養子の死後発生した養親の子の相続において養子の子は代襲相続するのでしょうか

※作成時の法律、判例に基づく記事であり、作成後の法改正、判例変更等は反映しておりません。
この記事で扱っている問題

子の出生後、その子の親が第三者と養子縁組し、親がその第三者の養子となっていた場合、判例上、親の養親の親族と子の間には血族関係が生じないとされ、子は親の養親の直系卑属ではないと考えられています。したがって、親の養親が死亡しても、親の養親を被相続人とする相続の代襲相続はできないものと扱われています。
それでは、上記の関係において、養親の子(親とは兄弟姉妹)が他の法定相続人なく死亡した場合、子は親を代襲して養親の子を相続できるのでしょうか。
この点については民法の条文文言から明らかとはいえません。

近時、この点について最高裁の判断が下されたことから、当該判例をみてみます。

問題の所在

養親の死亡時の代襲相続について

一般的には、相続が発生した段階で被相続人の子が既に死亡していた場合、下記のように民法887条2項により、その子の子(孫)が親が相続するはずであった相続分を親に代わって相続(代襲相続)することとなります。

(子及びその代襲者等の相続権)

第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。

2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

この点は、子が実子であろうと養子であろうと原則的には変わりません(民法809条参照)。

尚、代襲相続については、下記の記事で扱っています。

養子が関係する兄弟姉妹間の代襲相続について

しかし、子の出生後にその子の親が第三者と養子縁組し、その子の親がその第三者の養子となっていた場合、民法727条により親の養親と子の間には血族関係が生じないと判例上(大審院判決昭和7年5月11日)されており、子は親の養親の直系卑属とはならないものと考えられています。そこで、親の養親が死亡しても、民法887条2項ただし書きにより、その子は親を代襲して親の養親を被相続人とする相続の相続人になることはないとされています。

それでは、上記事例後、親の養親の子(親とは兄弟姉妹)が他の相続人なく死亡したとすると、子は親を代襲してその養親の子を相続できるのでしょうか。

兄弟姉妹間の相続に関しては民法887条2項のような規定が存在しないこともあり条文上から明確とまでは言えません。

近時、この点について最高裁の判決(最判令和6年11月12日)が下されてことから、ここでは、当該最高裁判決をみてみます。

事案の概要

被上告人および被相続人の親族関係等について

本件では、被上告人の母である訴外Aは、子である被上告人ら(複数人)の出生後、Aの母の姉であるB(Aの伯母にあたる)と養子縁組しました。しかし、その養子縁組時、Bには子Cがいたことから、AとCは姉妹関係となりました。

ところが、Cには子その他の直系卑属及びA以外の兄弟姉妹は存在せず、Cの死亡時、Cには直系尊属および配偶者も存在しませんでした(すでにBも死亡していました。)。

また、C死亡前にAも死亡していました。

本件訴訟に至る経緯および内容等について

本件では、死亡を原因とする被相続人Cの相続開始後、Cの妹である亡Aを代襲して、Aの子である被上告人らが相続したとして、被上告人らがC所有の土地・建物について相続を原因とする所有権移転登記および持分全部移転登記の各申請をおこなったところ、申請の権限を有しない者の申請であるとして、却下する旨の各決定(以下、「本件各処分」といいます。)がなされました。

そこで、被上告人らがこの決定を不服として本件各処分の取消しを求め、不動産登記申請却下処分取消請求訴訟を提起しました(以下、「本件訴訟」といいます。)。

1審、控訴審の判断および上告について

本件訴訟の1審では、原告(Aの子ら、被上告人)の請求は棄却されました。

しかし、控訴審は、民法889条2項により同条1項2号の場合に上記で引用した887条2項の規定を準用するに当たっては、同項ただし書の「被相続人の直系卑属でない者」は「被相続人の傍系卑属でない者」と読み替えることになるとして、被相続人であるCの傍系卑属にあたる被上告人らはAを代襲して相続人となることができると判断しました。

この控訴審の判断を国は不服として上告、その上告審の判断がここで取り扱う最高裁判決となります(したがって、上告人は国、被上告人らが代襲相続を主張しているAの子らになります。)。

最高裁の判断について

この控訴審の判断に対し、次のように、最高裁はまず、被相続人と養子縁組前の養子の子との間には血族関係が生じないことから、養子の子は(被相続人の子、養子の子の親)を代襲せず相続人にはならないということを明らかにしたのが民法887条2項ただし書であると判示しました。

・・・民法887条2項ただし書は、被相続人の子が相続開始以前に死亡した場合等について、被相続人の子の子のうち被相続人の直系卑属でない者は被相続人の子を代襲して相続人となることができない旨を規定している。これは、被相続人の子が被相続人の養子である場合、養子縁組前から当該子の子である者(いわゆる養子縁組前の養子の子)は、被相続人との間に当該養子縁組による血族関係を生じないこと(民法727条、大審院昭和6年(オ)第2939号同7年5月11日判決・民集11巻11号1062頁参照)から、養子を代襲して相続人となることができないことを明らかにしたものである。

最判令和6年11月12日

そして、この「血族関係」が生じないことから代襲相続を否定する趣旨を敷衍し、下記のように養子縁組前の養子の子は養子の親の子(養子縁組により生じた養子の兄弟姉妹)を被相続人とする相続において、親を代襲しないとの判断を導いています。

そうすると、民法889条2項において準用する同法887条2項ただし書も、被相続人の兄弟姉妹が被相続人の親の養子である場合に、被相続人との間に養子縁組による血族関係を生ずることのない養子縁組前の養子の子(この場合の養子縁組前の養子の子は、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者に当たる。)は、養子を代襲して相続人となることができない旨を定めたものと解される。

 したがって、被相続人とその兄弟姉妹の共通する親の直系卑属でない者は、被相続人の兄弟姉妹を代襲して相続人となることができないと解するのが相当である。

最判令和6年11月12日

そこで、本件においても、被控訴人らは相続人とはならないと下記のように判示しています。

これを本件についてみると、被上告人らは、本件被相続人とAの共通する親であるBの直系卑属でないから、Aを代襲して本件被相続人の相続人となることができない。

最判令和6年11月12日

本件判決と養子の子の代襲相続について(まとめ)

この判例からすると、養子の子に代襲相続が認められるかについては、被相続人と養子の子の間に血族関係が生じているかがメルクマールになるといえそうです。

そして、養子縁組前の養子の子には、親の養子縁組によってのみで親の養親およびその親族との間に血族関係は生じないのが原則です。

したがって、民法887条2項ただし書により、親の養親およびその親族を被相続人とする相続において、養子の子には代襲相続が認められないのが原則となるといえます。

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