その他

土地の工作物の範囲について

土地の工作物の責任

これもでも度々みてきましたが、民法717条1項は、

「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」

と規定し、「土地の工作物」に何らかの瑕疵があり、それが、原因で損害が生じた場合には、その工作物の占有者(占有者が責任を負わない場合は所有者)に対し損害賠償請求ができることを定めています。
この民法717条1項の責任を土地工作物責任といいますが、塀が倒壊して通りかかった人に死傷事故が生じたような場合に同条による損害賠償請求が問題となります。
この717条1項に対し、工作物の設置・管理者が国または公共団体等であった場合、国家賠償法2条1項の公の営造物の瑕疵の問題となります。
そこで、民法717条1項の「土地の工作物」の責任と国家賠償法2条1項の公の「営造物」の責任は共に瑕疵ある物の占有者・管理者、所有者の責任を定めたものといえ、土地の工作物(以下「土地工作物」といいます。)と営造物は同一なのかが疑問となります。
営造物に関しましては、国家賠償法2条1項に関するブログ記事で述べましたように、動産も含まれ、ハンマー投げのハンマーも営造物と認定されています(名古屋地判平成31年4月18日)。
しかし、民法717条の土地工作物に関しては、条文の文言が「土地の工作物」となっている以上、一定程度は土地との関係がなければ土地工作物に該当し得ないようにも思われます。

土地の工作物にどこまで該当するか

土地の工作物の定義を示した判例

土地工作物に関しましては、古い判例ですが、大判昭和3年6月7日で、コンクリト造の擁壁が崩壊し、崖下の住宅の住民が死亡した事故の訴訟(大判昭和3年6月7日)において、崩壊した擁壁が土地工作物に該当するかが問題となりました。この点について大審院(明治憲法下の最上級審の裁判所)は、

「土地ニ接着シテ人工的作業ヲ為シタルニ依リテ成立セル物ハ即チ工作物ニシテ」(注:一部漢字は原文と異なり新字体使用)

としており、土地工作物は、人工的作業を加えた土地に接着した物と考えられていました。

土道を土地の工作物と認定した裁判例

自然の地形を利用した観光用庭園内の土道(舗装されておらず、砕石を敷いただけの歩道)で転倒し負傷した事故の裁判(東京地判平成29年10月6日)において裁判所は、

「・・・東口から・・・内に入ってしばらく通路を進行したところに小さな広場(以下「本件広場」という。)が存在するところ,東口から本件広場前までの通路(このうち東口側14.5メートルが本件通路である。)は,アスファルト等による舗装こそされていないものの・・・2メートル強の一定の幅員を保ちながら,ほぼまっすぐの形状をした土道で・・・砕石が撒かれるなどして・・・通路を横断するように3か所の排水溝が設置され・・・入退苑口付近には・・・木柵が設置され・・・維持管理していることが認められ・・・自然そのままの状態にあるものではなく,本件土地に人工的な作為をもって現在の形状にされた上,人の手によって維持管理されているものであって,民法717条にいう「土地の工作物」に当たる」

としています。事故現場付近の部分は、舗装されているわけではなかったようですが、通路には、排水溝が設けられたり、砕石がまかれるなど人工的な作業が加えられていたことから土地工作物と認定されたようです。

土砂採取跡に雨水が溜まりできた窪地を土地の工作物と認定した裁判例

また、国有林野内の土砂採取跡に雨水が溜まってできた池様の窪地に子どもが転落して死亡した事故で被害者の遺族が提起した損害賠償請求訴訟(福岡高裁那覇支部判決平成15年5月22日)の717条1項に基づく請求部分について、裁判所は、

「・・・民法七一七条一項・・・にいう「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的作業を加えたことによって成立した物をいう・・・本件池は、自然に出現したものではなく・・・土砂を採取して、土地の形状を人工的に変化せしめてできた窪地に雨水が溜まって出現したもので・・・土地に接着して人工的作業を加えたことによって成立した物であって、「土地の工作物」に当たる・・・

控訴人国は、土地の工作物責任・・・の瑕疵の有無についての判断基準と営造物責任・・・瑕疵についての判断基準を同一に解すべきことを前提に、一定の目的のために設置されたものでなければ「通常の用法」ということは考えられないから「土地の工作物」というためには一定の目的をもって設置されたものであることが必要であると主張する(が)・・・土地の工作物責任と営造物責任とは・・・成立要件及び適用範囲が完全に重なり合うものではないし、設置又は保存の瑕疵についての判断基準が必ずしも同一ということはできないので・・・土地の工作物の場合・・・公の目的に供されることが必要とされる公の営造物の場合と異なり、目的をもって設置されることが必要であると解すべき根拠はない。

・・・被控訴人国は、本件池は、降雨量等によってその形状を変えるものであるから「土地の工作物」には当たらないとも主張するけれども、本件池が降雨量や時間の経過によってその形状を変えるものであったとしても、そのことのみから直ちに、本件池が「土地の工作物」に当たらないということはできない。」

と判断しています。
この判決の引用部分の最初の段落と2番目の段落は、その物自体を作出するためではなく、他の目的のために工作を加えたところ、目的外のその物が偶然出来上がった場合でも、その偶然発生した物も土地工作物と認定されることがあること示しています。
尚、引用部分の第2段落において、

「土地の工作物責任と営造物責任とは・・・成立要件及び適用範囲が完全に重なり合うものではないし、設置又は保存の瑕疵についての判断基準が必ずしも同一ということはできない」

としている点は、これまでにみてきたとおりです。
この裁判でもそうですが、国または地方公共団体が設置または管理すると考えられる物の瑕疵により損害が発生した場合、国家賠償法2条1項と民法717条1項の双方の構成で損害賠償請求をおこなうことが考えられます。
一般的には、国家賠償法2条1項に基づく請求の方が認められやすいとも考えられますが、上記引用部分の第2段落からも分かりますように、この事故のように事故の原因となった物が公の目的に供されているとは言い難いような場合(この事故の原因となった池は、そもそも国は作る目的がなかったのですから、池が公の目的に供されていると認定するのは相当困難であると思われます。)などには、民法717条1項の土地工作物責任の方が認められやすいこととなり得ます。

ゴムホースを土地の工作物と認定した判例

次に、ブタンガスボンベのバルブの不良あるいはゴムホースの劣化によりブタンガスが漏洩、噴出し、火災が発生したことによる損害賠償請求事件(最判平成2年11月6日)において、最高裁は、

「本件ガス消費設備は、本件建物の外壁に沿って集合装置を取り付け、ここにガスボンベを設置し、ボンベのバルブから本件高圧ゴムホースで導管に、導管でベーパーライザーに、それぞれ接続するという構造のもので・・・一体としてその機能を果たすもので・・・導管は、下端を地中に埋め、上端を本件建物の軒下に固定した鉄製パイプ、・・・建物の外壁及び・・・隣接する作業場建物の外壁にそれぞれ金具で固定され・・・ベーパーライザーは、本件建物内玄関前に打たれたコンクリート上に置かれ、コンクリート面にビスを埋め込んで固定され・・・高圧ゴムホースは、ねじと充てん剤で接続されているもので比較的容易に着脱することができるものではあるが、一年から数年程度の期間にわたり導管との接合を同一にしたまま使用されるもので・・・ガス消費設備はそれ自体一体として民法七一七条一項にいう土地の工作物に当たり、本件高圧ゴムホースはその一部をなすものとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない」

と判示しています。
この事件では、特に高圧ゴムホースが土地工作物に該当するかが問題となり得るのですが、最高裁は、ガス消費設備を機能的に一体のものとして捉え、そのガス消費設備の構成部分であるボンベ、ペーパーライザーが建物に固定されていることから、ガス消費設備も土地工作物に該当するとし、その上で、ガス消費設備の他の構成部分である高圧ゴムホースも土地工作物に該当すると考えたと思われます。
このように、複数の物が各々独立した物と言いうる場合で、その内のいくつかは単独では土地工作物と断定しがたい場合、複数の物全体が機能的一体性を有するのであれば、複数の物を全体の構成部分ととらえ、全ての物を土地工作物ととらえることができると考えられます。

土砂集積場の土地の工作物該当性を否定した裁判例

一方、古い裁判例ですが、工事現場付近の土砂集積場でブルトーザーを運転していた人が、転落して死亡した事故を理由に遺族が土砂集積場を土地工作物として工作物責任を求めた損害賠償請求事件(岡山地判昭和45年8月13日)において裁判所は、

「・・・本件土砂の集積場は、・・・土砂を・・・作業現場に運搬する途中において、運搬の都合上、暫定的に積み替えのため山積みにしたものにすぎないので・・・その集積された状態は、成程土地に接着して人工的につくられたものではあるが・・・運転作業の進展にともなって、たえず増減変動し、それ自体存在の目的を有せず、かつ、その営む機能や効用の点からも到底土地の工作物と目すべきものとは言えない」

として土砂集積場の土地工作物該当性を否定しています。
しかし、裁判所が、土地工作物性を否定する理由としている

「運転作業の進展にともなって、たえず増減変動し、それ自体存在の目的を有せず、かつ、その営む機能や効用の点からも到底土地の工作物と目すべきものとは言えない」

という部分は、上記の福岡高裁那覇支部判決平成15年5月22日の判断とは矛盾するようにも思われます。
土地を掘り返した箇所に目的外でできた池の場合、土地に対し工作が加えられたことは否定はできませんが、一方この岡山地判昭和45年8月13日のケースは土石を土地上に積んだだけですので、土地に工作したといいうるか微妙です。
そうしますと、むしろ端的に土地に工作を加えたとは言えないことを理由にしていると考えた方が、2つの裁判例を整合的に解釈できると思われます。

土地の工作物が認められる範囲について

このように、土地の「工作物」には、客観的に工作が加えられていれば認められ得るのであり、また、土地の工作物の範囲は、機能的一体性が認められる物まで及ぶといえます。

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