国家賠償法3条の適用について

この記事で扱っている問題

国家賠償法1条および2条は、国または公共団体の損害賠償責任を規定しています。
これに対し、国家賠償法3条1項は、国または公共団体に対し損害賠償請求をなしうる者が、どの主体に対し損害賠償請求をなし得るのかを規定し、2項では、損害賠償金を実際に支払った国あるいは公共団体の団体が、他の団体に対する求償権を有することがあることを規定しています。

ここでは、主に国家賠償法1条および2条に基づく損害賠償請求を、国あるいは公共団体のどの団体に対しておこない得るのかについて、国家賠償法3条の条文および判例をみながら解説します。

国家賠償法3条について

国家賠償法3条の条文は下記のようになっています。

第三条 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
② 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。

3条1項について

国家賠償法1条および2条では、国または公共団体が損害賠償責任を負いうることを規定しています。
同法1条では、公務員が他人に損害を与えた一定の場合、国または公共団体が損害賠償責任を負いうることを規定しています。
しかし、国または他人に損害を加えた公務員の選任、監督にあたる団体と当該公務員の給与などの費用を負担する団体が異なっている場合、どの団体が損害賠償責任を負うのかは、1条の条文からでは明らかになりません。

一方、同法2条では、公の営造物の設置または管理の瑕疵により損害が生じた一定の場合に国または公共団体が損害賠償責任を負いうることを規定しています。
しかし、瑕疵の存在した営造物の設置、管理をおこなう団体と費用を負担する団体が異なっていた場合、どの団体が損害賠償責任を負うのかは、2項の条文からでは明らかではありません。

しかし、損害賠償の請求相手が条文から明らかでないと、損害を被った者が損害賠償をおこなう場合、どの団体を被告とすべきかが明確とならず、救済の機会を逸することになりかねません。

そのようなこともあり、同法3条1項では、

  • 同法1条の責任については、当該公務員の選任、監督にあたる団体と費用を負担する団体の双方が
  • 同法2条の責任については、営造物の設置、管理をおこなう団体と費用を負担する団体の双方が

損害賠償責任を負うとしています。

これにより、損害を被った者が、最終的な損害の負担団体を特定する負担を軽減しています。

3条2項について

上記のように、同法3条1項は損害を被った者の救済を目的とした条文であり、最終的にどの団体が損害賠償義務を負うのかを決定するものではありません。

そこで、3条2項では、実際に損害賠償金を支払った団体が、他の団体に対する求償権を有することについて規定しています。

国家賠償法3条1項が適用された裁判例

実際に裁判において同法3条1項が適用された裁判例としては、

  • 同法1条1項に基づく損害賠償として、福井地判令和元年7月10日
  • 同法2条1項に基づく損害賠償として、神戸地判昭和58年12月20日(1審)大阪高判昭和60年4月26日(控訴審)

があります。

福井地判令和元年7月10日について

この事件は、町立の中学校の教員が過重な学校業務により精神疾患を発症して自死に至ったのは、校長が当該教員の業務時間及び業務内容を把握し、業務の量を適切に調整するなどの安全配慮義務を負っているところ、その義務を怠ったことによるものであるとして、遺族に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償義務が認容されたものです。

当該教員が勤務していた中学校は町が設置者ですが、市町村立学校職員給与負担法1条により、県が給与を負担していたことから、県も国家賠償法3条1項により損害賠償責任を負うこととなりました。

そこで、裁判所は、

本件校長には,安全配慮義務違反の過失が認められ,国家賠償法1条1項の適用上の違法があると評価できるから,本件学校の設置主体である被告町は同項,本件学校の校長の費用負担者である被告県は同法3条1項の責任を負い,連帯して,損害賠償金・・・円及びこれに対する・・・日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を原告に対し支払う義務を負う。

福井地判令和元年7月10日

との判断を下しています。

神戸地判昭和58年12月20日について

この事件は、吊橋を支えていたメーンワイヤー2本のうち1本が切れ、吊り橋を渡っていた人が死傷した事故において、当該吊り橋の設置管理者である地元公共団体とともに、当該吊り橋を含む工事に対し補助金を支出していた国に対する国家賠償法3条1項に基づく損害賠償請求を認めたものです。

1審と控訴審は同法3条1項に基づく国の責任を認定しましたが、上告審では、国は、同項の費用負担者には該当しないとして国の責任を否定しました。

この事件については下記の記事で詳しく扱っています。

国家賠償法3条2項が適用された判例

国家賠償法3条2項が適用された判例としては、最判平成21年10月23日があります。

事案の概要

この事件は、市立中学校の県費負担教職員である教諭の生徒に対する体罰(暴行)により生徒が受けた損害を、国家賠償法1条1項、3条1項に基づき賠償した県が、同法3条2項に基づき市に対し、賠償額全額を求償した事件です。

最高裁の判断

当該事件の上告審である最高裁判所は次のように判示しています。

市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に損害を与えた場合において,当該教諭の給料その他の給与を負担する都道府県が国家賠償法1条1項,3条1項に従い上記生徒に対して損害を賠償したときは,当該都道府県は,同条2項に基づき,賠償した損害の全額を当該中学校を設置する市町村に対して求償することができるものと解するのが相当・・・国又は公共団体がその事務を行うについて国家賠償法に基づき損害を賠償する責めに任ずる場合における損害を賠償するための費用も国又は公共団体の事務を行うために要する経費に含まれるというべきであるから,上記経費の負担について定める法令は,上記費用の負担についても定めていると解される。同法3条2項に基づく求償についても,上記経費の負担について定める法令の規定に従うべきであり,法令上,上記損害を賠償するための費用をその事務を行うための経費として負担すべきものとされている者が,同項にいう内部関係でその損害を賠償する責任ある者に当たると解するのが相当・・・これを本件についてみるに,学校教育法5条は,学校の設置者は,法令に特別の定めのある場合を除いては,その学校の経費を負担する旨を,地方財政法9条は,地方公共団体の事務を行うために要する経費については,同条ただし書所定の経費を除いては,当該地方公共団体が全額これを負担する旨を・・・規定・・・上記各規定によれば,市町村が設置する中学校の経費については,原則として,当該市町村がこれを負担すべきものとされ・・・市町村立学校職員給与負担法1条は,市町村立の中学校の教諭・・・の給料その他の給与・・・は,都道府県の負担とする旨を規定するが,同法は,これ以外の費用の負担については定めるところがない。そして,市町村が設置する中学校の教諭がその職務を行うについて故意又は過失によって違法に生徒に与えた損害を賠償するための費用は,地方財政法9条ただし書所定の経費には該当せず,他に,学校教育法5条にいう法令の特別の定めはない。そうすると,上記損害を賠償するための費用については,法令上,当該中学校を設置する市町村がその全額を負担すべきものとされているので・・・当該市町村が国家賠償法3条2項にいう内部関係でその損害を賠償する責任ある者として,上記損害を賠償した者からの求償に応ずべき義務を負うこととなる。

最判平成21年10月23日

この判決の趣旨からしますと、国家賠償法3条1項により賠償金を実際に支払った団体は、法令上当該賠償金の負担を負う団体が他にある場合、当該団体が最終的に負担すべき損害賠償額を求償しうると考えることができます。

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