配偶者居住権とは~配偶者は遺産の建物に終身、無償で住めるのですか?

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相続法の改正により、被相続人所有の建物を、被相続人の配偶者が終身の間、無償で使用、収益できる「配偶者居住権」が創設されました。

ここでは、この配偶者居住権について、どのような場合、だれに認められる、どのような権利であるかについて、民法の条文をみながら解説していきます。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人の所有していた建物に居住していたとき、終身の間、当該建物を無償で使用、収益することができる権利のことです。

配偶者居住権を取得できるのは

相続法改正により、民法1028条において、配偶者居住権は、下記のように規定されました。

(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

民法1028条

これらの条文から、配偶者居住権の要件として、

  • 被相続人の財産に属した建物に、相続開始の時、配偶者が居住していたこと
  • 相続開始時に建物が配偶者以外の者との共有ではないこと
  • 遺産分割協議により配偶者居住権を取得するものとされたか、配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと

が求められていることがわかります。

そして、この要件をみたすときには、関係者の協議により、配偶者が配偶者居住権を行使しうることとなります。
しかし、遺産分割協議がまとまらない場合においても、審判により配偶者居住権を行使することが可能な場合があります。
この点につきましては、民法1029条において、次のように規定されました。

(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

民法1029条

この1029条から、
・相続人間で配偶者居住権取得の合意が成立しているとき
あるいは、
・配偶者が家庭裁判所に対し、配偶者居住権取得希望を申し出、かつ、建物有者の不利益の程度を考慮しても配偶者の生活維持のため、特に必要があると認めるとき

には、審判により配偶者居住権の取得が認められることとなります。

つまり、配偶者居住権を取得する方法(ルート)としては、

  • 被相続人の遺贈
  • 遺産分割協議
  • 遺産分割調停
  • 遺産分割審判

の4つがあることとなります。

尚、内縁関係の配偶者については、配偶者居住権の対象とはなっていません

配偶者居住権の存続期間、終了について

一般的な存続期間について

配偶者居住権の存続期間、終了については、民法1030条において、

(配偶者居住権の存続期間)
第千三十条 配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

民法1030条

とされています。

したがって、配偶者居住権は、

  • 原則として配偶者の終身間存続
  • ただし、遺産分割協議、遺言、調停において別段の定めがされた場合はその間

存続することとなります。

配偶者の債務不履行による消滅について

配偶者居住権を有する配偶者に一定の用法違反があった場合、建物所有者により配偶者居住権が消滅させられることがあります。
この点については、民法1032条4項において、下記のように規定されています。

(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。
4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

民法1032条

このように、

  • 善管注意義務違反
  • 配偶者居住権の譲渡
  • 無断増改築
  • 無断転貸など

があった場合、相当期間内に是正するよう催告されても、配偶者が是正しない場合、建物所有者は、配偶者居住権を消滅させることができるとされています。

ただし、形式的に上記に該当する場合でも、その違反が軽微な場合にまで、配偶者居住権を消滅させることができるかについては、疑問が呈されています。
今後の判例の集積により、この点も明確になっていくものと思われます。

配偶者居住権の権利の内容について

権利の概要・範囲について

上記の民法1028条1項では、配偶者居住権の内容は

相続開始前から居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利

とされています。
このことから、相続開始時に建物の一部のみを使用していた場合でも、建物全体を使用、収益する権利が生じることがわかります。

尚、建物の固定資産税などの通常の必要費は、配偶者が負担することとなります(民法1034条1項参照)。

建物を収益する権利について

建物の収益としては、建物を他人に賃貸、一部を店舗として利用することなどが考えられます。
しかし、その賃貸に関しては、1032条3項において、建物所有者の承諾のない新たな賃貸は禁止されています。
上記のように、無断転貸は配偶者居住権の消滅事由となりえます。

建物の増改築、修繕について

上記の民法1032条3項から、建物所有者の承諾のない増改築は許されていません。

しかし、修繕などに関しては、次のように民法1033条に規定され、許されています。

(居住建物の修繕等)
第千三十三条 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。
3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

民法1033条

このように、配偶者は、使用・収益するのに必要な修繕をすることが可能です。

一方、配偶者が必要な修繕を相当期間内におこなわないような場合、建物維持の必要性もあり、建物所有者も修繕をすることができるとされています。

配偶者居住権の登記について

不動産登記法3条では、

(登記することができる権利等)
第三条 登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第二項及び第百五条第一号において同じ。)についてする。
(1号~8号省略)
九 配偶者居住権
(10号省略)

不動産登記法3条

と規定しており、配偶者居住権も登記することができます。

配偶者居住権に関しては、賃借権とは異なり、借地借家法31条の対抗要件は認められていません。
そこで、配偶者居住権を登記していない場合、建物所有者が第三者に建物を売却すると、配偶者は建物の買受人に対し、配偶者居住権を主張できないのが原則となります。

このこともあり、配偶者居住権を登記する必要性は高いものといえます。

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