トライアル雇用とは~その法的性質、試用期間との関係など

この記事で扱っている問題

新型コロナウイルス感染症の影響で離職した人の未経験分野への就職をサポートする制度としても、近時、トライアル雇用制度の広報がおこなわれています。
ここでは、トライアル雇用制度の概要について解説した上で、トライアル雇用の法的性質、試用期間との関係などについて解説します。

トライアル雇用とは

トライアル雇用とは、未経験分野への就労、あるいは就労期間にブランクがある人を、原則3か月間試行雇用する就労支援制度であり、トライアル雇用をおこなう事業主向けにトライアル雇用助成金も用意されています。

このトライアル雇用では、トライアル雇用期間(原則3カ月間)当初に期間の定めのある労働契約(有期労働契約)が締結され、トライアル雇用期間満了時点で使用者と労働者が合意に至れば、あらたに期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結するスキームとなっています。

試用期間との相違

一般的に採用時には、本採用に先立って3~6カ月程度の試用期間が設けられることが多いとされています。
試用期間も採用者の適格性判断のために設けられるという点では、トライアル期間と類似の目的を有するものともいえそうです。
それでは、試用期間とトライアル雇用はどのように異なるのでしょうか。

この点、試用期間のある労働契約に関しては、試用期間開始時に本採用後と同一の労働契約(有期雇用でなければ、期間の定めのない労働契約)が成立するが、使用者が試用期間中に不適格であると認めた場合に契約を解約し得る解約権が留保されているものととらえられています。
このように、法的には、試用期間付きの労働契約は本採用後と同一の「解約権留保付労働契約」であると考えられています。

既に本採用と同一の労働契約が成立していることもあり、試用期間満了時の解雇についても、通常の解雇よりは広い範囲で認められるものの、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ解約権行使は許されるとされています(最判昭和48年12月12日).

尚、試用期間につきましては、下記の記事で詳しく解説しています。

一方、トライアル雇用期間に関しましては、上記解説のように、トライアル雇用期間中の労働契約と、トライアル雇用期間満了後の契約は、別の労働契約となります。

そこで、トライアル雇用期間後の本採用は、あらたな労働契約を締結するか否かの問題となります。

トライアル雇用契約と試用期間の関係に関する裁判例

それでは、トライアル雇用期間に、試用期間の性格を併有させることは可能なのでしょうか。

この点が問題となった裁判例としては東京地判平成19年11月9日があります。

事案の概要

この事件は、トライアル雇用期間中に解雇された者が、解雇は無効であるとして、労働契約上の地位の確認と解雇後の賃金の支払いを会社に求めて訴訟提起したものです(東京地判平成19年11月9日)。

会社の主張

会社は、解雇の有効性に関し、トライアル雇用期間の性質に触れ、次のように主張しています。

被告(注:会社のこと)は,原告(注:解雇された者のこと)を2月1日から3ヶ月間トライアル雇用した。また,訴外・・・も同時に雇用した。トライアル雇用期間は,試用期間であり,この期間中,その者が資質,性格,能力等の従業員としての適格性を有するか否かを審査して,本採用するか否かを判断することができる。
・・・被告は,原告を就業規則・・・条・・・号に基づき解雇したものである・・・

東京地判平成19年11月9日

これに対し、原告は、トライアル雇用は試用期間ではないと主張しています。

トライアル雇用の期間は3か月であることから、トライアル雇用開始時には、3か月の期間の定めのある労働契約が締結されていたこととなります。
そこで、原告が主張するように、トライアル雇用期間に試用期間としての性質がないのであれば、会社が期間満了前に解雇するためには、「やむを得ない事由」が必要となります(労働契約法17条1項参照)。

したがって、その場合、解雇の有効性の判断基準は、試用期間中の解雇に比べ、厳格なものとなると考えられます。

裁判所の判断

このトライアル雇用期間中の解雇の有効性について、トライアル雇用と試用期間の関係に触れながら、裁判所は、

・・・認定事実・・・によれば,原告は・・・評価せざるを得ない・・・このような原告の勤務態度,コミュニケーション能力を勘案して・・・トライアル雇用実施計画書・・・にある常用雇用に移行する条件に満たないと判断して被告が試用期間中に本件解雇をしたことには一定の合理性があり,当該解雇が違法・不当で無効ということはできない。
・・・この点,原告は,トライアル雇用は試用期間ではない旨主張・供述するものの,前記認定事実・・・からも明らかなように原告は試用期間3ヶ月を前提に求人に応募していることからすると,当該主張は採用できない・・・その他,本件証拠上,試用期間中の被告による留保解約権の行使の有効性を左右するに足る事情は見当たらない。

東京地判平成19年11月9日

と判示して、試用期間内の解雇として有効であるとしています。

このように、上記引用部分の最後の部分の「試用期間中の被告による留保解約権の行使の有効性を左右するに足る事情は見当たらない」とされる箇所からも、トライアル雇用も、法的に試用期間の性質を有しうるものと考えられます。

この裁判例の趣旨からしますと、トライアル雇用も、試用期間のある契約として「解約権留保付労働契約」となり得ると考えることができるものとなります。

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