同一関係者の連続事故の過失認定~スキー場の2年連続クレバス転落事故

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

連続して発生した同一関係者が関与する事故の過失認定には、どのような特徴があるのでしょうか。

ここでは、同一のスキー客が、2年連続して、ほぼ同時期に、同一スキー場内において、同様な態様によりクレバスに転落した事故に関する訴訟の控訴審と上告審の判決をみながら、連続して発生した同一関係者が関与する事故の過失認定の特殊性について解説します。

クレバス転落事故の位置付け

スキー場の事故として、下記の記事では、スキー場の立入禁止区域での雪崩事故に対するスキー場運営会社の工作物責任についてみてみました。

今回は、スキー客が、スキー場の閉鎖直後にコース内のクレバスに転落し、傷害を負った事故(以下「クレバス転落事故」といいます。)におけるスキー場運営者の法的責任についてみてみます。

この事故は、同一人物がほぼ同時期に、同一スキー場内において、2年連続して同様な態様でクレバスに転落したという点が特徴的です。

ここでは、2年連続して、同じような事故にあっている点が、負傷したスキー客との関係において、スキー場運営管理者の2年目の過失認定にどのような影響を与えたかを主にみていきます。

事故の概要

このクレバス転落事故は、シーズンが終了し、すでに閉鎖されていたスキー場において発生したものです。

この事故当時、スキー場のゴンドラの駅(登山者もよく利用する)の待合室には、スキー場が閉鎖されていることを伝える掲示がされており、ゴンドラ駅の改札員も、スキーを持参している乗客に対しては、スキー場が閉鎖されていることを口頭で伝えていました。

この時、スキー場のパトロール業務は終了していましたが、スキー場のリフトの一部は観光客のために運行させていました。
尚、観光客だけではなく、スキーヤーもこのリフトを利用していたようですが、係員は、とくにスキーヤーを制止することをしていませんでした。

そのような状況の中、スキークラブの会員5~6名が、このリフトから少し離れた場所からスキーで滑走したところ、その会員のうち1名(以下「A」といいます。)がクレバスに転落し負傷してしまいました。
尚、事故現場は、会社の管理運営区域内ではありましたが、ほぼ年間を通じ滑走が禁止されているコースでした。

この事故発生時、Aらは、ゴンドラ駅の掲示板に気づかず、また駅員からも閉鎖したことを聞かされていませんでした。
このこともあり、Aらはスキー場が閉鎖されていることに気づいていなかったようです。

しかし、この事故の発生した翌年、ほぼ同時期に、同じスキー場において、スキー場の閉鎖日(業務は同日の昼頃に終了)に、同じくスキークラブ6名とともに滑走したAは、前年に続きクレバスに落ち、ふたたび負傷してしまいました。
尚、この2回目の事故のあった日の午前中、パトロール要員が危険表示のための赤旗を事故現場に立てましたが、その後、Aらが滑走する前に、何者かにより、その赤旗は抜き去られていました。

ここでは、この2つの事故をあわせて、「クレバス転落事故」と呼び、最初の年の事故を「第1事故」、翌年の事故を「第2事故」と呼ぶこととします。
第1事故と第2事故の現場は、同じスキー場内ではありますが、場所は異なります。

事故当時、このスキー場は、国設スキー場の設置使用の許可を受けた会社(以下「甲」といいます。)が管理運営していましたが、この会社は、権利能力なき社団である管理運営協議会(以下「乙」といいます。)にスキー場の管理運営を委託し、甲の事務所長兼乙理事を務める人(以下「丙」といいます。)が、スキー場の管理運営を担当していました。

このような事情のもと、Aは、丙にスキー場管理上の過失があったとして、丙および乙に対し、損害賠償を求めるとともに、丙の使用者であるとして、甲に対しても損害賠償を求め、訴訟を提起しました。

尚、1審の判決文が入手困難であるため、詳細は不明ですが、A並びに甲および乙が控訴審以降の訴訟当事者であり、丙は控訴審以降、訴訟から外れています。

裁判所の判断

控訴審判決

このクレバス転落事故について、控訴審は、

・・・営林署長の国有林野使用許可書には、使用許可の条件として・・・甲は・・・スキー場の管理運営に当らなければならない旨が規定され・・・このような条件のもとに国有林野を使用し、本件スキー場においてリフトによる旅客運送事業を営んでいる甲としては、スキー場の供用期間(特にその終期)を定めてこれを公示し、一般に周知させるようにし、供用期間中は利用者の安全を図るため、気象、積雪の状況、ゲレンデにおける危険物の有無等に注意し、危険物を除去し、状況に応じ危険箇所の滑降禁止、スキー場の全面的使用禁止等を行ない、標識、告示板、その他適当な方法により右禁止を利用者に周知させるようにし、供用期間後観光客のためリフトを運行する場合には、見えやすい場所にスキー禁止の標識をするとともに、スキー客はこれに乗せないようにする義務があるものというべきで・・・甲から委託を受け現実に本件スキー場を管理運営している乙も甲と同一の義務があるものというべきである。そこで第一事故について考えるに・・・乙(理事第一審相被告丙)は・・・ごろをもって本件スキー場を閉鎖し、同日ごろその旨をロープウエーの・・・駅の待合室に掲示し、かつ、同駅の改札員をしてその旨をスキーを持った客に伝えるようにさせたのであるが、スキー場にはその旨の掲示をせず、また、・・・リフト及び・・・リフトを停止することなく依然として観光客用に運行し、これを一般スキーヤーが利用することをなんら制止せず、コースは概ね黄色いテープを張って閉鎖の表示をしていたものの、第一事故を生じたコースは黄色いテープを張っていなかったのであるから、閉鎖の周知方法が不十分で、かつ、スキーヤーを観光客と区別せずに漫然とリフトで運んだ過失があり、右過失と第一事故とは相当因果関係があるものというべきである。

次に、第二事故について考えるに・・・乙は、・・・をもって本件スキー場を閉鎖することにきめたが、その閉鎖の日及び時間を公示し、周知させることをせず、パトロール隊は同日午前中のパトロールにより第二事故の生じたクレバスを発見し、コースの出発点に赤旗三本を立てて危険の標識をし、その後何者かによって右赤旗が抜き去られたのに、同日正午以降パトロールを全然しなかったため遅滞なくこれを復旧することができず、一方同日正午以降も・・・リフト及び・・・リフトを動かしてスキー客を山頂に運んでいた過失があり、右過失と第二事故とは相当因果関係があるものというべきである。そして、第一審相被告丙は、権利能力なき社団である乙の理事としてその職務を行うについて過失があったものと認められるから、乙は、民法四四条一項(注:その後民法改正により同条は削除されています。)の類推適用によりAが被った損害を賠償する義務があるというべきである。

また、・・・乙は、甲から本件スキー場の管理運営を委託されていたが、管理運営の方法、事務処理等の全般について甲の指揮監督を受け、管理運営に関する費用も甲から支給を受けていたから、独立の地位を有する受託者ではなく、民法七一五条にいう被用者であると認めるのが相当で・・・丙は、甲の理事としてその職務を行うについて右過失があったのであるから、甲は、乙理事たる丙の右過失によってAが被った損害を賠償する義務があるものというべきである。

東京高判昭和60年1月31日

と判示しています。

ここでは、第1事故においては、乙に関して、

  • スキー場に閉鎖されている旨の掲示をしていなかったこと
  • リフトを観光客用に運行していたこと
  • スキー場閉鎖の周知が不十分であったこと
  • スキーヤーを一般観光客と区別せずリフトに乗せていたこと

などに過失があるとしています。

一方、第2事故に関しては、

  • 閉鎖の日および時間を公示し、周知することをしなかったこと
  • 事故発生日正午以降パトロールをしなかったこと
  • 閉鎖した正午以降もリフトを動かしてスキー客を運んでいたこと

などに乙の過失があるとしています。

そして、乙は、独立の地位を有する受託者ではなく、甲との関係では、民法715条の被用者に該当するとし、甲の損害賠償義務を認めています。

しかし、事故にあったスキーヤーであるA側の事情として、裁判所は、

一般に、スポーツは、常にある程度の危険を内在しているところ、特に、スキーにおいては相当高度の危険性を内在しているものであり、特に、本件スキー場においては、五月中旬に至ればゲレンデの状態が不良となり、しかも急速に変化するのは公知の事実であるから、スキーヤー自身においても安全な場所を選び、事前に適切な方法でクレバスの発見に努め、滑行速度を調節する等して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるものというべきで・・・第一及び第二事故現場の状況、事故発生の態様、その他諸般の事情からすれば、第一審原告は、第一事故については、相当の注意をすればすでに本件スキー場が閉鎖されていたことを知ることができたはずであるのに・・・気ずかなかった過失があり、また、第一事故、第二事故とも、五月の中旬ことさらゲレンデの状況の悪い急斜面を選んで滑走し、滑走に際しクレバスの確認及び回避に十分な注意を払わなかった過失があり、第一審被告らの過失に対する割合は、第一事故について第一審原告九割、第二事故について同七割と認定するのが相当

東京高判昭和60年1月31日

としています。

ここでは、第1事故について、Aにも、

  • 相当の注意を払えばスキー場が閉鎖されていたことを知ることができたのに気付かなかったこと

第1事故および第2事故いずれにも、

  • 五月の中旬に、ことさら状況の悪い急斜面を選んで滑走し、滑走に際しクレバスの確認および回避に十分な注意を払わなかったこと

に過失が認められるとしています。

これらにより、裁判所は、過失相殺をおこなっています。

上告審判決

この控訴審の判決に対し、甲および乙が上告したところ、最高裁判所は、

・・・本件各事故が丙の本件スキー場の管理の過失によるものであるとした原審の右判断は是認することができない。その理由は次の通りである・・・第一事故は、積雪が減少したために乙においてスキー場の閉鎖を決定した日から一〇日以上を経た、スキー場の一部に芝生が見え、ハイカーが来ているような暖かい日に、指導員の資格をもつベテランスキーヤーであるAが、スキー場の閉鎖を掲示してあるロープウェー待合室の掲示板を見過ごした上、リフトを降りてから第一事故現場付近に至るまでのより安全な地形の場所にあるコースのすべてに閉鎖の表示がされているのを知りながら、乙が年間を通じてほとんど滑降を禁止しているような急傾斜地において、前方にクレバスが見えているにもかかわらずその付近に向かって滑降し、右クレバスに転落したというのであるところ、シーズン末期のスキー場閉鎖の前後においては、積雪量の減少による危険物の露出、気象の変動に伴う刻々の雪質の変化及びこれによる積雪の崩落などが予想され、このような時期にクレバス付近をスキーで滑降すれば積雪が崩落してクレバスに転落する恐れがあることは、クレバス付近にコース閉鎖等の表示がなくても、スキーヤーにおいて当然に予知し得るところであるというべきであるから、第一事故は、スキー場閉鎖の掲示を見過ごした上、前示のような時期、場所において前方にクレバスがあるのが見えているのに、あえてクレバス付近を滑降したA自身の過失に起因して発生したものというべきであって、丙の本件スキー場の管理の過失によるものということはできない・・・

第二事故について・・・事故当日をもってスキー場を閉鎖して、パトロール業務をやめることとしたが・・・乙のパトロール要員らは、午前中のパトロールの際第二事故現場のクレバスを発見して、その上方に危険表示のための三本の赤旗を立てたというのであり、他方、Aは、当日は風が強く事故現場付近に上るための・・・リフトを始め、これより低い位置にあるリフトも運転が停止されていたので、仲間とともに本件スキー場に到着して昼食を済ませた後、徒歩で登れる低い斜面で滑降していたところ、初めに・・・リフトより低い位置にある・・・リフトが動き始めたので数回これに乗って滑降しているうち、・・・リフトが動き出したのでこれに乗り、終点で降りて徒歩で一〇メートル程登り、午後三時ころ仲間と一団となって緩やかな斜面を滑降し、地形が二五度位の急傾斜に変わる地点で、乙のパトロール要員らが午前中のパトロールの際第二事故現場のクレバスを発見して危険表示のための三本の赤旗を立てた地点において、いったん停止して前方を確認したが、その時には右赤旗は何者かに取り去られており、約一〇メートル下にある右クレバスは死角に入って見えなかったので、最初に飛び出して、右クレバスに滑り込むような形で転落したというのである。・・・甲は、事故直前まで事故現場付近に上るリフトを停止してスキーヤーを運んでいなかったので、一般のスキーヤーがリフト上方に上ることは困難な状態にあったのであり、このような状態の下において、事故までの数時間のうちにリフト上方に午前中に立てた赤旗が取り去られるようなことは丙にとって予見し難いところであったというべきであるから、同人が正午からリフトの運転を開始した直後の午後三時ころまでの間、第二事故現場付近のパトロールをさせず、取り去られた赤旗を復旧させていなかったとしても、同人の第二事故現場付近の管理に原判示の過失があったということはできないのであり、他方、Aは、前記のとおり危険が予知されるシーズン末期に、前年同時期に第一事故を惹起して本件スキー場のこの時期の危険性を熟知しているはずであるにもかかわらず、第二事故現場上方でいったん停止して前方を確認した際、前方が約二五度の急傾斜地で、しかも死角になって安全を確認できない場所があるのに、安全を確認しないままその場所に向かって飛び出したというのであるから、第二事故は、A自身の過失によるものというべきであり、原判示の事実関係の下において、他に丙の本件スキー場の管理にA主張の過失があったということもできない

最判平成2年11月8日

と判示し、甲および乙の責任を否定しました。

上告審は、第1事故については、「スキー場閉鎖の掲示を見過ごした上、前示のような時期、場所において前方にクレバスがあるのが見えているのに、あえてクレバス付近を滑降したA自身の過失に起因して発生したものというべき」として、丙の管理の過失を否定しています。

そして、第2事故についても、「危険が予知されるシーズン末期に、前年同時期に第一事故を惹起して本件スキー場のこの時期の危険性を熟知しているはずであるにもかかわらず・・・安全を確認しないまま・・・飛び出したというのであるから、第二事故は、A自身の過失によるものというべき」として、やはり、丙の過失を否定しています。

控訴審の第1事故と第2事故の過失相殺割合が異なる理由

控訴審で判示されているように、「スキーにおいては相当高度の危険性を内在して・・・本件スキー場において・・・五月中旬に至ればゲレンデの状態が不良となり、しかも急速に変化するのは公知の事実である」ことから、「スキーヤー自身においても・・・事故の発生を未然に防止すべき注意義務がある」のは、第1事故の状況でも第2事故の状況においてもあまり変わりはなかったと思われます。

しかし、控訴審において、第1事故の過失相殺の割合を9割、第2事故の過失相殺の割合を7割と、第1事故の過失相殺の割合の方を高く認定しています。
これは、主に、スキー場が閉鎖されていることを、Aが容易に知り得たか否かという点の違いであると考えられます。

第1事故の発生日はスキー場が閉鎖されてから10日以上経過していたのに対し、第2事故では、スキー場の閉鎖は事故当日の昼頃でした。
そこで、Aがスキー場が閉鎖されていたことを知り得た可能性は、第1事故と第2事故とでは異なると考えられます。
このことから、スキー場が閉鎖されたことを知らなかったことに対する、Aの過失の程度は第1事故と第2事故とでは異なるものと判断されます。
この違いが、過失相殺の割合の差に表れたものと考えられます。

上告審における丙の過失に関する認定

しかし、上告審では、第1事故、第2事故ともに、事故の原因はAの過失にあるとしています。
そこで、丙の過失を否定し、甲および乙の責任も否定しています。

第1事件については、控訴審においても9割の過失相殺の割合が認定されていましたが、上告審では、とくに、丙らの過失の内容に詳しい検討を加えることなく、Aの注意義務違反に対して検討を加え、Aの注意義務違反の程度を高く認定し直すことにより、第1事故の原因をAの過失にあるとして、丙らの過失を否定しました。

一方、第2事故に関しては、控訴審の過失相殺の割合の認定が7割と比較的低かったこともあり、上告審では、第1事故と異なり、Aの注意義務違反に関する検討と共に、丙の過失に関しても検討を加えています。

控訴審は、「パトロール隊は同日午前中・・・赤旗三本を立てて危険の標識をし、その後何者かによって右赤旗が抜き去られたのに、同日正午以降パトロールを全然しなかったため遅滞なくこれを復旧することができ」なかったことを過失認定の一事情としていました。

しかし、上告審では、乙の事故当日の午前中に立てた赤旗が取り去られることは予見しがたいことであったとして、午前中に危険の標識としての赤旗を立てたことで、乙は一応の危険防止措置を果たしていたと評価し、この点の乙の過失を否定しています。
その一方、Aは前年度も同時期に同様な事故にあっており、事故現場の危険性も熟知していたといえることを理由にAに高い注意義務を課すことにより、Aの過失の程度を高く認定し、第2事故はAの過失によるものであると認定しました。

つまり、第2事故については、控訴審の認定に比べ、丙の落ち度を低く認定し直す一方、Aの過失の程度も高く認定し直し、第2事故の原因をAの過失と認定しなおしたと言えます。

このように、クレバス転落事故では、2年連続して同様な事故にあったという事情が、事故にあった人の2年目の過失認定の一事情になったといえます。

珍しいスキー事故ではありますが、連続して発生した同一関係者が関与する事故における、過失認定の参考になるかと思われます。

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