相続

相続財産目録の不作成・不交付と遺言執行者の責任

遺言執行者と相続財産目録

民法1011条では、

「第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。」

と規定されており、遺言執行者は、その職務として相続財産目録の作成と交付が義務付けられています。

相続財産目録不作成の責任

それでは、遺言執行者が、財産目録の作成を理由なく遅延した場合どうなるのでしょうか。
これに関する裁判例としては、東京地判平成23年9月16日があります。
この事件の判決では、

被告が平成15年9月1日に遺言者の遺言執行者に選任されたこと,その後平成20年8月ころまで,遺言者の相続財産目録を作成せず,同月に至って初めて本件遺産目録を作成したことは当事者間に争いがない。被告が平成15年9月1日に遺言者の遺言執行者に選任されながら,平成20年8月ころまで相続財産目録を作成しなかったのは,遅滞なく相続財産の目録を調製して相続人に交付すべき遺言執行者としての任務(民法1011条1項)を懈怠したものであり,遅くとも,被告が遺言執行者に選任された平成15年9月1日から3年を経過した平成18年9月1日の時点においては,遺言者の財産目録を作成していないこと自体について不法行為が成立しているというべきである。

とし、

原告は,被告の第1の不法行為により,相続人として相続財産の内容を遅滞なく把握する機会を奪われ・・・相続財産の正確な内容の把握に困難を来したのであって,・・・相続財産についての紛争があったこともあり,相続財産の内容を正しく把握するために無用の労力と費用を要し,精神的な苦痛を受けたものというべきで・・・原告が被告の・・・不法行為によって受けた精神的損害については30万円と・・・評価するのが相当

として慰謝料の請求を認容しています。

以前みましたように、遺言執行者に関する規定である民法1012条3項は、委任の規定の644条を準用していますので、遺言執行者は、善管注意義務を負うこととなり、その善管注意義務違反があれば損害賠償義務を負うこととなります。
この裁判では、最初の引用箇所で遺言執行者選任後、3年経過した時点で相続財産目録を作成していなかったことが、違法であると判断されていることから、善管注意義務違反があり損害賠償義務を負うことになったのです。

しかし、この3年というのは、当該事案において3年間相続財産目録を作成しなかったのが違法であるとしているのであり、いかなる場合でも3年間作成しないと違法になるというわけではありません。東京地判平成21年12月8日において、

被告が相続財産目録の作成交付義務及び遺言執行事務処理状況の報告義務の履行を遅滞したと主張する。しかし,相続財産目録の作成交付義務及び遺言執行事務の処理の状況の報告義務は,その義務の性質上,これを履行するためには一定の時間を要するものであり,また,その具体的な履行の在り方等は,相続人の意向等を踏まえたものとすることが望ましいと考えられる。そうすると,上記各義務について履行遅滞があったというためには,遺言執行者とほかの相続人との間における具体的なやり取りの経緯等を踏まえた上で,義務の履行に不合理な遅れがあったと認められることが必要である。

と判示していることからも、このことが分かるかと思われます。
しかし、いずれにしましても、遺言執行者は、相当期間内に相続財産目録を作成しないと、損害賠償義務を負うこととなりますので、遺言執行者に就職された方は、注意が必要です。

相続財産目録の交付範囲

次に、作成した相続財産目録は、誰に交付すれば良いのでしょうか。条文上は「相続人」に対し交付しなければならないとされております。
しかし、遺言書に全ての財産を相続人以外の人に遺贈する旨の記載があった場合、相続人全員に遺留分がなければ、遺留分のない相続人は遺言と無関係とも考えられそうです(遺留分がある相続人は、遺留分侵害額を受贈者に対しなし得ることから、無関係とはいえないとも考えられます。)。
このような場合でも、遺産を受け取らない相続人にも相続財産目録を渡さなければならないのでしょうか。

この点につきましては、東京地判平成21年12月8日において(尚、相続法改正前の事件であることから、遺留分減殺請求が一応問題となっています。)、

現行民法によれば,遺言執行者は,遺言者の相続人の代理人とされており(民法1015条),遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付しなければならないとされている(民法1011条1項)ほか,善管注意義務に基づき遺言執行の状況及び結果について報告しなければならないとされている(民法1012条2項,同法645条)のであって,このことは,相続人が遺留分を有するか否かによって特に区別が設けられているわけではないから,遺言執行者の相続人に対するこれらの義務は,相続人が遺留分を有する者であるか否か,遺贈が個別の財産を贈与するものであるか,全財産を包括的に遺贈するものであるか否かにかかわらず,等しく適用されるものと解するのが相当である。しかも,相続財産全部の包括遺贈が真実であれば,遺留分が認められていない法定相続人は相続に関するすべての権利を喪失するのであるから,そのような包括遺贈の成否等について直接確認する法的利益があるというべきである。したがって,遺言執行者は,遺留分が認められていない相続人に対しても,遅滞なく被相続人に関する相続財産の目録を作成してこれを交付するとともに,遺言執行者としての善管注意義務に基づき,遺言執行の状況について適宜説明や報告をすべき義務を負うというべきである。

と判示しており、このような場合でも、遺産を受け取らない相続人にも相続財産目録を渡さなければならないとしています。この事件では、慰謝料と弁護士費用などの損害が一部認容されています。

このように、遺言執行者は、相当期間内に相続財産目録を作成し、相続人に交付する義務を負っており、その義務を果たさないと、損害賠償義務を負うことになりかねませんので、遺言執行者に就職された方は注意が必要です。

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