スノーシューツアーの雪崩事故におけるガイドの刑事責任~ニセコ雪崩事故

ニセコ雪崩遭難事件の刑事裁判について

今回は、28)1月下旬にニセコアンヌプリにおいて実施された、有料スノーシューツアーの休憩中に、「春の滝」といわれる場所で発生した雪崩に巻き込まれ、参加者1名が死亡、1名が負傷した雪崩事件(以下「ニセコ雪崩遭難事件」といいます。)において、ツアーガイド2名(同行したガイド全員)が業務上過失致死罪および業務上過失致傷罪で起訴された刑事裁判(札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日)をみてみます。

この裁判では、引率したツアーガイド2名両名に、業務上過失致死傷罪の共同正犯が認定され、執行猶予付きの有罪判決が下されています。

この事件では、雪崩事故に対する注意義務の内容、刑事事件における過失の認定方法などが参考になるかと思われます。
また、同行したツアーガイド2名に対し共同正犯の成立を認定し、全く同じ内容の(量刑の)判決を下している点は、ツアーガイド間の量刑の異同を考える上での参考になるかと思われます。

事件の概要

この28)ニセコ雪崩遭難事件が発生したスノーシューツアーは、1月下旬に個人企業(以下当該個人企業を「X」といいます。)が企画開催し、Xの従業員であったツアーガイド2名が、有料参加者である客2名(ともに20歳代半ば)を引率し実施されました。

このツアーの最中、ツアー一行が、通称「春の滝」といわれる場所から標高で400m強下方にあたる地点で休憩していたところ、「春の滝」で表層雪崩が発生し、その雪崩に巻き込まれ、参加者のうち1名が死亡(以下死亡した参加者を「A」といいます。)、残りの参加者1名が負傷(以下負傷した参加者を「B」といいます。)しました。

尚、ガイド2名も雪崩により雪に埋もれましたが、ガイドのうち1名は自力で脱出(以下自力で脱出したガイドを「乙」といいます。)、残りのガイド1名は救助に駆け付けた人に救助されています(以下救助されたガイドを「甲」といいます。)。

ツアー参加者と参加経緯について

最初に、被害者であるツアー参加者2名の雪山経験と、ツアー参加の経緯を確認するため、判決文を引用します。

Aは、本件事故当時、倶知安町内のペンションでアルバイトをしながらインストラクターを目指してスノーボードの練習をするという生活をし、また、Bも、本件事故当時、倶知安町内のホテルでアルバイトをしながらスノーボードの練習をしていた。両名は、平成九年一月ころスノーボード仲間として知り合い、友人関係にあった。Aは同年一二月一七日に乙らがガイドを担当したX開催の半月湖周辺のスノーシューイングの無料体験ツアーに参加したことがあった。AとBは、スキー場のゲレンデ外でスノーボードをするなどのいわゆるバックカントリーの経験がなかったが、その手始めのつもりで平成一〇年一月二八日Xが企画開催する前記のスノーシューイング・ツアーに参加することとし、右同日の午前一〇時少し前ころX事務所に赴き、申込手続をし、保険料を含む参加料三〇〇〇円をそれぞれ支払った。

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

判決文からしますと、AとBは、相当程度のスノーボードの技術を有し、体力・運動能力を有していたと思われます。
しかし、バックカントリーの経験はなく、コース外の地形・気象状況に関する詳細な知識は有していなかったように思われます。

ツアーガイドについて

一方、ツアーガイドの甲、乙およびツアーの企画開催者であるXに関し、次のように認定しています。

甲は、高校時代に登山を始め、社会人となった後も登山を続け、夏冬を問わず二十数年の登山経験があり、平成・・・年ころから・・・県山岳協会加盟の山岳会に所属・・・平成・・・年から・・・年ころにかけて同協会の理事を務め、平成・・・年ころから年二回程度同県内で雪崩事故防止講習会の講師を務めるなどし、その間、平成五年ころから登山用品店のアドバイザーや個人で北アルプス等の山岳ガイドをするなど登山関係の仕事に就き、平成六、七年ころから、冬期間は前判示のX・・・の従業員として、スノーシューイング等のガイド等の仕事に従事していた。
乙は、・・・平成二年、三年に冬期Xで稼動し、そのころから本格的にスノーボードを始め、冬山登山もするようになった。平成四年からは倶知安町に定住し、冬期間はペンション等でアルバイトをし、平成八年ころから冬期間はXでスノーシューイング等のガイド等として稼動していた。
Xは、本件事故当時は・・・が経営する個人企業(その後有限会社・・・の一部門となっている。)で、平成五年ころから・・・ホテル地下一階に事務所を設けて、スノーボードスクールやスノーシューイング等のツアーの開催等の活動をし、本件事故当時従業員はスノーポードのインストラクター四名とガイド四名の計八人体制で、・・・(甲および乙)はガイドの仕事を担当していた。
ガイドの仕事の内容は、スノーシューイング・ツアーのガイドやスキーヤー・スノーボーダーらをイワオヌプリ、ワイス、羊蹄山等に案内するツアーのガイド等で、これらのツアーでは、ゲレンデの外に出るので、ツアー客の安全確保のため必ず複数のガイドが付くことにし、スノーシューイング・ツアーの場合、ガイドを二人付けて、ツアー客の数はガイドの目が行き届く五名までと決めていた。ガイドの給料は、ツアー客の支払う参加料のうち山岳保険料を除いた売り上げの六割を同行したガイドの数で頭割りして分配を受けるという歩合制であった。ガイドには法的な規制や資格はない。

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

この判決文からしますと、甲は、登山ガイドの経験もあり、雪山に関しては相当の知識・経験を有し、雪崩に関する知識も有していたものと思われます。
一方、乙は、事件発生時、ガイドとして3シーズン目であったことからしますと、甲と乙の雪山および雪崩に関する知識・経験には差があったものと思われます。
ただし、次に引用するように、甲と乙に関しては、「両名はガイドとして対等の立場で、報酬も同等であった」と認定されています。

雪崩事故発生経緯

事件発生日の経緯に関しては、裁判所は次のように認定しています。

甲及び乙は、同日朝、ニセコ・・・スキー場・・・(以下「・・・スキー場」という。)のゲレンデ内あるいはその外で・・・プレッシャーテストをするなどした後・・・午前一〇時ころXの事務所に赴いた。
甲及び乙は、AとBに、予定のチセヌプリは天候が悪いことから、半月湖周辺への変更を提案したが、Aが・・・半月湖周辺への無料体験ツアーに参加したことがあり、それ以外の場所を希望したため、甲及び乙は相談の上、Xの当時の企画にはなかった通称「春の滝」の方面を目的地に選定し(なお、甲及び乙は、「尾根裏」へ行こうとした旨弁解しているが、その「尾根裏」が「春の滝」そのものに当たるかはともかく、「春の滝」の方面に当たることは証拠上明らかである。)、その旨Aらに告げた。しかし、具体的なルートや雪崩についての説明等はしなかった・・・同日午前一〇時三〇分ころ、甲及び乙はAらを率いてX事務所を出発したが、雪崩事故に遭った際の救助用具である雪崩ビーコンやゾンデ棒は携行しなかった。
Bは、「春の滝」付近が雪崩の危険区域であることはチラシ等で知っていたが、ガイドが付くことで不安を抱かなかった。甲及び乙はガイドとして対等の立場で、報酬も同等であった・・・リフト降り場付近まで徒歩で行き、そこでスノーシューを着用し、その後林の中を散策しながら「春の滝」方面へ向かい、同日午前一一時四五分ころ、「春の滝」の崖地を含む急斜面を眼前に望む・・・休憩地点(以下「本件休憩地点」という。)に至った。甲及び乙は、相談の上、同所で休憩し、折り返すことと決め、スノーシューを脱ぎその上に座り、Aもスノーシューを脱ぎその上に座り、Bは右足のスノーシューのみ外し左足のスノーシューは着けたまま雪の上に座った。
右四名はその状態で・・・飲み物を飲んで休憩していたが、五分程経過した同日午前一一時五〇分ころ、右休憩地点から水平距離約七三五メートル、直線距離約八三九メートル、標高差約四〇五メートルの地点で破断面の幅が約二〇〇メートルにわたる雪崩が発生した。「春の滝」の急斜面の方向を仰ぎ見ていた甲及び乙は、崖地の右上方の急斜面で発生したこの雪崩に気が付いて、直ちにAらに早く逃げるよう叫び、四人とも沢の下方へ逃げたが、間に合わず、休憩地点から数メートルのところで全員が流下してきた雪崩に巻き込まれて雪中に埋没した。四人を巻き込んだ雪崩の最終到達地点(デブリの末端)は、本件休憩地点から水平距離約六五メートル、直線距離約六六メートル、標高差約一二メートルであった。

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

雪崩に関する裁判所の認定

上記の認定に続き、裁判所は、雪崩の分類および特徴に言及した後、
「斜面の積雪の安定度は弱層のせん断強度指数(弱層が耐え得る力の限界)、斜面の角度、弱層の上に積もっている積雪荷重の三要素の相関関係により決ま」るとした上で、
「過去の雪崩の発生例からすると、雪崩が発生するのは勾配が三〇度から四〇度くらいの急斜面で、新たな積雪が三〇センチメートル以上あったような場合が多いといわれている」「『高橋の一八度法則』・・・によれば、表層雪崩発生地点への仰角が一八度以上の場所ではその雪崩に巻き込まれる可能性が高いとされている」とした上で、

  1. 雪崩の発生地点付近は斜度が約38度の急斜面で、そこから休憩場所までも一部岩肌が露出している急斜面であるなどの事件現場周辺の地形
  2. 雪崩発生地点の深さ約1mに「こしもざらめ雪」の弱層があったこと
  3. 24日午後10時ころから28日午前9時まで降雪が続き、24日午後9時から28日午前9時の間は44cmの積雪量の増加があり、28日午前6時30分には大雪・雪崩注意報が発令されていたこと
  4. 面発生乾雪表層雪崩であったこと
  5. 休憩地点から雪崩発生地点は仰角約28度であること
  6. 地元安全利用対策連絡協議会作成の啓蒙用チラシでは「春の滝」も休憩地点も雪崩危険区域とされていること

などを認定しています。

更に、甲および乙の雪崩の知識、雪崩発生の危険性につながる事実の認識に関し、

甲は、前記のとおりの登山経験を有し・・・県内で雪崩事故防止講習会の講師を務めるなどし、乙においても、雪崩のミーティングに出席したり雪崩に関する文献を読むなどして、甲及び乙は、雪崩についての知識を有し・・・乙が平成一〇年一月一〇日ころ、・・・らX関係者と・・・「春の滝」上部でいわゆるピット・チェックやプレッシャーテストと呼ばれる弱層の有無や強度を調べる作業を行い、その際に誘発雪崩が発生したことがあり、そのことは甲も・・・知っていた。同月二〇日ころ、甲及び乙を含むX関係者が、「春の滝」上部において再びピット・チェックを行い、その際に新たな弱層を発見したこともあった。甲及び乙両名は、これまで「春の滝」付近で何度もスノーボードをするなどしてその地形は知悉し、・・・(上記⑥の)チラシの内容も知っていた。また、本件事故前の数日間かなり多量の降雪があったことも認識していた。乙は、事故当日の朝自宅前で一晩に三〇センチメートル位の積雪があったことを確認し、甲も、当日朝前記大雪・雪崩注意報が発令されていたことや、当日の降雪量が三〇センチメートル位であることを認識していた。

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

とし、甲、乙とともに、

  • 雪崩に関する一定の知識を有していたこと
  • 春の滝上部に弱層があることを知っていたこと
  • 春の滝周辺の地形を知悉していたこと
  • 大量の積雪があることを知っていたこと

などを認定しています。

ツアーガイドの過失の刑事責任

過失について

これらの認定をもとに、裁判所は、

本件スノーシューイング・ツアー・・・のガイドとしての職務は・・・その性質上、雪崩に巻き込まれるなどして参加者の生命身体に対する危険が生ずる可能性があることが明らかで・・・参加者を募り・・・参加料を支払って参加した被害者らを引率する甲及び乙両名の右ガイドとしての職務が刑法二一一条前段にいう業務に当たることは明白・・・甲及び乙の両名は参加者を・・・ツアーに伴い予想される・・・危険から保護すべく万全の備えをし、その生命身体に対する侵害を生じさせる事態を招かないよう細心の注意を払わなければならないのは当然・・・具体的状況の下で雪崩発生の危険がある区域への立ち入りを避けることはもちろん、上方で発生した雪崩の通過地域となるような樹木の疎らな沢筋等を避け、遭難事故のおそれのない樹木の密生した小高い林等を行程として選定するなど・・・業務上の注意義務を負うことは・・・その業務の性格に照らし明らかで・・・本件では、その業務の性格上、参加者の安全の確保のために複数のガイドが付くことになっており、甲及び乙は、対等の立場で共同してガイドの業務に従事していたのであるから、参加者の安全確保のため右の注意義務を共同して負っていたということができる。

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

と甲及び乙が業務として、参加者が雪崩事故被害にあわないように安全確保するなどの注意義務を共同で負っていたとしています。

そして、

・・・当時・・・「春の滝」付近は、地形や積雪状態等からして面発生乾雪表層雪崩の発生のおそれが大きい状況にあったと優に認められ・・・本件のような面発生雪崩が大規模になりやすく、乾雪表層雪崩が厳寒期に発生しやすく速度が速く到達距離も長くなる傾向があるとされていること、本件休憩地点が正面に岩肌が露出した崖地を含む「春の滝」の急斜面を望む沢筋で、破断面を生じた箇所への仰角が約二八度にもなることなどの事実を合わせ考慮すると、本件休憩地点は・・・「春の滝」の急斜面で面発生乾雪表層雪崩が発生した場合・・・雪崩の通過地域となり、これが到達するおそれが十分にある場所であったと認められる。
そして・・・ガイドとしての業務に従事する者としては・・・本件の具体的状況下で・・・(前述の)雪崩発生のおそれ及び雪崩がいったん発生した際には本件休憩地点がその通過地域になることをそれぞれ予見し、万が一にも遭難事故に遭うことがないよう慎重に判断・行動することができなければ、到底その職務を全うできないことが明らかである。
・・・現場の地形、積雪状態等、被告人両名の知識・経験・認識のほか右のとおりの被告人両名の業務の性格、冬山関係者の供述等に照らすと、本件の具体的状況の下で、甲及び乙は、本件ツアーのガイドとして、本件雪崩の発生及びその雪崩が本件休憩地点に到達し遭難の事態となることを当然予見すべきであり、かつ、そのように予見することが十分可能であったと認められる・・・しかるに、甲及び乙は、共同して、前記のとおり「春の滝」の方面を目的地として出発した上、上方で雪崩が発生した場合その通過地域となるおそれのある沢筋の・・・休憩地点にA及びBを休憩させ本件雪崩に巻き込ませたのであるから・・・業務上の注意義務を共同して怠ったといわざるを得ず、甲及び乙・・・に・・・共同して過失責任がある

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

として、ⅰ)雪崩の発生及びⅱ)雪崩が休憩場所まで到達し遭難の事態を招くことに対する結果予見可能性および予見義務を認めています。

尚、結果回避可能性に関しても、

弁護人は、雪崩本体のコースから外れた林の中にいても必ずしも安全とはいえないから結果回避可能性がなかった旨主張する。しかし、仮に、その林の中で何らかの被害に遭うとしても、本件のような雪崩に巻き込まれ雪中に埋没するような結果が生じないことは明らかであるから、結果回避可能性があったことは疑いの余地がない。

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

として、林の中であれば雪崩に巻き込まれ雪中に埋没することはなかったとして、これを認めています。

因果関係について

更に、因果関係に関し、

弁護人は、仮に過失が認められるとしても、本件は雪崩という突発的な自然現象がゆえの事故であり、被告人両名の過失と結果との間には相当因果関係がない旨も主張する。
しかし、雪崩自体は自然現象であるとしても(もとより、その発生の契機が自然発生のものでも外的な刺激などの誘発原因があっても、第三者の意図的な行為が原因である場合は別として、・・・注意義務に異同はないというべきであるが、本件の場合、それがスノーボーダーが滑走すること等による人為的な誘発原因によるものであると疑わせるに足るものはない。)、前記認定に照らすと、甲及び乙が雪崩の発生及びそれによる遭難を予見し、遭難事故発生を避けるため判示のとおり安全な行程を選定するなどしておれば本件遭難事故は発生しなかったのであり、甲及び乙が判示の注意義務を怠り「春の滝」方面を目的地として選定した上、雪崩の通過地域となるおそれのあることが明らかな本件休憩地点にA及びBを休憩させたことにより本件遭難事故が発生したことは明らかであるから、甲及び乙の過失と結果との間に構成要件上要求される因果関係があることは明白

札幌地裁小樽支部判決平成12年3月21日

としています。

ここでは、引用箇所のカッコ内において、故意に雪崩を誘発した場合は別として、第三者の行為が引き金となって雪崩が生じた場合においても、自然発生的に雪崩が生じたケースでの注意義務と変わりはないと述べていますが、この点には留意が必要です。

故意に第三者が雪崩を誘発したような場合は(第三者の故意犯の成立の可能性は別として)、通常であれば雪崩が生じなかったといい得る可能性もあり、雪崩の発生可能性の存否が問題となり得、雪崩の予見可能性に疑問が生じ得ます。

しかし、第三者の故意以外の行為により雪崩が発生するような場合(バックカントリースキーあるいはスノーボードにより雪崩が発生したような場合)、その雪崩発生地点では、滑走するスキーヤー、スノーボーダーが出没することは一定範囲で予見され、それにより雪崩が生じる可能性があったとも言い得ますし、元々雪崩が発生しやすい自然条件であったとも言い得ます。
ここでは、このようなことを前提に述べていると考えることも出来そうです。

科刑上一罪の処理

このように、裁判所は、甲及び乙の共同での過失と死傷の結果との間の因果関係を認定し、Aに対する業務上過失致死罪とBに対する業務上過失致傷罪を認定し、刑法54条1項前段により、業務上過失致死罪により処断しています。

尚、刑法54条1項は、

(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)
第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

刑法54条1項

として、ひとつの行為が2つ以上の罪名に該当する場合、2つの罪の刑のうち、重い方の刑により処罰されるとされています。
これは、科刑上一罪といわれています。

この事件では、AとBの2人を同時にガイドしたというひとつの行為から、Aの死亡とBの負傷という2つの結果が生じ、各々が刑法に定められている構成要件に該当しています。
そこで、刑法54条1項により、科刑上一罪として、重いAに対する業務上過失致死罪1罪で処断されています。

複数のガイド間の刑事責任の異同

尚、この事件では、甲と乙の間には、雪山及び雪崩に関する一定の経験・知識の差はありますが、

  • 特にリーダーを定めていないこと
  • ガイドとしての報酬も変わらないこと

などから、「対等の立場で共同してガイドの業務に従事していた」と認定され、同一の量刑となっています。

この点につきましては、有償のツアーガイドである限り、ある程度の経験・知識の差があっても、課される注意義務の程度は変わらないことを前提としていると言い得ます。
しかし、甲がリーダー、乙が補助者とされていたのであれば、2人の間の量刑に差異が生じた可能性は否定できません。
この点につきましては、民事訴訟ではありますが、下記の木曽駒ヶ岳雪崩事故の記事が参考になるかと思われます。

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