整理解雇の気配を感じて法律相談に行く前に押さえたい3つのポイント

ポイント

  • 整理解雇に先行して希望退職の募集、個別の退職勧奨が多くの場合おこなわれます。

  • 整理解雇でも解雇予告を要し、解雇予告手当の支給が問題となります。

  • 整理解雇の有効性については、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④解雇手続の妥当性の整理解雇の4要素(要件)のひとつでも欠けると無効と判断するのではなく、①~④に関する諸事情から総合的に判断するようになってきていると考えられています。

整理解雇とは

今回の記事では、解雇の類型の普通解雇、整理解雇および懲戒解雇のうち、整理解雇について触れます。
整理解雇は、懲戒解雇と異なり、従業員の落ち度により行われる解雇ではなく、会社の人員削減の必要性からおこなわれる解雇のことです。

いわゆる「リストラ」と同義に使用されることがありますが、「リストラ」とは多少異なります。リストラは、会社の業績不振時のみではなく、戦略的な事業部門の統廃合時にもおこなわれます。

整理解雇の有効性に関しましては、詳細については後に触れますが、国内では、人材の流動性が低く、長期雇用慣行が一般的であったことから、その有効性判断に際しては、厳格な基準が採用されています。

整理解雇の手続きについて

整理解雇に際しては、後述の有効性判断の要素とされている整理解雇の回避努力との関係もあり、先行して、希望退職の募集、個別の退職勧奨がおこなわれることが多いものと思われます。この際には、外資系企業を中心にパッケージとして再就職あっせん、上乗せ退職金などの提示がされることがあります。

整理解雇においても、以前みました普通解雇と同様に解雇予告通知が交付され、解雇理由としては、「会社の経営上の必要性」などと記されているのが一般的です。整理解雇に関しましても、解雇理由証明書の交付を会社に対し請求できること、解雇予告が解雇日の30日以上前になされない場合、原則として、解雇予告手当が支給されることも変わりません。
整理解雇の場合は、退職金の特別加算がなされることもあります。

整理解雇の有効性判断判断

整理解雇に有効性と無効となった場合の法的効果

整理解雇に関しても、他の普通解雇、懲戒解雇と同様に、解雇の有効性が問題となります。

整理解雇も解雇であることから、労働契約法16条の

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労働契約法16条

という条文が適用され、解雇権を濫用した整理解雇は無効となり得ます。
整理解雇が無効とされた場合、雇用契約が継続していたこととなります。
その結果、一般的には、賃金が支払われなくなった日以降の賃金を未払い賃金として請求できることも他の解雇の場合と変わりはありません。

整理解雇の4要素(要件)

ただし、前述のように、整理解雇の有効性に関しては、厳しい基準で判断される傾向にあり、

①人員削減の必要性
②解雇回避の努力
③人選の合理性
④解雇手続の妥当性

整理解雇の4要件として、①~④の要件のいずれかを欠く場合には整理解雇は無効となると考えられていました。

しかし、近時では、①~④の4つのポイントを整理解雇の4要素と考え、①~④のいずれかが欠けた場合に、直ぐに整理解雇が無効となるのではなく、①~④の要素を総合的にとらえて、解雇権の濫用に至っているかを認定、整理解雇の有効性判断をおこなうと考えられる流れにあると考えられています。

4「要件」といいますと、一つでも欠けると無効となるとも捉えられやすいことから、ここでは、整理解雇の4要素ということにします。しかし、近時でも整理解雇の4要件と称する方が多いものと思われます。

この整理解雇の4要素のうち、

①人員削減の必要性とは、会社の置かれている環境から、経営上、人員を削減する必要性が認められるかということです。そのような必要性のない整理解雇は無効となり得ます。

②解雇回避の努力とは、人員削減を配転・希望退職などの他の方法により実現するよう努力したかということです。そのため、前述のように、整理解雇に先行して、希望退職の募集、退職勧奨などがおこなわれることとなります。

③人選の合理性とは、会社は、整理解雇の対象者の人選に際し、客観的・合理的な基準を設け、その基準を公正に適用していたかということです。恣意的な人選をおこなうと整理解雇は無効となり得ます。

④解雇手続の妥当性とは、会社は、労働組合または従業員に対し整理解雇の必要性、内容について説明し、協議する信義則上の義務を負うとされているものです。

整理解雇の有効性に関するその他の記事

整理解雇の有効性に関しましては、整理解雇後に人材募集をおこなった場合の①人員削減の必要性と②解雇回避の努力の問題に関し、既に下記の記事で扱っています。


また、コロナ禍での整理解雇の有効性に関しても下記の記事で扱っていますので、参考にしていただければと思います。

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