雇用

退職時の年休買上げ

退職時の年休の疑問

Aさんは退職することとなっているのですが、年次有給休暇(以下「年休」といいます。)が20日残っています。
退職後は八ヶ岳山麓へ引っ越すことが決まっており、その準備を進める必要があることから、退職前に20日連続して年休を取得するつもりでした。しかし、会社から「続けて5日しか年休は取れないよ。年休の残り15日分を買い取るので。」と言われてしまいました。
5日の休みではとても八ヶ岳山麓への引っ越しの準備を進めることが出来ないことから、Aさんとしては会社の年休の買い上げの話は到底納得できるものではありません。
Aさんはこの年休の買上げをどう考えれば良いのでしょうか。

時季指定権と時季変更権

年休に関しましては労働基準法39条に規定がおかれていますが、その第5項では、年休の取得時期に関して、

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

と規定しています。

この条文のように、年休は労働者が取得時期を自由に決めることが出来るのが原則(「時季指定権」といいます。)ですが、会社も「事業の正常な運営を妨げる場合」には、有休取得日の変更を求めることができ(「時季変更権」といいます。)、単に「その日の年休取得は認めない」とするものでも良いとされています。

この労働基準法39条5項からしますと、Aさんは、年休20日の取得時期を指定することが出来ますが、その時期にAさんが20日間年休を取得することにより、会社の事業の正常な運営が妨げられるような事情があれば、会社は、その取得時期を承認しないことが出来そうです。
そうすると、会社の言うように、「5日しか年休は取れないよ」ということも出来るように思われます。

退職時の時季変更権と年休買上げの問題点

しかし、ここで問題なのは、①そもそも年休の買い上げが許されるのかということと、②Aさんの場合、退職時期が迫っていることから、年休を別の日に取得できなくなるとも考えられ、そのような場合にまで会社が時季変更権を行使してAさんの年休取得を承認しないことが出来るのかという問題です。

まず、①の年休の買上げの問題ですが、上記の通り、労働基準法39条5項で「使用者は・・・有給休暇を・・・与えなければならない」としていることから、金銭を代わりに与えるだけでは「有給休暇を・・・与え」たことにはならないと考えられ、年休の買上げ予約をし、年休の日数を減らしてしまうことは法律違反であるとされています(昭和30年11月30日基収4718号参照)。
ただし、年休の買上げにより従業員が任意に有給休暇を取得できないようにすることは認められませんが、従業員の任意により退職時に未消化となった年次有給休暇を買い上げることは許されると考えられています。

そこで、Aさんの場合も会社が15日分を買い上げることも事情によっては許されることとなりそうです。

次に②の退職時に代わりの日に年休を取得できなくなるような場合にも会社が年休取得を承認しないことが出来るかという点ですが、類似事例に関するものとして、少し古いものですが次のような厚労省の基収(昭和49年1月11日基収5554号)があります。

 (問)
 駐留軍従業員の年次休暇については、1月1日を基準として暦年を単位として整理している場合に、15年間継続勤務し、かつ、前年全労働日の8割以上勤務した労働者の場合、労働基準法によれば20日の年次休暇の権利を有するが、その者が、当該年の1月20日付で解雇される場合について、使用者は通常の場合と同様の時季変更権の行使ができるか。

(答)
 設問の事例については、当該20日間の年次有給休暇の権利が労働基準法に基づくものである限り、当該労働者の解雇予定日をこえての時季変更は行えないものと解する。

この事例は、解雇の場合の話ですので、任意退職、定年等の通常の退職の場合に当てはまるかは疑問がないわけではありませんが、一般的には、退職者が年休の消化ができなくなるように会社が時季指定権を行使することは労働基準法39条の趣旨からも許されないと考えられています。

業務引継と時季指定権

しかし、就業規則で退職時の業務引継義務を明記している場合が多く、一般的には退職予定者も業務の引継をおこなう必要があります。
通常の退職の場合であれば、引継等の理由で年休の取得時期の調整が必要な場合は、引継の日と年休取得日の調整を行うことにより年休消化が出来ないような状態に陥ることを回避することが可能な場合もあります。

Aさんの場合も、引継の関係で希望する20連休には出来なくとも、取得時期を変更すれば残りの年休を消化できるような時期に今回の話があったのであれば、事情によっては会社が5連休しか承認しないことも時季変更権の正当な行使となり得ると考えられます。
そのような場合は、Aさんが八ヶ岳への転居の作業日程を調整することとなりそうです。

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