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公の営造物の用法と瑕疵認定の基準について~通常の用法と本来の用法

この記事で扱っている問題

本来の用法以外で公の営造物が使用されているときに、事故が発生し、人が負傷を負ったとき、国家賠償法2条1項の瑕疵は認定されるのでしょうか。
本来の用法での使用であれば安全性に欠けることがない場合、瑕疵を認定する基準が「本来の用法」での使用形態なのであれば、瑕疵は否定され、一定範囲の本来の用法外の使用形態を含みうる「通常の用法」での使用形態なのであれば、瑕疵が認められる余地もでてきそうです。

ここでは、国家賠償法2条1項の「瑕疵」を、どのような場合に、「本来の用法」あるいは「通常の用法」を基準にして判断するのかということについて、裁判例をみながら解説していきます。

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公の営造物の使用方法と瑕疵の問題

国あるいは公共団体が設置管理する公の営造物が、本来の用法で利用したならば事故が生じなかったところ、本来の用法ではない態様で使用(用法外使用)したことにより事故が発生した場合、国家賠償法2条1項の瑕疵は認定されるのでしょうか。

一般的には、営造物の瑕疵とは、「営造物が通常有すべき安全性を欠く状態」をいうこととなります(最判昭和61年 3月25日参照)。

このことからしますと、上記の事故において、「通常有すべき安全性」を、本来の用法で使用した場合に備えるべき安全性と考えますと、安全性を欠く状態にあったとはいえず、瑕疵は否定されると考えられそうです。
一方、用法外の使用でも、一定の場合、その用法外の使用をした場合に備える安全性と考えるのであれば、安全性を欠く状態にあったといい得るケースもあり、瑕疵が認定される余地もありそうです。

そこで、この問題を考えるにあたっては、国家賠償法2条1項の瑕疵の認定に際し、事故時の問題となる公の営造物の使用、利用状況が、考慮されるのか、あるいはどのように考慮されるのかが問題となりそうです。

「通常の用法」と「本来の用法」

通常の用法を基準に瑕疵が判断された判例

この点について、公道沿いの防護柵の上段手摺に、幼児が、後ろ向きに腰かけていた時に転落し、怪我をした事故の国家賠償請求訴訟の上告審(最判昭和53年7月4日)において、最高裁判所は、

国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があつたとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、・・・防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤つて転落するのを防止するために・・・設置されたもので・・・通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがない・・・上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい六歳の幼児であつたとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであつたということができ・・・右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあつたとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである。

最判昭和53年7月4日

と判示しており、問題となっている公の営造物の「通常の用法」を基準として瑕疵の有無を判断しています。

本来の用法を基準に瑕疵が判断された判例

一方、公立中学校のグラウンドに設置されていたテニスの審判台に幼児が昇った後に後部から降りようとしたため、審判台のバランスが崩れ後方に倒れ、幼児が審判台の下敷きとなり死亡した事故に関し、死亡した幼児の両親が中学校の設置者である地方公共団体に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求めた訴訟の上告審(最判平成5年3月30日)において、最高裁判所は、

本件事故時の・・・行動は・・・審判台に前部階段から昇った後、その座席部分の背当てを構成している左右の鉄パイプを両手で握って審判台の後部から降りるという極めて異常なもので、本件審判台の本来の用法と異なることはもちろん、設置管理者の通常予測し得ないものであったといわなければならない。そして、このような使用をすれば、本来その安全性に欠けるところのない設備であっても、何らかの危険を生ずることは避け難いところである・・・本件事故は、被上告人らの主張と異なり、本件審判台の安全性の欠如に起因するものではなく・・・異常な行動に原因があったものといわなければならず、このような場合にまで、上告人が被上告人らに対して国家賠償法二条一項所定の責任を負ういわれはないというべきである。

最判平成5年3月30日

と判示し、公の営造物の「本来の用法」を基準として瑕疵の判断をしています。

通常の用法と本来の用法の適用範囲

この2つの事故の当事者である幼児は共に6歳前後であり、ほぼ同年齢です。
しかし、最高裁判所は、前者の裁判では、営造物の「通常の用法」を基準とし、後者の裁判では、「本来の用法」と基準としています。

この点につきましては、最高裁判所判例解説(最高裁判所判例解説民事篇平成5年度上巻545頁、以下「判例解説」といいます。)では、公の営造物の瑕疵に関しては、原則は「本来の用法」に即した安全性の有無で判断しており、本来の用法と異なる使用方法が常態化しており設置管理者もその使用方法を認識するか通常予測し得るものであった時には、例外的に「通常の用法」に即して判断している旨述べています。

本来の用法が基準とされた裁判例

後者の上告審判決(最判平成5年3月30日)が下された後の類似した事故の裁判例として、小学校低学年の児童が、フェンスの破れ目から公立中学校の敷地に入り込み、校庭に設置されていたハンドボール用のゴールポスト(同校ではサッカーの練習用ゴールポストとして使用)のネットに自らの体重を掛けて前後に揺さぶるようにして遊んでいたところ、ゴールポストが転倒し、その下敷きとなり負傷した事故の国家賠償法に基づく損害賠償を求めた裁判(千葉地裁木更津支部判決平成7年9月26日)において、裁判所は、

本件ゴールポストを設置した被告は、その設置管理者として・・・その置いた状況で本来の用法に従って安全であるべきことについての責任を負担することは当然であるとしても、国家賠償法二条一項の責任は原則としてこれをもって限度とすべきものであるところ・・・本件事故は原告らが本件ゴールポストに固定されていたネットを利用してブランコの様にして遊ぶという行動の結果であり、本件ゴールポストの本来の用法と異なることはもちろん、設置管理者の通常予測し得ないものであったといえ・・・本件事故は・・・本件ゴールポストの安全性の欠如に起因するものではないから、被告が原告に対して国家賠償法二条一項所定の責任を負うものではない。

千葉地裁木更津支部判決平成7年9月26日

として、「本来の用法」を基準として瑕疵の有無の判断をしています。

この事故では、設置場所が中学の敷地内であり、ゴールポストを遊戯道具として使用するようなことが常態化していたとは言い難く、また、予見し難かったものと言い得ます。
そこで、この事案において「通常の用法」ではなく、「本来の用法」を瑕疵の判断基準としたことは、上記の判例解説から容易に説明が付きます。

設置者の想定している用法の瑕疵認定への影響

ところで、瑕疵を考える場合、設置者の想定している用法は、瑕疵の認定上どのように影響するのでしょうか。

国立大学の工学部建築学科の学生が、校舎建物の4階のひさし部分に出てグラウンドでおこなわれていた球技を観戦している時に床面にスケッチブックを落としたため、これを拾おうとしてバランスを崩し、手すり下部の空間をすり抜けるようにして地上に落下、受傷した事故の裁判(東京地裁平成11年6月29日)において、設置者の想定している用法が問題となりました。

この事故では、受傷した学生の両親が、校舎建物ひさし部分には転落防止構造上、国家賠償法2条1項の瑕疵が認められる旨主張し、大学の設置者である国に対し損害賠償を求め訴訟を提起しました。

この裁判において、被告の国は、

本件ひさしは、建築物としての美観を保つとともに、ひさし手前のガラス戸の清掃のために設けられているもので、清掃員が出入りすることはあっても、学生等が自由に出入りすることは全く想定していない。また、本件建物が建築された後三〇数年間、転落事故は一度もなかった

東京地裁平成11年6月29日

と主張していました。
この主張をもとにしますと、ひさしに学生が出ることはひさしの「本来の用法」ではないこととなり、瑕疵は否定されることになりそうです。

しかし、裁判所は、

法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いて他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい、このような瑕疵の存在については、当該営造物の構造、用法、場所的利益、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきものであるところ(最高裁平成八年七月一二日第二小法廷判決・民集五〇巻七号一四七七頁)・・・本件ひさし部分は、その設計者においては、建築物としての美観を保つとともに、窓や壁の清掃のために利用することを考えて設けられたものであったが、廊下から本件ひさし部分に至る・・・部分の構造は、一般に見られるベランダへの出入口及びベランダと同様のもので・・・建物を利用するであろう教職員及び学生が、本件ひさし部分に出てベランダとして利用することを物理的及び心理的に阻害するような状況は認められず・・・学生が本件ひさし部分に出ることを禁止するような措置も何らとられておらず、・・・(転落した学生が)本件ひさし部分に立ち入ったことが、その設置管理者である被告(具体的には大学管理者)の予想を超えた行動であったとは到底いえない・・・本件ひさし部分は、通常予想される危険の発生を防止するに足りると認められる状況になかったといわざるを得ず、その設置又は管理に瑕疵があったものと認められる。・・・

東京地裁平成11年6月29日

と判示しています。

この裁判では、設置者が用法を限定的に考えていたとしても、外形的な形状、管理状況などから本来の用法以外の使用が予想し得るのであれば、実際に本来の用法外の使用がなされていなくとも、「通常の用法」の基準を採用することができると考えることが出来そうです。

本来用法との関係から予想しうる使用形態による事故

上記の2番目に引用した判決の千葉地裁木更津支部判決平成7年9月26日に類似した事案において、本来用法との関係から予想される本来用法外の使用形態により事故が発生した場合、瑕疵の認定において、「本来の用法」、「通常の用法」のいずれが基準とされるのでしょうか。

この点が問題となった裁判例として、小学校の体育の授業でサッカーがおこなわれていたときに、児童がゴールネットのロープにぶら下がったところ、ゴールポスト(フットサルゴールを使用)が倒れ、下敷きとなり死亡した事故に関し、死亡した児童の両親が、

  1. 主位的に、教員らに、本件ゴールポストを適切に固定しなかったなどの安全配慮義務違反があるとして、国家賠償法1条1項に基づき
  2. 予備的に、ゴールポストに設置または管理の瑕疵があるとして、国家賠償法2条1項に基づき

小学校の設置者である地方公共団体に対し、損害賠償を求め提訴した事件(福岡地裁久留米支部判決令和4年6月24日)があります。

この裁判の判決では、国家賠償法1条1項の責任に関し、

・・・本件小学校の運動場には、サッカーゴール2台及び本件ゴールポストを含むフットサルゴール4台が設置され・・・本件ゴールポストを除く3台のフットサルゴールは、土台フレームが直接杭で地面に固定されていた。これに対し、本件ゴールポストは、土台フレームの左右にロープが結束され、土台フレームの左右の両外側には鉄杭が地中に埋め込まれていたのであるから、本件ゴールポストの固定方法としては、土台フレームの左右に結束されたロープを鉄杭に結ぶことで固定することが想定されていた・・・しかるに・・・本件ゴールポストの左側は、ロープと鉄杭を結ぶことによる固定がそもそも不可能で・・・事故当時・・・固定されていなかったものと推認され・・・本件ゴールポスト右側についても、土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法によっては固定されていなかったものと推認される。
・・・実況見分の結果によれば・・・本件ゴールポストの上記弛んだ状態のロープにぶら下がり、本件事故が生じたものと認められる。そして、本件事故当時、本件ゴールポストは左右とも固定されていなかったものと認められるところ、上記のロープの弛みが認められた位置に荷重をつけた実験では、本件ゴールポストを左右ともロープで固定しなかった場合、約40度後方に上記荷重を吊り上げたときの振りによって本件ゴールポストは転倒し・・・地面と垂直方向に掛けただけでは、本件ゴールポストは倒れなかった・・・亡・・・が体を50度程度前後に揺らすといった行為があったことを認めるに足りる証拠はない。結局、本件報告書に記載のとおり・・・上記ロープに単純にぶら下がったところ、本件ゴールポストが・・・体重を支えられなくなって大きく揺れ・・・前のめりに本件ゴールポストから落ちて、その直後、本件ゴールポストが前向きに転倒したものと認められる・・・。
・・・本件事故以前に、本件ゴールポストのようなゴールポストが転倒しないよう配慮することや、ゴールポストの固定状況について点検を実施すること、ゴールポストを含む学校の施設・設備・備品・用具等について、継続的・計画的に安全点検をすることが重要であることが指摘され・・・平成・・・には、本件事故と同様のゴールポスト転倒による死亡事故が生じ・・・文部科学省は・・・各指摘を資料として添付しつつ、施設設備等の点検や事故防止のための措置に十分に留意することなどを通知し・・・校長は、上記の死亡事故や文部科学省からの通知について認識していたというので・・・事故当時の本件ゴールポストの固定状況について正確に把握していなかったとしても、本件事故の発生について容易に予見できたといえる。
・・・本件校長には、このような予見可能性を前提に、本件小学校の安全点検担当教員や点検担当の教員をして、本件ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておくべき注意義務があったというべきである。にもかかわらず・・・上記義務を怠り、その結果、・・・本件事故当時、本件ゴールポストの左右土台フレームはいずれも固定されていなかったというので・・・校長には、国賠法1条1項の過失が認められ・・・本件校長の前記過失と・・死亡との間には、因果関係が認められる。

福岡地裁久留米支部判決令和4年6月24日

として、国家賠償法1条1項の責任を認定しています。

そして、国家賠償法2条1項の責任についても、

・・・前記認定事実等によれば、本件ゴールポストの設置及び管理に瑕疵があったことが認められる

福岡地裁久留米支部判決令和4年6月24日

として、国家賠償法2条1項の瑕疵を認定し、同項の責任を認定しています。

ゴールポストにぶら下がることは、本来の用法ではないと思われます。
しかし、同様の事故が、当該事故前に発生しており、文部科学省も事故防止のための措置に十分に留意することなどを通知していたことなどからしますと、本来の用法以外の使用が、一定程度、事前に予期されていたことは明らかです。
また、本来の用法以外の使用により発生しうる事故に対する対策も求められていました。
そうしますと、ゴールポストにぶら下がることも、本件の事情のもとでは、「通常の用法」には含まれると考えられそうです。

本件では、国家賠償法1条1項の認定が中心となり、国家賠償法2条1項の瑕疵の認定過程は明白ではありません。
しかしながら、ネットにぶら下がることを「通常の用法」に含め、国家賠償法2条1項の瑕疵の認定に「通常の用法」を採用したと考えることもできそうです。

本来用法でなく、本来用法との関係から予想される用法の使用により事故が発生した場合、その予想される用法も「通常の用法」に含め、国家賠償法2条1項の瑕疵に関し、「通常の用法」を基準として判断される可能性もあると、この裁判例から考えることもできそうです。

瑕疵認定の基準としての「本来の用法」「通常の用法」

これらの判例・裁判例からしますと、実際に本来の用法でない使用が繰り返しなされている場合でなくとも、外形的に「本来の用法」ではない使用が予想でき、その本来的用法でない使用方法を禁止、阻害する措置がなされていないような場合、具体的事情によっては、その本来の用法ではない使用形態を「通常の用法」に含め、「通常の用法」を基準として瑕疵の判断がなされる可能性があると考えることができそうです。

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