相続

遺産分割の遺産(相続財産)の範囲

遺産の問題点

遺言が無い場合、遺言があっても相続人の割合だけが定められている場合などでは、遺産分割の手続きにより具体的にどの相続人が被相続人(亡くなった方)のどの財産を相続するかを決めることとなります。
この遺産分割の前提として誰が相続人であるかと、遺産分割の対象となる遺産(相続財産)の範囲などが問題となり得ます。
遺言が存在せず、相続人間で話し合いがまとまらない場合、法定相続分に従って遺産を分割するのが原則となりますが、この場合には特に遺産の範囲が問題となります。 

遺産の範囲

基本的には被相続人の財産は遺産となるのですが、遺産に含まれないものもあります。
以前の記事で触れましたが、墓石のような祭祀財産は遺産に含まれず、墓地なども遺産には含まれないとされています(民法897条参照)。

生命保険金の遺産該当性

遺産に含まれるかが問題となるもののひとつに生命保険金があります。
単純なケースとして被相続人が母親、相続人が姉と弟の2人のみであった場合を想定してみます。
母親が自分を被保険者、受取人を姉として5000万円の生命保険に加入していたとします。
仮に母親に保険以外の財産が全く無い場合、弟は母親が亡くなった時に遺産を何も受け取ることが出来ないのでしょうか。
もし、生命保険金が相続財産だとすると死亡保険金の4分の1を遺留分として保険金を受け取った姉に請求できることになりそうです。

 この点については、平成14年11月5日の最高裁判所の判決において、

自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、「死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない

と判示されています。生命保険契約の被保険者、契約者が共に被相続人であったとしても、受取人として指定されている人(相続人)が固有の財産として被相続人の死亡時に死亡保険金の保険請求権を取得するのであり、観念的に保険金請求権も被相続人の死亡時の財産となり、遺産の一部を構成することになるものではないとしているのです。
したがって、事例のケースでは、弟は母親の死亡時、姉に対して死亡保険金の一部を請求することは出来ず、何ら遺産を受け取ることが出来ないのが原則となります。
しかしながら、最高裁判所の平成16年10月29日の決定では、

・・・死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当

として、特別受益の対象となる余地があるとしています。ただし、この決定の事案では、「特段の事情」があるとまではいえないとし、「特別受益に準じて持戻しの対象とすべきものということはできない」としています。

尚、判例上、従業員が死亡した時に会社から支給される死亡退職金も遺産には含まれないとされています。
また、遺族年金、弔慰金なども遺産に含まれないとされています。

このように遺産に含まれないものは、遺産分割時に分割対象の財産としては考慮されないこととなります。

名義預金の遺産該当性

名義預金について

亡くなった被相続人が子や孫の名義等で預け入れていた預金は名義預金といい、相続税の税務調査で問題となることが少なくありませんが、遺産分割の際にも相続人名義の預金が名義預金であり、遺産分割の対象の財産ではないかとして争われることがあります。
遺品の中から相続人名義の預金通帳が出てきた時、その預金通帳の預金(以下「当該預金」といいます。)が名義預金ではないのかが問題となることがあります。

名義預金の遺産分割時の問題点

この時には、①預金者(預金が実質的に帰属する者)は預金通帳の名義人である相続人なのか、亡くなった被相続人なのか、②亡くなった被相続人が預金者の場合、被相続人から生前に名義人に対し贈与されているのかが問題となり得ます。

特に①に関しては、子や孫の名義で被相続人が預金していた場合もありますし、一方、被相続人が子の預金通帳を預かっている場合もあります。
尚、預金者が誰になるかという点につきましては、名義人ではなく、預金の原資を実際に負担した出捐者であるとする客観説が通説であるとされています(最判昭和52年8月9日参照)。
このことから、被相続人が子や孫の名義で預金していた場合、実質的な預金者は被相続人として扱われます。

しかし、実質的な預金者が被相続人であったとしても、生前に贈与されたと考える余地もあります。
仮に生前贈与されたものだとされた場合、改正相続法では10年以内の贈与分(遺留分を侵害することに贈与者・受贈者共に悪意であった場合は10年超のものも)は遺留分の算定時に考慮されることとなります(民法1043条、1044条参照)。

この名義預金の問題は遺産分割時に争われるケースも多く、多くの裁判例があります。

例外的な遺産

このように、遺産分割時の遺産に被相続人名義の財産、あるいは被相続人が締結していた各種契約から発生している財産(債権)すべてが含まれるものではありません。また、被相続人名義ではなくても遺産分割時に遺産として扱われるものもあります。

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