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教育活動の登山事故における法的責任について(その4)

教育活動の場での登山事故として裁判で過失が認定された事故をみてきましたが、ここでは、教育活動の場での登山事故で過失あるいは安全配慮義務違反が認められなかった事故の判決を、教育活動の場の登山における教員あるいは指導者に課される注意義務または安全配慮義務の範囲を意識しながらみていくこととします。

ここでは、m)高校の特別活動の六甲山登山での落石事故(以下「六甲山落石事故」といいます。)、n)高校の課外活動での只見のメルガ岐沢における渡渉時の事故(以下「メルガ岐沢渡渉事故」といいます。)、o)大学の登山部の冬季涸沢岳西尾根での滑落事故(以下「涸沢岳滑落事故」といいます。)の判決をみていくこととします。

m)六甲山落石事故は、私立高校の校外行事としておこなわれた六甲山登山において、落石事故にあった生徒が死亡した事故で、クラス担任教諭(以下「教諭」といいます。)と校長に過失があるとして、遺族が高校の設置者である学校法人に対し安全配慮義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償及び使用者責任に基づく損害賠償を求め提訴しましたが、判決で教諭と校長の過失は否定され、学校法人に対する請求も棄却されました。

この事故の山行は、生徒がグループごとに高校から提示されている5つの登山ルートの中から一つのルートを選択し、事前に学校にコースを届け出るものでした。しかし、死亡した生徒(以下「A」といいます。)のグループは、学校に届け出たのとは異なるルートで登ることを生徒間で登山前の早い段階で決めていました。尚、Aらのグループが本当に登ろうと計画していたルートは学校が選択肢として示していた5つのルートのいずれとも異なるルートでした。登山当日は実際に学校に提出したのとは異なるそのルートで登り始めたところ、登りの登山道でAは落石事故にあい死亡しました。尚、教諭も校長も登山当日にAのグループに同行してはおりません。

教諭の過失に関して裁判所は次のように判示し、その過失を否定しています。

本件登山・・・の主体は高校三年生で・・・心身発達の程度が一般に成人のそれにほぼ匹敵する・・・から、かかる生徒に対しては自己の行為について自主的な判断で責任を持った行動をとることを期待することができ・・・同高校の教職員としては、生徒が右のような能力を有することを前提とした適切な注意と監督をすれば足り・・・生徒が通常の自主的な判断及び行動をしてもなお生命、身体等に危険を生じるような事故が発生することを客観的に予測することが可能であるような特段の事情がない限り、教職員は生徒の行動について逐一指導監督するまでの義務はないものと解するのが相当

これに続いて、

高校としては、指定した各登山コースを生徒が登山する際に発生することが予想される生徒の生命及び身体等に対する各種の危険につき、事前に十分に検討し、同校三学年生徒の一般的な能力に応じた適切な計画をたてたものと認めることができ、本件登山計画それ自体に特段の問題があるとは解されない

と特段の事情の存在を否定し、

事故の発生につき、予見可能性はなかったから、本件事故の発生につき、被告には帰責事由がない

と予見可能性が認められないとして過失の存在を否定しました。
判決では校長の過失も否定しており、学校法人への損害賠償請求を棄却しています。

次にn)メルガ岐沢渡渉事故の判決についてみてみます。
この事故は、公立高校の山岳部の行事としておこなわれた只見白戸川メルガ岐沢から丸山岳へ登る7月下旬の夏山山行において、部員の高校1年生(以下「B」といいます。)が梅雨前線の停滞のため増水していたメルガ岐沢を遡行中に転倒し流され死亡した事故です。遺族は山岳部の顧問教諭に登山プランを許可したことへの過失及び指導監督上の過失があったとし、高校の設置者である地方公共団体に対し国家賠償法に基づく損害賠償を求め提訴しました。

尚、この高校の登山部では、伝統的に顧問教諭の指導面での関与を敬遠する傾向があり、事故のあった山行に関しても、顧問教諭への山行計画提出後に日程を短縮する計画変更をおこなっていましたが、その計画変更を顧問教諭へ報告せず、実際の出発日さえ顧問教諭に報告しておりませんでした。

この事故の1審の裁判で、裁判所は顧問教師の過失判断に際し、事故の原因について、

・・・行動の遅れによる焦りから、パーティーが昼食や十分な休息をとることなく降雨の中で長時間の遡行を続けたこと及びBが渡渉する際にパーティーが二つに分かれており、救出に十全を尽せなかったこと、すなわち、パーティーの具体的な判断、行動の誤りにあると認められる・・・もっとも・・・事前の計画修正段階あるいは出発直前に適切な助言、指導があれば、本件事故はあるいは防止できたと考えられなくもない

と認定し、

計画の変更は(顧問)教諭には報告されず、また、実際の出発日も同教諭に報告されないまま、本件山行が実行に移されたものであるから・・・同教諭に指導、監督義務違反があったということもできない

として、顧問教諭の過失を否定、地方公共団体への損害賠償請求を棄却しています。その後、控訴されましたが、控訴棄却されています。

更に、o)涸沢岳滑落事故についてみてみます。

この事故は、国立大学の登山部が冬季合宿として実施した年末・年始の新穂高温泉から涸沢岳西尾根を経由して奥穂高岳を往復する山行において、1月1日に涸沢岳直下まで到達した時点で登頂を断念、下山を開始しましたが、下山途中の蒲田富士直下の岩稜帯において部員の1人(以下「C」といいます。)が滑落、死亡したものです。尚、参加した部員はザイル,シュリンゲ,カラビナ等を持参しておらず、涸沢岳直下で登頂を断念した理由の一つはアイスバーン状の雪面が続きザイルなしでの登頂に危険を感じたことであったとされます。

Cの遺族は、当該山行でリーダーを務めていた同大学の登山部部長、山行に参加せず緊急連絡先を務めた登山部部員及び登山本部を務めた登山部OB並びに同大学の設置者である国に対し不法行為責任あるいは安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を求め訴訟を提起しました。

この事故の第1審の判決では、事故の原因について、

・・・再び下降を始める際,足下に対する注意をおろそかにしていたことにより,トレースを踏み外したこと,あるいは露出した岩にアイゼンを引っかけてつまづいたことをきっかけとし,3点確保の姿勢をとっていなかったこともあって滑落したものと認めるのが相当

と認定し、リーダーを務めていた登山部部長、連絡先を務めた部員及び登山本部を務めたOBの過失を否定しています。その理由に関し判決では、

(原告は、)本件山行は,力量の上の者が下の者を引き上げることを目的とする合宿であり・・・現に(リーダー)と他のメンバーとの力量には格段の差がある点,・・・実質的な決定者は(リーダー)である点において,「引率登山」・・・ないしこれに準ずるものに分類され・・・また,他のメンバーは登山者としての通常の体力,技術力,判断能力を有しているとはいえないから「未成年型」であり,かつ,「非営利型」の登山であるから,リーダーには最も高い注意義務が要求される旨主張し(ているが、)・・・自分より経験・力量とも劣るとはいえ,共に引率・指導する立場にあったCに対してまで,格別高い注意義務を負っていたとはいえない。また,一行の4人は,本件山行状況からして,体力的には問題がなかったものと認められる上,いずれも既に成人またはこれに近い年齢に達した大学生であることにかんがみれば,それ相応の判断能力が求められるのは当然であり,体力や判断力の未熟な児童生徒と同列に扱うことはできず,技術不足の一事をもって,本件山行を「未成年型」と評価することもできない

と判示しています。

また、国に対する損害賠償請求も棄却されています。

1審判決後、遺族は控訴しましたが、控訴棄却されました。その控訴審において、裁判所は、パーティーリーダで登山部部長の注意義務に関し、

大学生の課外活動としての登山におけるパーティーのリーダーは,そのメンバーに対し・・・事故の発生が具体的に予見できる場合は格別,そうでなければ,原則として・・・メンバーの安全を確保すべき法律上の注意義務を負うものではなく,例外的に,メンバーが初心者等であって,その自律的判断を期待することができないような者である場合に限って・・・メンバーの安全を確保すべき法律上の注意義務を負う

と判示しています。

また、国の安全配慮義務の判断の中で、

大学における課外活動は,学生による自律的な判断に基づき行われるべきであって,大学当局はこの判断を尊重すべきものである。もっとも,実施が予定されている課外活動について,学生の生命身体に危険が生じることが具体的に予想され,かつ,大学当局においてこれを認識し又は容易に認識し得た場合には,大学当局は,学生に対する安全配慮義務の内容として,課外活動を実施しようとする学生に対し・・・指導・助言をするべき義務がある

と判示しています。

これらの判決の内、m)六甲山落石事故は、高校と中学という違いがありますが、ⅲ)石鎚山転落事故と同様に学校の特別活動としておこなわれた登山における事故ですが、m)六甲山落石事故には教員が同行しており、ⅲ)石鎚山転落事故では同行していなかったという違いがあります。

n)メルガ岐沢渡渉事故とⅳ)朝日連峰熱射病死亡事故は共に高校の課外活動の登山での事故ですが、前者には教員は同行しておらず、後者では教員が同行し、パーティーのリーダーやサブリーダーを務めていました。

また、o)涸沢岳滑落事故とⅴ)平成12年3月の大日岳遭難事故は共に大学の山岳サークルあるいはその延長線上の登山における事故ですが、前者のリーダーは同じサークルの部長でしたが、後者ではプロの登山ガイドが引率していました。

そして、教員の過失を否定したm)六甲山落石事故では、その裁判で「高校三年生で・・・心身発達の程度が一般に成人のそれにほぼ匹敵する・・・から・・・特段の事情がない限り、教職員は生徒の行動について逐一指導監督するまでの義務はないものと解するのが相当」と判示していたことは、上記でも引用したとおりです。この判示部分と上記のm)とⅲ)及びn)とⅴ)の事故の過失認定の差を見ますと、少なくとも高校では、学校教育活動としておこなわれる登山でも、山行に同行していない指導教員の注意義務の範囲は相当程度減縮されているものと考えられます。山行に同行していない教員に関しては、生徒から提出された山行計画に具体的な危険性が予期される(され得る)かを検討し、必要に応じ山行計画及び準備について指導する注意義務が生じ得ますが、それ以上の注意義務に関しては特段の事情がない限り問題とならなそうです。

また、o)とⅴ)の事故におけるリーダーの過失認定の相違から、教育活動としての登山においてもリーダーの注意義務は相当限定されているものと考えられます。尚、リーダーが学生ではなく、かつ、登山の目的が研修であったとき、注意義務の程度がどうなるかについては、ⅴ)大日岳遭難事故の判決において、当該登山が研修目的であること及び参加者の中に初心者がいたこと等を注意義務認定の際に重視していることから、リーダーが学生であれば注意義務が低く、外部の者であれば注意義務が高くなるとまでは言い切れないものと思われます。以前の記事で触れましたが、山岳会のロッククライミングの練習中の滑落事故で会員が受傷した事故の裁判で、指導する立場にあった会員に過失が認定されていることからすると、同じ立場のグループ内の構成員間でも注意違反が生じ得ることが分かります。そうすると、教育活動の登山において、リーダーが学生であってもリーダーに他の構成員に対する注意義務が認定され得るのではないかと考えられます。

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