無期転換ルール回避目的の有期雇用契約の不更新条項は有効でしょうか

無期転換ルールと無期転換申込権とはどのようなものなのでしょうか

無期転換ルールが定められた平成24年労働契約法改正をみておきます

平成24年の労働契約法の改正により、労働契約法の第4章の17条~19条が改正されました(以下、当該改正後の労働契約法を「改正法」といいます。)。
その結果、18条により、平成25年4月1日以降に開始した有期雇用契約の契約期間の累計(以下「通算契約期間」といいます。)が5年を超えると、従業員は、会社に対して、雇用契約をそれまでの有期雇用ではなく、無期雇用契約とするよう求める権利(無期転換申込権)が生じることとなりました。

このような、継続的有期雇用契約を一定の条件下で無期雇用契約へと転換する制度設計を無期転換ルールということがあります。

この無期転換申込権を行使しますと、会社がどのように考えるのかに関わらず、次に掲げる労働契約法18条により、行使時に継続している有期雇用契約の満了日の翌日から無期労働契約が成立することとなります。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働契約法

無期転換申込権はどのような場合に発生して使えるのでしょうか

上記の労働契約法18条の規定から、無期転換申込権が発生するのは、

①同一の使用者(会社)との契約期間の累計が5年を超えていること

②有期労働契約が1回以上更新されていること

③現時点において同一の使用者との間で契約していること

という3つの要件を充たす場合となります。

そして、ある有期労働契約と次の有期労働契約の間に一定の空白期間がある場合には、空白期間以前の有期雇用契約期間は通算契約期間にカウントされないこととなっています(クーリング)。

無期転換申込権が争点となった裁判例

この無期転換申込権の行使は平成30年度から始まり、無期転換申込権が関係する労働事件の裁判例が少しずつ公表されるようになってきています。
そこで、無期転換申込権に関する裁判例をみながら、どのようなケースで問題が生じているのかをみてみることとします。

問題となった事件の概要

この無期転換申込権が問題となった事案は、雇用期間を1年とする期間の定めのある労働契約(有期雇用契約のこと)を10回更新していた有期雇用の大学職員が、無期転換申込権の行使が始まる平成30年4月を開始日とする雇用契約の更新を大学から拒否され、雇止めされたものです。
この雇止めをされた大学職員は、地位確認訴訟を提起しました。

その訴訟の期日において、大学職員は、雇止めは無効なので、雇用契約は継続しており、無期転換申込権が発生していると主張しました。
その上で、使用者である大学に対し,労働契約法18条1項に基づく無期転換申込権の行使をしました(徳島地判令和3年10月25日)。

この事件では、使用者である大学は、改正法の施行日平成25年4月1日の前の月である平成25年3月に就業規則を改定していました。
その改定で、施行日前から有期雇用されている者についても、有期雇用契約の契約期間が、改正法の施行日である平成25年4月1日から通算して、5年を超えることができないとされました。

無期転換申込権の発生直前の雇止めは有効なのでしょうか

この裁判では、大学の雇止めが労働契約法19条に該当するかが主要な争点となりました。

裁判所は、まず、労働契約法19条1号該当性について、

・・・(原告が働いていた)センターには有期雇用職員のみが配置され・・・労働契約を更新するに当たっては,事務長から,必ず,契約更新の希望の有無を確認されるほか,所長又は事務長から,辞令及び雇入通知書の交付をそれぞれ受け・・・無期労働契約者とは別個の本件就業規則が適用されていたことが認められ・・・被告において,更新手続が形骸化していたとまではいえず,被告の取扱いとして,原告ら時間雇用職員と,期間の定めのない労働者とは明確に区別していたというべきであり,原被告間の労働契約が実質的に期間の定めがないものと同視し得ると認めることはできない。
・・・原告は・・・社会通念上無期労働契約の労働者に対する解雇と同視できる事情として,原被告間の労働契約を更新するに当たり労働契約書を作成していないこと・・・原告が長年にわたり・・・センターにおける・・・業務に従事していたこと・・・賃金が平成26年以降値上げされてきたこと・・・等を指摘する・・・しかし・・・有期労働契約と無期労働契約の種別を明確にしつつ,その更新手続も形骸化することなく行われており,被告における無期労働契約を締結している労働者と同視し得る事情がないことに照らせば,原告が指摘する事情をもってしても,本件雇止めを社会通念上無期労働契約の労働者に対する解雇と同視することはできない・・・したがって・・・労契法19条1号に該当する事由は認められない。

徳島地判令和3年10月25日

として、同条1号には該当しないとしています。

その上で、同条2号の該当性について、

・・・19条2号・・・の契約期間満了時点における契約更新を期待する合理的な理由の有無を判断するに当たっては,当該雇用の臨時性・常用性,更新の回数,雇用の通算期間,契約期間管理の状況,雇用契約の更新に対する期待をもたせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮することが相当である。

徳島地判令和3年10月25日

と判断基準を示した上で、

・・・平成18年4月1日以降,毎年4月頃,それぞれ有期労働契約を更新し・・・更新の回数及び雇用の通算期間は,本件雇止めの時点までのみならず,同25年3月までの時点でも,相当多数回かつ長期間に及んでいるといえ・・・更新に当たっては,当初労働契約が締結された同18年度から同24年度までの間は,雇入通知書上,雇用期間満了時の業務量・労働者の勤務成績,態度・労働者の能力・学園の経営状況・従事している業務の進捗状況などを勘案しつつ,更新する場合もあるとの記載があり,現に,原告は,事務長から,5~10分程度,簡単な更新の意思確認を受け,その希望次第で更新することができていたのであって・・・更新手続自体が,原告に雇用契約の更新に対する期待をもたせるようなものであったといえ・・・原告が一貫して従事してきた・・・業務が臨時的な業務ではなく,常用性もあること・・・本件雇止めに至るまでの間,他の時間雇用職員が雇止めされたことがないこと・・・を併せて考慮すると・・・25年3月の時点(注:大学が就業規則を改正した時)で,既に,労契法19条2号所定の雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったものと認めるのが相当・・・被告理事会は,同25年3月,本件上限規定を定める本件決定を行い・・・同年度以降の雇入通知書には,更新回数については本件基準の定めるところによる旨の記載が追加され・・・上限規定が適用される旨示されるとともに,同29年度の雇入通知書には不更新条項が付されるに至っているなど,原告において,同30年4月以降も雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由を失わせるような事情も認められる・・・しかし,・・・本件上限規定が定められた時点で,相当回数にわたって,契約が更新されてきた原告にとって,今後の更新可能回数を制限することが労働条件の不利益変更に当たることは明らかであるところ,一般に,労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており,自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば,更新可能回数を制限する本件上限規定や不更新条項といった不利益な変更は,たとえ,これらが雇入通知書に記載され,これに対して労働者が具体的に異議を述べていなかったとしても・・・当該労働者が承諾したとみるべきではなく,当該労働者の自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものであり(最高裁平成25年(受)第2595号同28年2月19日第2小法廷判決・民集70巻2号123頁参照),そのような事情を踏まえて,雇用契約が更新されることについての合理的な理由が消滅したかを検討すべきで・・・被告は,原告に対して,本件上限規定が定められたことを告げるにとどまり,相当回数にわたって契約更新がされてきた労働者の取扱いに特に言及することもなく,原告から本件上限規定に係る承諾書の提出を拒絶されたにもかかわらず,本件決定のわずか数週間後に,本件基準を一方的に雇入通知書に追加して記載したにすぎず・・・雇入通知書には,「雇用の更新は,労働者の勤務成績・態度・能力及び業務上の必要性により判断する」などとあたかも更新される余地があると読むことができる記載もされている・・・平成29年4月の・・・労働契約締結の際にも,原告に対して,単に,不更新条項が付された雇入通知書を交付して,更新がない旨を伝えるにとどまっており,本件雇止めをする必要があることについて合理的な説明もしていない・・・事情を考慮すると,本件決定や雇入通知書の記載によってもなお,原告が自由な意思に基づいて,これらを承諾した上で同25年以降の契約更新に及んだと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるとはいえず,この点からも,雇用契約が更新されることについての合理的な期待が消滅するものとはいえない。
さらに・・・職員の一部が,被告に対し,平成25年5月頃から,本件上限規定を定める本件決定につき,抗議を行うとともに,同29年3月からは,本件上限規定を理由とする雇止めにつき,抗議を始めたこと・・・被告もこれに応じて有期雇用職員の雇用期間に関する説明会や意見交換会を開催したこと・・・教授会においても本件上限規定を理由とした雇止めの是非が議論されていたこと・・・原告が,・・・反対運動について,G教授から情報提供を受けていたこと・・・同年12月の時点で,本件上限規定に例外が定められ,時間雇用職員の一部について通算上限期間5年を超えて雇用されることが可能となったこと・・・本件雇止め前の同30年1月頃に,労働組合を通じて,被告に対して団体交渉を行ったこと・・・等の事情もあり,これらの事情も,本件雇止めに至るまでの間,契約更新がされると期待することについて合理的な理由があると評価すべき根拠になるといえる。以上によれば,契約更新がされると原告が期待することについての合理的理由は,本件労働契約満了の時点でもなお,継続していたと認めることができ・・・被告の説明や承諾書の提出依頼等・・・事実によっても,そのような合理的な理由が消滅するとはいえず・・・労働契約の満了の時点において,原告が労契法19条2号所定の契約更新がされるものと期待することについて合理的な理由があると認めることができる。

徳島地判令和3年10月25日

として、原告には、契約更新がされると期待することに対する、「合理的理由」があるとし、労働契約法19条2号の要件が充たされていることを認定しています。

更に、裁判所は、大学の労働契約更新拒絶が、同法19条柱書の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合に該当するかについて、まず、

本件雇止めは,本件上限規定を根拠にされたものであるところ・・・本件上限規定は,平成24年法律第56号による労契法の改正(平成25年4月1日施行)への対応として定められたものであると認められる。

徳島地判令和3年10月25日

と大学の平成25年3月の就業規則改訂が平成24年労働契約法改正対策であったことを認定しています。
その上で、

ところで,上記改正後の労契法18条は,雇用関係上労働者を不安定な立場に立たせる有期労働契約の濫用的な利用を抑制し,安定的な雇用である無期労働契約に移行させることで雇用の安定を図ることを目的とするものであるが

徳島地判令和3年10月25日

と,平成24年労働契約法改正の目的を示し、

・・・本件上限規定に係る本件決定は,上記労契法改正をきっかけとして,無期労働契約への転換が生じた場合に被告の財政状況がひっ迫するということを主な理由として,主に人件費の削減や人材活用を中心とした総合的な経営判断に基づき,更新上限期間を5年と定めたと説明されるにとどまり・・・有期労働契約の在り方やその必要性,本件決定がされるまでに相当回数にわたって契約更新されて今後の更新に対する合理的な期待が既に生じていた時間雇用職員の取扱いに関して具体的に検討された形跡はない。
そうすると,本件上限規定は,少なくとも,本件決定がされた平成25年当時,被告との間で長期間にわたり有期労働契約を更新し続けてきた原告との関係では,有期労働契約から無期労働契約への転換の機会を奪うものであって,労契法18条の趣旨・目的を潜脱する目的があったと評価されてもやむを得ず,このような本件上限規定を根拠とする本件雇止めに,客観的に合理的な理由があるとは認め難く,社会通念上の相当性を欠くものと認められ・・・(また、)本件雇止めをせざるを得ない経営状態であったとは到底認められない・・・本件雇止めは,客観的に合理的な理由がなく,社会通念上の相当性があるとは認められない

徳島地判令和3年10月25日

として、労働契約法19条1項柱書の要件もみたしていることを認定しています。

そこで、同条の要件を充たすことになり、同条の効果として、大学も、従前の有期雇用契約と同一の雇用条件での、原告からの雇用契約更新の申込みを承諾したものとみなされることとなります(上記引用の労働契約法19条の条文を確認してみてください。)。
これにより、従前と同一の条件での雇用契約が更新されたこととなります。
そこで、裁判所は、判決主文において、原告が、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認しています。

有期雇用契約の不更新条項は無効となりえます

上記の裁判例において、大学が、無期転換申込権の発生を回避するために設けた職員との有期雇用契約の更新回数を制限する不更新条項が、問題となっています。
しかし、上記の裁判例からも分かりますように、このような不更新条項を、無期転換を回避する目的で、就業規則あるいは雇用契約に規定しても、具体的事情によっては、労働契約法19条により、有期雇用契約は更新されたこととなり得ます。
有期雇用契約が更新されますと、上記裁判例のように、更新回数によっては、無期転換申込権が発生することとなります。その場合、従業員がこれを行使すれば、無期転換がなされることとなります。
このような場合、無期転換ルールを回避するための不更新条項は、実質的に効力を生じないこととなり、不更新条項を定めた目的を達成することが出来ないこととなります。

上記のように、不更新条項が実質的に効力を生じることなく、無期転換がなされる可能性は、具体的事情によっては、否定できないものと考えられます。
特に、平成24年労働契約法改正前から長期間、継続して有期雇用契約を更新していた従業員との間で、無期転換請求権を回避する不更新条項を定めたような場合は、当該不更新条項は効力を生じず、無期転換がなされる可能性が相当程度あるものと思われます。

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