課外活動における落雷事故と学校の法的責任~自然災害事故への注意義務

この記事で扱っている問題

学校の課外活動において、自然災害の事故により児童、生徒が負傷したときに、指導、引率教員の過失が認定されるのは、どのような事情が注意義務違反と認定された場合なのでしょうか。

ここでは、学校の課外活動における落雷事故の判例をとおし、課外活動の指導、引率教員に課される自然災害事故に対する注意義務の内容およびその水準について解説します。

落雷事故に関する裁判について

学校行事における落雷事故としては、高校の学校登山における落雷事故である西穂高岳落雷遭難事故が良く知られていますが、今回は、高校の課外活動における落雷事故の裁判をとおし、学校行事における自然災害による事故に対する引率教員、学校の責任について考えてみます。

この事故(以下「本件落雷事故」といいます。)は、高校のサッカー部が学外のサッカー競技に出場したところ、試合中に部員のひとり(以下「A」といいます)が落雷を受け、障害を負ったものです。

事故後、Aおよびその家族(以下「Aら」といいます)が、

  1. Aが在籍していた高校の設置者である学校法人(以下「甲」といいます。)に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求、および高校の校長らに対し、使用者責任に基づく損害賠償請求
  2. 事故発生時の試合会場の設置・運営をおこなった地方自治体(以下「乙」といいます。)に対し、試合会場に設置・管理上の瑕疵があったとし、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償請求
  3. 試合の実施・運営に関与した協会(以下「丙」といいます。)に対し、安全配慮義務違反および使用者責任に基づく損害賠償請求
  4. 試合の実行委員会は権能なき社団に該当しないとして、同委員会の委員長個人(以下「丁」といいます。)に対し、債務不履行責任あるいは不法行為責任に基づく損害賠償請求

を求め提訴しましたが、1審では請求が棄却されました。

控訴審および上告審の判断

控訴審判決の内容

1審での請求棄却判決後、Aらは、甲、乙、丙を被控訴人として控訴しました。

控訴審(高松高判平成16年10月29日)では、甲(学校法人)に関し、

・・・雷注意報の発令や遠雷は、それ自体は具体的な落雷被害の発生を当然に意味するものではなく、社会通念上も、雷注意報が発令されたり、遠くで雷が聞こえたりしていることから直ちに一切の社会的な活動を中止あるいは中断すべきことが当然に要請されているとまではいえないから、甲に安全配慮義務違反があったというためには、自然科学的な見地から落雷被害についての結果回避可能性があったというだけでは足りず、その前提として・・・具体的な事実関係の下において、・・・(引率した)教諭(以下「B」といいます。)に落雷被害についての予見可能性のあったことや平均的なスポーツ指導者としての予見義務違反があったことが必要である。・・・本件落雷事故当時、スポーツ指導者の落雷被害に対する一般的な認識がどのようなものであったかについて検討するに・・・スポーツ指導者の間においても、落雷被害に対する危険性の認識はそれほど強いものではなかったことが認められ・・・気象状況も、直前の試合・・・中には一時期豪雨は降ったものの・・・本件試合・・が開始されたころから本件落雷事故までの間はほとんど雨は降っていなかったこと、本件落雷事故当時には、雷の予兆(兆候)とされる雷鳴はあったが、雷鳴自体は大きな音ではなく、遠くの空で発生したと考えられる程度のものであったこと、試合が開始された午後四時三〇分ころには、暗雲は立ちこめていたが、本件グランドの西南方の一部にとどまっており、空も一部明るくなって・・・本件グランドに居合わせたサッカー指導者のほとんどが、本件落雷事故が発生するまでは落雷の危険性を全くあるいはほとんど感じていなかったことが認められ・・・試合の後半の半ばごろである午後四時ころ、本件試合が開始された午後四時三〇分ころ、本件落雷事故が発生した午後四時三五分ころのいずれの時点においても、雷注意報が発令されていたことや雷鳴・黒雲の発生があった等の雷発生の兆候があったとしても、そのことから直ちに・・・Bにおいて本件フィールドの選手に落雷することを予見することが可能であったとはいえず、また、そのことを予見すべき義務があったとまではいえないというべきである。
Bは、天候、特に雷についての専門的知識は有していなかったとはいえ、野外スポーツの危険性についての一般的な知識も有していたものであるから、・・校長が・・教諭を引率者として人選したことやBに天候(雷)についての教育を受けさせなかったことが直ちに甲の安全配慮義務違反であるとはいえない。
・・校長が台風・・・が日本本土へ向かっていることを認識していたにもかかわらず、教頭等に指示して引率者を増員しなかったこと、・・・校長やBは、同台風の発生とその後の気象状況を知見し、もしくは知見し得たにもかかわらず、その詳細を公的機関等に問い合わせるなどして情報収集しなかったこと、また、・・・校長、教頭としては、野外スポーツの性質上気象の変化を無視できないのであるから、その情報収集のため携帯ラジオ(小型で可)や携帯電話等の情報収集機器を引率者に携帯させ、気象に関する情報収集を容易にさせ、学校との連絡体制を確立しておくべきであるのにこれを怠ったことが安全配慮義務違反となると主張する・・・が・・・台風・・・の位置関係等からしても、本件落雷事故は、同台風の接近に伴う危険が現実化して発生したものとはいえない上、仮に・・・雷注意報を事前に覚知できたとしても・・・雷注意報は非常に発令回数が多く、・・・発令されたからといって本件グランドの具体的危険性が明確に覚知できるようなものではないから、本件落雷事故を直ちに回避できるという関係にはない。したがって、校長、教頭、Bが原告ら主張のような方策を立てなかったことが安全配慮義務違反になるとまではいえない。
さらに、Bにおいて本件フィールドの選手に落雷することを予見することが可能であったとはいえないというべきであるから、Bが・・・あるいは主審らとの間において競技実施手順を確認し、気象状況の悪化に伴う競技の中断・中止のルールを協議していたとしても、本件落雷事故を阻止し得ることにはならなかったというべきで、Bが前記のような確認・協議をしなかったことと本件落雷事故発生との間には相当因果関係がないといわざるを得ないから、この点についても、甲に安全配慮義務違反があったと評価することはできない。
以上のとおりで・・・甲に債務不履行責任あるいは不法行為責任があるということはできない。

高松高判平成16年10月29日

と判断し、甲の責任を否定しました。
また、乙、丙に関しても責任も否定しています。

上告審判決の内容

この控訴審判決を受けて、Aらは、甲および丙を被上告人として上告をしましたが、その上告審(最判平成18年3月13日)では、

教育活動の一環として行われる学校の課外のクラブ活動においては,生徒は担当教諭の指導監督に従って行動するのであるから,担当教諭は,できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し,その予見に基づいて当該事故の発生を未然に防止する措置を執り,クラブ活動中の生徒を保護すべき注意義務を負うものというべきである。

最判平成18年3月13日

とした上で、

・・・落雷による死傷事故は,平成5年から平成7年までに全国で毎年5~11件発生し,毎年3~6人が死亡しており,また,落雷事故を予防するための注意に関しては,平成8年までに,本件各記載等の文献上の記載が多く存在していたというのである。そして,・・・試合の開始直前ころには,本件運動広場の南西方向の上空には黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると,上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても,・・・Bとしては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきで・・・予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。
このことは,たとえ平均的なスポーツ指導者において,落雷事故発生の危険性の認識が薄く,雨がやみ,空が明るくなり,雷鳴が遠のくにつれ,落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても・・・(こ)のような認識は,平成8年までに多く存在していた落雷事故を予防するための注意に関する本件各記載等の内容と相いれないもので・・・当時の科学的知見に反するもので・・・その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。

最判平成18年3月13日

として、Bの注意義務違反を認めました。

この最高裁の判決に関しましては、

黒く固まった暗雲が立ち込め,雷鳴が聞こえ,雲の間で放電が起きるのが目撃されていたというのである。そうすると,上記雷鳴が大きな音ではなかったとしても,・・・Bとしては,上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であった

最判平成18年3月13日

という判示部分から、具体的状況下での教員の落雷の危険性に対する注意義務を認めたものとされます。

尚、控訴審では、スポーツ指導者の認識をもとに、指導者でもあった引率教員の注意義務の水準を判断しましたが、上告審では、科学的知見をもとに注意義務の水準を認定し、注意義務違反を認定しています。

引率教員に要求される注意義務について

この事例では、落雷事故を予防するための科学的知見に基づく注意事項を、一般刊行物等で知り得る状況にありながら、引率教員をはじめとするスポーツ指導者の間では、科学的知見に合致しない「俗説」的な見解が一般的な認識となっていたと認定しています。

しかし、最高裁は、スポーツ指導者の間でその「俗説」的な見解が一般的になっていたということは、「クラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ない」とも判示しています。

そうしますと、スポーツ指導者でもある引率教員においては、その特定分野の指導者の間で通説とされている危険対応策をもとに生徒を指導するだけでは、事故が生じた場合、注意義務違反を問われる可能性があることとなります。
教員には、特定分野の通説のみではなく、危険対応策の一般的知見を習得し、その一般的知見に基づいて生徒を指導していくことが求められているとも言い得ます。

この判決の射程がどこまで及ぶかは、慎重に検討する必要はあります。
しかし、学校行事あるいは課外活動の学校登山においても、気象変化、雪崩などの自然災害による事故が発生した場合、注意義務違反の認定に際しては、引率教員に対し、一般的な教員が有する知識ではなく、一般刊行物などに記されている科学的知見に基づく知識が要求される可能性があると言い得ます。

尚、本件落雷事故の裁判は、高裁に差し戻され、甲と丙に対する請求を一部認容する判決が下されています。

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