外廊下の水たまりは民法717条1項の瑕疵となるのでしょうか

この記事で扱っている問題

民法717条1項では、建物などの工作物に「瑕疵」が存在し、その瑕疵により人に損害が生じた場合、建物の占有者(あるいは所有者)が損害賠償責任を負うことを規定しています。

それでは、自然現象である降雨により外廊下に水たまりができた場合、そのような水たまりは同項の「瑕疵」に該当し得るのでしょうか。

ここでは、自然現象に起因する事故として、降雨による建物の不具合を瑕疵と認定し得るのかについて、判例をみながら考えてみます。

民法717条1項の瑕疵とは

民法717条では、

(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
(2項および3項省略)

民法717条

と規定されており、その1項において、建物などの土地の工作物に設置または保存の「瑕疵」があり、そのために人が損害を負った場合、建物管理者などの土地の工作物の占有者(あるいは所有者)が損害賠償責任を負うことを規定しています。

そして同項の「瑕疵」とは、その種類に応じて通常備えているべき安全性が欠けていることを意味すると考えられています。

問題の所在

上記のように、民法717条1項では、「設置又は保存に瑕疵があることによって」とあることから、保存上の「瑕疵」も同項の「瑕疵」となることがわかります。
それでは、一時的に自然現象により、「通常備えているべき安全性が欠けている」状態となった場合も「瑕疵」があることになるのでしょうか。
建物に雨が降り込み、水たまりができ、一時的に滑りやすい状態となった場合にも「瑕疵」が認定されるのでしょうか。
不具合が生じた原因に関係なく「通常備えるべき安全性」を有していなければ、「通常備えているべき安全性が欠けている」ことになるのでしょうか。

近時の裁判としては、東京地判令和4年1月27日において、この点が争点のひとつとなりました。

瑕疵との関係で自然現象による不具合が問題となった裁判例

事案の概要

この事件は、健康診断を受診するために病院を訪れた人が、検査会場内の移動のため、建物の外廊下である通路を通過したとき、床上にできていた水たまりに足を滑らせて転倒し腕を骨折したとして、当該病院を運営する医療法人社団に対し、損害賠償を求め訴訟を提起したものです(東京地判令和4年1月27日)。

事故の発生経緯・原因に関する裁判所の判断

まず、裁判所は、下記のように、本件事故は検診受診中に外廊下において発生したものであることを認定しています。

・・・原告は,本件事故発生日当日,健康診断を受診するために本件病院を訪れ・・・受付担当者から健康診断会場のある4階までエレベーターを利用するよう指示された・・・が,1基しかないエレベーターがなかなか来なかったために,屋内階段を利用し・・・部分に所在する扉部分までたどり着き,同扉を開けたが健康診断会場ではなかったことから,3階まで戻ったところで・・・に声を掛けられ・・・と共に4階まで屋内階段で行き・・・部分に所在する扉を開けて本件通路を進行し・・・部分に所在する扉を通って健康診断会場まで赴き,簡易スリッパに履き替え,健康診断を受診し・・・レントゲン撮影のためにエレベーターで3階に行き,レントゲン撮影後,再度4階に上がるためにエレベーターを待っていたが,エレベーターがなかなか来なかったことから,屋内階段で4階に上り・・・部分に所在する扉を開けて,本件通路に入り・・・本件通路を歩行中,本件事故現場で転倒して,左肩をぶつけ,左上腕骨頚部を骨折した・・・。
本件通路の床材は,光沢があり,本件病院の屋内階段の床材と同系色で・・・本件通路の左側には,プレハブ小屋,トイレ,外階段,本件病院職員の下駄箱が設置され・・・部分にはソファーやテーブルが置かれており,外階段を除き,本件通路を含め,4階左側外周部分まで屋根が設置されているが,同外周部分は外部に開放されている。・・・ 本件通路の右側には・・・フェンスが設置され,屋根とフェンスの隙間は板状のもので塞がれているものの,同部分は外部に開放されている・・・

東京地判令和4年1月27日

続いて裁判所は、次のように、事故は事故前夜の降雨により生じた外廊下の水たまりに足を滑らせたことにより生じたものであることを認定しています。

・・・本件事故発生時,本件事故現場には水たまりが存在し,本件事故は,原告が水たまりに足を滑らせたことによって生じたものであったと認められ・・・本件事故発生日・・・の前夜,午後7時から午後9時にかけて合計4.5mmの降雨があったことが認められ,上記のとおり,本件事故現場付近に開放部が存在していたこと,他に水たまりの発生原因となるような事象の存在もうかがわれないことからすれば,本件事故現場の水たまりは,降雨の影響によって発生したものと推認するのが相当である・・・

東京地判令和4年1月27日

瑕疵に関する裁判所の判断

裁判所は、次のように、降雨により通路に水たまりが存在したことは、保存の瑕疵に該当すると認定しています。

・・・そこで,降雨の影響によって本件通路に水たまりが存在していたことが,本件病院の設置又は保存の瑕疵と言い得るものであるかという点について検討する。
・・・まず・・・本件事故当時,屋内階段を利用して4階に行くことや本件通路への立入禁止の表示はされていなかったものと認められ・・・このことに加え,本件病院のエレベーターが1基しかなく,4階が健康診断会場となっていたという客観的な状況からすると,本件通路は,本件事故当時,本件病院の職員以外の者,とりわけ健康診断受診者が,エレベーターの待ち時間を嫌い,屋内階段を利用して・・・部分の扉から立ち入り,健康診断会場へ続く経路を探すために通行することがあり得る通路となっていたと認められ・・・
また,本件通路を含めた本件病院4階部分左側に広く屋根が設置されており,本件通路右側部分に設置されたフェンス部分は開放されているものの,屋根とフェンスの間の隙間に板状のものが設置され風雨の進入を一定程度防止するだけの設備が設けられていた上,本件通路の床材が光沢を帯び,濡れると滑りやすくなる材質のものであったと考えられる。そうすると,本件通路に風雨によって通行の妨げとなる事象が発生した場合,その事象が放置されることが本件通路の場所的環境からして自然であるとも言い難い。
以上の諸点を踏まえると,降雨の影響によって生じた水たまりの存在した本件通路は,簡易スリッパを履いていることもあり得る健康診断受診者が安全に通行することができる性状を欠いた状態にあったと評価するのが相当であり,降雨の影響によって本件通路に水たまりが存在していたことは本件病院の保存の瑕疵に該当するということができる。

東京地判令和4年1月27日

裁判例に対する考察

上記のように、裁判所は、

①事故発生現場は、検診受診者が通行することもあり得る通路であったこと

②事故の発生した通路は、

  • 側面の一部が開放されているものの、その隙間には風雨の進入を一定程度防止するだけの設備が設けられ
  • 通路の床材が濡れると滑りやすくなる材質のものであったと考えられることなどから

事故現場である通路の形状などから、通路に水たまりなどが生じた場合、水たまりなどがそのまま放置されることは自然であるとは言い難いこと

なども理由として、通路に水たまりが存在していたことを「保存に瑕疵」があるものと認定しています。

上記の①は、一般の病院来訪者が通過することがあり得るかといった当該通路の利用者の属性

上記②は、水たまりが生じた場合に、一般的には、病院が水たまりを拭くなどの管理(施設管理)をおこなうものなのであるのか

ということを検討しているものといえそうです。
②の管理水準は、①の利用者の属性にも左右されるものとも考えられます。

この①および②は、事故発生現場の外廊下が、同様な通路として有すべき「通常備えているべき安全性が欠けている」かの判断をおこなう上での要素と考えられます。

この裁判例からしますと、病院など(不特定)多数の来訪者が見込まれる施設では、

一般の来訪者が利用する箇所においては
一般的に期待される水準の管理をおこなっておらず、その管理を十分におこなわなかったことを理由として事故が生じた場合
民法717条1項の「保存に瑕疵」があると認定される可能性があると考えられます。

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