格があります。
Aさんの場合、懲戒処分の降格というわけではなさそうなので、人事異動としての降格ということのようです。
懲戒処分としての降格は就業規則等に規定がなければ会社は出来ませんが、人事異動としての降格であれば、会社には人事権がありますので就業規則等に特に定めがなくても可能です。ただし、権利濫用と見做されるような降格は出来ません。
これらの降格とは別に職能資格制度を導入している場合には、就業規則などで規定されている範囲内で会社は資格・等級を引き下げることは可能です。ただし、濫用的な引き下げはやはり許されません。
そこで、会社がいかなる場合に降格をなし得るか裁判例を見て考えてみます。
まず、東京高判平成21年11月4日では人事権の行使として役職を引き下げた事例において、

本件降格処分は・・・副課長から同・・課係長に役職を引き下げるものであるが,懲戒処分として行われたものではなく,控訴人(注:会社のこと)の人事権の行使として行われたものである。このような人事権は・・・長期雇用システムの下においては,労働契約上,使用者の権限として当然に予定されて・・・その権限の行使については使用者に広範な裁量権が認められ・・・降格処分について,その人事権行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かという観点から判断していくべきで・・・その判断は・・・業務上,組織上の必要性の有無・程度,労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か,労働者がそれにより被る不利益の性質・程度等の諸点を総合してなされるべきものである

東京高判平成21年11月4日

として、降格処分の位置付けとその限界について示しています。
更に、近時では、解雇された元部長が、解雇無効と、在職中に2回降格されたことによる減給分の支払いなどを求めた裁判において、1回目の降格処分について、

本件降格処分1は,原告を・・・部長から同部の一従業員とするという役職・職位の降格であるところ,本件降格処分1の当時,被告においては役職や職務内容・責任等に応じて定められた定めた賃金テーブル・・・が存在し,就業規則・・・や賃金規程・・・とともに,原告を含む従業員らに周知されていたことが認められ・・・役職・職位の引下げに伴って賃金が減額されることが労働契約上も予定されているものであったということができる・・・営業成績は,入社から7か月の売上・利益が0であり・・・自ら設定した目標に到達できていない状況にあり・・・人材開発部部長の職を解かれる本件降格処分1については,相当な理由があるものということができ・・・人事評価権を濫用したということはできない

東京高判平成21年11月4日

と社内規則等で降格処分があることが明示されていたこと、降格処分に相当な理由があったこと等から1回目の降格処分を有効とした上で、

なお,原告は,本件降格処分1が労働基準法91条に違反する旨主張するが,同処分により,原告は人材開発部部長の職を解かれ,その職責や権限には変更があったと認められるから,従来と同一の業務に従事させつつ,賃金額を下げるものであるとはいえず,同条にいう「減給の制裁」には当たらない

東京高判平成21年11月4日

として、同一の業務に従事させつつ,賃金額を下げるものであるとはいえないから、給与の金額が下がったことは労働契約法91条に抵触しないとしています。
一方、2回目の降格処分に関しては、

本件降格処分2は・・・職務等級・グレードが下位に変更され,その結果賃金が当然に減額されるものであるところ・・・事情を総合すると,本件減給処分2について相当かつ十分な理由があったといえるか疑問が残る(し)・・・本件降格処分2は,8万円もの賃金減額を伴う本件降格処分1からわずか3か月のうちに新たになされたものであり,降格に伴う賃金減額分が5万0050円に上ることを考慮すると,これを正当化するほどの事情があるとまでは言い難い。また,本件降格処分2は原告の職責や職務内容に変更をもたらすものではないから・・・「減給の制裁」(労働基準法91条)に当たるというべきであり・・・かつ,同条の定める「総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超え」るものに該当するから,同条にも抵触することとな(り)・・・本件降格処分2は,被告の人事評価権を濫用したものとして無効である

東京高判平成21年11月4日

と降格の正当な理由が認められず、更に2回目の降格は職責や職務内容に変更をもたらすものではないから労働契約法91条の問題が生じるとし、降格処分を無効としています。
この判決からは、①降格処分の有効性は処分毎に人事評価権を濫用したかの判断がなされること、②職責や職務内容に変更がない場合の降格処分による降給には労働基準法91条の制約があり、10分の1を超えた降給は出来ないということが分かります。

Aさんの所長から課長への降格は具体的な状況及びX社での同様なケースでの取り扱い等を考慮し裁量権の逸脱又は濫用があるかによりAさんの請求が認められるか判断されることとなります。
更に、Aさんは課長への降格後わずか1カ月で係長に降格されており、この1か月の間には特に降格の対象となる事実は発生していないのですから、課長から係長への降格についてはX社に裁量権の逸脱又は濫用があると認められる可能性が相当程度あるものと考えられます。
そこで、Aさんは会社に対し、①Aさんが営業所長(あるいは課長)の地位にあることの確認を求めると共に、②元の地位で支払われていた給料と降格後の給料の差額を未払い賃金として会社に対し支払うよう求め、更に③慰謝料の会社への請求等を検討することとなります。

関連記事

ブログ(カテゴリー別)

最近の記事
おすすめ記事
  1. 被相続人の債務の返済義務

  2. 直前または当日の年休取得申請について

  3. ゴルフ場の落雷事故と法的責任

  4. 国家賠償法1条2項の求償について

  5. 遺言執行時の遺言の解釈

  1. 登山事故の類型と民事訴訟について

  2. 山岳地帯での事故における法的責任について(その4)

  3. ツアー登山事故における法的責任について(その1)

  4. 公序良俗違反について

  5. 配置転換の拒否について

TOP