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その他のパーティー登山事故における法的責任について

これまでにパーティー登山事故として、商業ツアー登山、教育活動の登山及び山岳会の登山での事故の判決における注意義務、過失、安全配慮義務に関する認定を通じ登山事故における関係者の法的責任について考えてきました。ここでは、これまでに見てきたパーティー以外の形態のパーティー登山(以下「その他のパーティー登山」といいます。)における法的責任について実際の事故の判決をみながら考えてみます。

その他のパーティー登山としては、警察、消防などが職員の研修目的で実施する登山(以下「研修目的登山」といいます。)、職場・プライベートの仲間での登山(以下「仲間内登山」といいます。)及び単独行の登山者同士が登山中に同行する登山(以下「即席同行登山」といいます。)等が考えられます。

これらの中から、まず、研修目的登山の事故における法的責任についてみてみます。

研修目的登山の事故としては、10)地方自治体の運営する山岳総合センターが主催した野外研修会での雪上訓練中に、研修会に参加する高校生を引率同行し、指導する側ではなく、講習生として研修に参加していた高校教諭(以下「A」といいます。)が雪崩に巻き込まれ死亡した事故(以下「山岳総合センター雪崩事故」といいます)があります。この研修会は、高校の登山部の技術向上を目的としてものなので高校生の参加者が主であったと言えることから、以前の記事で見ましたⅴ)大日岳遭難事故と同様に教育活動あるいはその延長上の登山事故に該当しそうにも思われます。しかし、この研修会において事故で死亡したのは高校生ではなく教諭ですので、教育活動の登山事故で問題となる学校教育活動における教員の生徒に対する注意義務、安全配慮義務等と同様の義務を研修会の指導講師がAに対してまで負うとは考え難いと思われます。そこで、10)山岳総合センター雪崩事故を教育活動の登山事故ではなく、その他のパーティー登山事故として扱うこととしました。

この事故では、遺族が講師に過失があったとし、研修会を主催していた地方自治体(以下「甲」といいます。)に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求め訴訟を提起し、1審でその請求が認容されました。その後、控訴されることはなく、1審判決は確定しています。

この10)山岳総合センター雪崩事故の発生経緯について判決では次のように認定しています。事故前の講師らの事前準備の程度、具体的な事故状況を把握するために少し長めに判決文を引用します。尚、本件事故の発生した研修の立案の中心人物であった講師を「乙」、主任講師を「丙」としています。

乙は、本件研修会開催前の三月一五日、本件テント場付近まで赴いて・・・周囲の雪の状況、積雪量や地形等を調査したり、地蔵の頭の通常雪庇ができやすい部分を確認するなどしたが、右部分に雪庇も認められない等その時期としては積雪量が例年よりかなり少ないとの印象をもった。しかし、当時は視界が約一〇メートル程度しかなかったため、それ以上の詳細な観察、調査はせずに帰路につき、その後三月一八日まで本件斜面付近に下見等に来ることはなかった。なお、乙は、右一五日の午後一〇時、翌日の天候等を判断するためにNHKのラジオを聞きながら天気図を作成した・・・研修会初日の三月一七日、乙は、翌一八日の天候を判断するために午前九時に・・・ラジオを聞いて当日午前六時現在の天気図を作成したり、気象協会長野支部に電話で問い合わせる等し(た後、)・・・積雪期登山に関する初歩的な知識、天気図の書き方等に関する授業がなされたが、雪崩に関する基本的知識や危険回避等に関する詳細な指導等はなされなかった・・・同日午後六時三〇分から午後七時にかけて、翌一八日以降の実技指導に関する講師打合せがなされ・・・連絡指示系統については乙が最終指示を出し、日程、コースの状況判断等については講師全体が随時協議、連絡して判断し、受講生の安全を考えること、実技指導については主任である丙が統一した指導を行うこととされた。そして、丙から実技指導の内容が紹介された後、当日の天候により実技の内容が変わるので状況判断しながら指導すること、雪の状況については一七日は天候が悪く雪が降っている状態だったので、一八日の朝、現場を見て判断すること等が話し合われた。・・・参加者及び講師は、三月一八日、五竜とおみスキー場に到着したが、乙らは、午前八時半過ぎ、同スキー場下部のテレキャビン駅に集まって打合せをし、手で雪を握る等して全体の積雪の状況を調べたり、上部への移動方法としてスキー場内の急斜面(チャンピオンコース)を登高できるか否かの検討等をした。その際、新雪は約一〇センチメートル程度で少なく、若干湿った雪であることが判明し・・・講師及び参加者は、チャンピオンコースを登ったが、乙は周囲の雪の状況を見たところ、前記一五日の下見の時と同様に積雪量は少なく、デブリもなく、雪はアイゼンに付くほど湿っていた。また、午前一一時過ぎ、チャンピオンコース上部にあるテレキャビンのアルプス平駅に到着し、乙らは、同駅周辺でも新雪の上を歩いたり、手で握ったりして積雪の状況を調べたところ締まった雪であった。・・・参加者及び講師らは、アルプス第一リフト沿いの積雪斜面を登った後、その上方の本件テント場に到着した。そして、・・・講師は例年雪庇ができる箇所・・・をその上に乗る等して調査したが、雪庇は例年より小さく不安定な積雪状況でもなかった・・・乙は・・・積雪量が少なく雪洞訓練は無理と判断し、さらに本件テント場の周りを歩いて雪の状況を調べたが、前日以降に降った新雪が約三〇センチメートル積もっており、一五日の下見の時より積雪が増えたように感じた。本件テント場では、参加者らが新雪を踏み固めてブロックに切り出しテントの防風用に積み上げ、テントを張る訓練をしたが、ブロックはしっかりとしたものができた。丙は、本件テント場付近・・・を実際に歩いたり、足で踏み込む等して積雪状況を調べた後、乙及び・・・講師とその後の実習内容について協議し、・・・雪洞掘りが困難なため、ワカンジキでの歩行訓練を行うことになった(なお、右打合せの際には、どの講師からも雪崩発生の危険の有無に関する話はでなかった。)。そして、丙は、ワカンジキ訓練のため本件テント場から本件斜面に向かう途中の箇所・・・でも同訓練が可能なだけの積雪量があるか調査した。同講師は、本件斜面に入って実際に右訓練を開始する際にも、まず自分が先に雪面を歩行して新雪の状況を確認したが、しまった雪でクラスト・・・は認められなかった。丙を先頭に、Aら一班の参加者六名は、ワカンジキを着用し横一列になって本件斜面を登高しはじめた。そして、右参加者らが約一〇メートル進んだところ、本件斜面の約五〇メートル上方で幅約一〇メートルの雪崩が発生した。丙及び参加者である・・・の各教諭は、本件雪崩によって雪中に埋まり、そのうち・・・教諭は掘り出されて救出されたが、Aは、雪崩発生から約一時間後に本件斜面下方で発見されたが、蘇生することなく死亡した。なお、乙らは、本件雪崩発生以前に、本件斜面上部に赴いて、斜度、積雪量、雪の状態等を調査したことはなく、結局、本件雪崩が発生した本件斜面上部が当時どのような状況にあったかについては、本件全証拠によるも明らかではない

そして、この事案において、裁判所は次のように講師らの注意義務に関し判示しています。

・・・参加者である高校生や引率教諭は、冬期の野外生活については初歩的段階にあり、雪上技術や雪崩回避の知識も不十分な初心者であ(り、)・・・Aらは、純然たる私事としてではなく、高校登山部の活動という学校行事の一貫として生徒を引率して本件研修会に参加したものである。一方、本件研修会の責任者である乙、丙らは・・・冬山登山に関する十分な知識や経験を有していたものである。したがって、Aら参加者は、一般の冬山登山と異なり、万一の場合には雪崩等による生命身体に対する危険をも覚悟して本件研修会に参加したものではなく、また、雪崩等の危険性の判断については全面的に担当講師らにその判断を委ねていたものであり、担当講師らによって本件研修会が安全に実施されるものと期待していたものということができる。したがって、担当講師らは、このような参加者の安全を確保することが要求されていたというべきである

その上で、

雪崩発生のメカニズムが完全に解明されているとはいえず、最終的には経験等により雪崩の危険性が判断される場合も多いが、雪崩の発生原因は相当程度明らかにされていると共に、専門的な研究書に止まらず一般登山者向けの雑誌、研修会等を通じても雪崩回避のためにその発生の危険性を示す種々の客観的な条件や判断方法が指摘されているのであるから、山岳界の指導者的立場にある本件講師らとしては、右条件を事前に十分調査、検討することにより雪崩を回避することが、完全とはいえないまでも相当程度可能であることが認められる。
そして、通常の冬山登山においては、広範囲にわたる地域を長時間にわたって登高することから雪崩発生の危険性に関する調査も自ずから困難を伴うが、・・・本件研修会における雪上歩行訓練は、当初から本件現場付近で行われることが予定されていたことが認められるから、本件研修会において要求される雪崩の危険性についての調査は、本件現場付近に限定して行えば足りるものであり、同調査の困難の度合いは、通常の冬山登山の場合に比してかなり限局されるということができる。そうすると、乙、丙らに対して、雪崩の危険性に関して事前に調査検討を尽くすことを要求することが困難であるとは言い得ない。以上を総合すれば、本件研修会の責任者である乙、丙らは、雪上歩行訓練を行う場合、事前に訓練実施場所の地形、積雪状況や現場付近の天候等について十分な調査を行って、雪上歩行訓練を実施した場合の雪崩発生の可能性について十分な検討協議を尽くした上、雪崩が発生する危険性を的確に判断して、雪崩による遭難事故を回避すべき注意義務を負っていたというべきである

と乙、丙らの講師に雪崩による遭難事故を回避する注意義務があったとしています。その上で、雪崩が発生しやすい一般的条件について、

当該斜面の地形が、山の谷筋、沢筋や凹型を示す場合は、雪崩がより発生しやすいことが認められる・・・斜度が概ね三〇度から五〇度の積雪斜面については、雪崩発生の危険を考慮すべきことが認められ・・・当該斜面の気象条件が前記注意報発令の条件に実質的に該当している場合には、雪崩発生の危険性を窺わせる一要素になると言い得る・・・

とし、

雪崩発生の危険性に関する条件については・・・積雪内に弱層が存在したり、積もった新雪が厚い場合には雪崩が発生する危険性が高くなるが、一般に新雪の厚さが三〇センチメートル以下ならそれほど雪崩発生の危険がないとされ・・・雪庇は、小さな刺激でも崩れやすく、斜面上部に雪庇があるとその崩壊によって雪崩が発生する場合があ(り)右各条件も雪崩発生の危険性を判断するための要素になる

との考察を加えた上で、事故現場の地形・斜度・植生・風向きなどの認定をおこない、更に当日の気象条件の認定をし、更に本件雪崩発生の人為的条件として、

Aの属していた一班が・・・丙を先頭にその下約五メートルを六名の参加者がワカンジキを装着してほぼ横一列に並んで斜面を登っていた事実、及び、参加者らが、雪を下へ蹴落としたりピッケルでかき落とすなどしつつ登高した事実については、当事者間に争いがない・・・本件では、狭い斜面に一度に多人数の者が立ち入ることにより斜面に荷重をかけ、接地面積の広いワカンジキで積雪を踏みつけ、また、参加者がワカンジキ歩行に慣れていなかったため雪の中でもがくようなぎこちない登高をしたため、雪面に強い刺激を与えたことが認められる・・・が、他の地形、積雪量等の条件により雪崩発生の危険性が否定しがたい場合、前記訓練方法は、雪面に強い刺激を与えて雪崩を誘引する危険性を有するのであるから、これを行うべきでない・・・

以上によると、本件斜面上方である本件雪崩発生地点付近の斜度は、本件雪崩発生当時、最低でも約三五度、部分的には四〇度程度であり・・・本件斜面は、樹木のない積雪斜面が尾根の近くから下方に向かって幅約一〇メートル長さ約三五ないし五〇メートルにわたり続いて・・・上部を含め全体として、山の谷筋・沢筋にあり、中央が凹型を呈していること、本件斜面付近では本件当時新雪の厚さが約三〇ないし五〇センチメートルであったこと、本件当日は、雪崩注意報が本件山域一帯に出されており積雪量や降雪量が実質的には雪崩注意報発令の条件を充たしていたことが認められ・・・(これらの)各事実及び・・・認定した雪崩発生の一般的条件を総合すれば、初心者が多人数で一度に狭い積雪斜面に入りワカンジキによる登高訓練を行った場合、雪面への刺激によって本件斜面上部に表層雪崩が発生する危険性があったというべきである

とし、乙らに対し、

十分な調査を尽くさず、その結果雪崩発生の危険性についての判断を誤り、本件斜面で前記雪上歩行訓練を行ったものであり、この点に過失があった

と過失を認定し、甲に対する国家賠償法上の損害賠償責任を認めています。

この判決では、前述のように①Aが初心者であること、②Aがプライベートではなく仕事である学校行事の一貫として参加していたこと、③Aが一般の冬山登山者のように雪崩等の危険を覚悟して参加していたわけではないこと、一方、④乙、丙らの講師は十分な知識や経験を有していたこと、⑤Aは研修会が安全に実施されるものと期待し、雪崩等の危険性判断を全面的に担当講師ら委ねていたこと等を理由として、乙、丙らの講師にAの安全を確保する義務があったとしています。

判決のこの部分からすると、ⅴ)大日岳遭難事故の裁判において、「肉体的、精神的発達状況に照らすと、本件研修会が文部科学省(当時は文部省)により主催されたものであることなどを考慮しても、講師らは、中学生、高校生等に対するのと同様な極めて高度の注意義務を負っていたということはできない」とされたのと同様に、10)山岳総合センター雪崩事故の講師には教員が生徒に対して負うような注意義務あるいは安全配慮義務は存在していないとし、ツアー登山のリーダーと類似した枠組みで注意義務の程度を判断していると言えそうです。

そして、10)山岳総合センター雪崩事故の講師の注意義務の程度は、あ)Aの経験・技術レベルが低かったこと、い)仕事の一環としての参加であり、本件登山参加に関し強制の契機が認められることから、登山に内在する危険を認識・認容してAが研修会に参加していたとは言えないこと、う)登山に内在する危険が具現化することを回避できるように講師らは導いてくれると信頼して行動しており、え)講師らにはう)の信頼に応えるだけの能力を有していた等の理由から講師に対し相当程度の注意義務を認定したと言えます。

この判決からすると、ツアー登山あるいはツアーと同視し得るパーティー登山においては、㋐参加者の技術・経験の程度、㋑参加者の登山に内在する危険に対する認識・認容の程度、㋒参加者のリーダーへの信頼の程度、㋓リーダーの実際の経験・技術の程度等の事情からリーダーに要求される注意義務の程度が決まってきそうです。そして、この㋐~㋓の要素を判断要素としていると考えることは、これまで見てきた登山事故の裁判の判決内容とも親和性がありそうです。

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