整理解雇の直後におこなう人材募集、新規採用の問題点

この記事で扱っている問題

ここでは、会社が整理解雇をおこなった直後、あるいは同時並行的に人材募集、新規採用をおこなった場合の問題点について、整理解雇の有効性に与える影響を中心に裁判例をみながら解説します。

整理解雇後の人材募集の問題点

整理解雇後の人材募集について

Aさんは、1カ月半前、勤務していたX社の人事に呼び出され、「会社の業績が悪化しているので解雇します。」と言われ、解雇通知を渡されました。
Aさんも会社の売り上げが落ち込んでいることは知っていましたので、やむを得ないと思い、新たな職場を探し、X社の退職と同時に働き始めました。
しかし、今日、ネットを見ていましたら、X社が、人材募集広告を出しているのをみつけました。
Aさんは、なんだか釈然としません。

整理解雇をおこなった直後に人材募集をおこなうことの問題点

ここで、Aさんは、会社の業績悪化を理由にX社に解雇されていますので、その解雇は整理解雇であったと思われます。
Aさんは、X社が従業員の雇用を守ることが出来ないほど業績が悪化していたからこそ、自分が解雇されることとなったと考えていました。
しかし、退職後直ぐに他の人を採用しようとしていることから、実際には、会社の業績はそこまで悪くなく、不当に解雇されたのではないかと考え、釈然としない気持ちになったものだと思われます。

このように、整理解雇をおこなった直後に人材募集、新規採用をおこなうことは問題ないのでしょうか。

整理解雇の有効性の判断について

労働契約法16条による整理解雇の有効性の判断

まず、X社の整理解雇について考えてみます。
整理解雇とは、従業員に懲戒理由があるような場合ではなく、経営上の理由によりおこなう解雇のことです。
整理解雇が解雇権の濫用にあたる場合、現在は労働契約法16条により解雇は無効となります。

整理解雇の解雇権濫用に関する裁判例

それでは、どのような場合に整理解雇が解雇権の濫用として無効になるのでしょうか。
整理解雇の解雇権の濫用の判断基準につきましては、事業部門の閉鎖に伴いその部門に所属する従業員のほぼ全員を解雇した事件である東京高判昭和54年10月29日において、

・・・企業がその特定の事業部門の閉鎖を決定することは、本来当該企業の専権に属する企業運営方針の策定であつて、これを自由に行い得る・・・しかし、このことは企業が右決定の実施に伴い使用者として当該部門の従業員に対する解雇を自由に行い得ることを当然に意味するものではない・・・解雇が労働者の生活に深刻な影響を及ぼすものであることにかんがみれば、企業運営上の必要性を理由とする使用者の解雇の自由も一定の制約を受けることを免れない・・・会社の就業規則五二条が使用者側の都合による従業員の解雇を無制約なものとせず、「やむを得ない事業の都合によるとき」に限定したのは、右に述べた事理を就業規則上明文化したものと解され・・・解雇が右就業規則にいう「やむを得ない事業の都合による」ものに該当するといえるか否かは、畢竟企業側及び労働者側の具体的実情を総合して解雇に至るのもやむをえない客観的、合理的理由が存するか否かに帰するものであり・・・事業部門の閉鎖に伴い右事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが「やむを得ない事業の都合」によるものと言い得るためには、第一に、右事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること、第二に、右事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行つてもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であつて、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によつてなされるものでないこと、第三に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもつて足りるものと解するのが相当で・・・右事業部門の操業を継続するとき、又は右事業部門の閉鎖により企業内に生じた過剰人員を整理せず放置するときは、企業の経営が全体として破綻し、ひいては企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないものとする考え方には、同調することができない・・・

東京高判昭和54年10月29日

と判示しています。

整理解雇の4要件・要素

この裁判例等から、整理解雇が有効であるかは、整理解雇の4要件と言われる

①人員削減の必要性
②解雇回避の努力
③人選の合理性
④解雇手続の妥当性

の要件から判断されるといわれてきました。

しかし、近時では、この①~④の4つを必要条件として、4つの条件のいずれかをみたさない場合には必ず解雇が無効となるのではなく、この4つを要素と考え、4つの要素に関する諸事情を総合的に判断し、解雇の有効性の判断をおこなうようになってきていると考えられています。

整理解雇の有効性の問題に関しましては、下記の記事で解説しています。

Aさんの場合を考えますと、Aさんの解雇後直ぐに新しい従業員を募集していますので、果たして、上記の4要件(要素)の①人員削減の必要性があったのかが、まず疑問に思われます。

人員削減の必要性について

ところで、①人員削減の必要性とはどの程度の必要性を要求するものなのでしょうか。

この点につきましては、東京高判昭和54年10月29日の上記引用部分で、

企業の経営が全体として破綻し、ひいては企業の存続が不可能になることが明らかな場合でなければ従業員を解雇し得ないものとする考え方には、同調することができない

東京高判昭和54年10月29日

と判示しているように、①人員削減の必要性としては、必ずしも会社の存続が危機に陥っているような状態までを要求するものではないとされています。
一定の合理的な範囲内で①人員削減の必要性が認められると考えられています。

整理解雇後の新規採用

整理解雇後に新規採用をおこなった比較的近時の裁判例としては、一時的に債務超過に陥るなど、財務状態が悪化している中で、一部事業所を閉鎖し、その事業所の従業員を解雇した事件があります(京都地判平成30年4月13日)。

この訴訟において、裁判所は、

本件解雇は,危機的状況にあった被告の経営状態の改善や経営合理化を進めるため,重い負担となっていた経費削減の具体策・・・の実現を目的として行われた・・・整理解雇の一種と解するのが相当・・・本件解雇の有効性判断については,整理解雇の有効性判断と同様の手法で判断するのが相当であり,①人員削減の必要性があること,②使用者が整理解雇回避のための努力を尽くしたこと(解雇回避努力義務),③被解雇者の選定基準及び選定が公正であること,④解雇手続の相当性(労働組合や労働者に対して必要な説明・協議を誠実に行ったか)の4つの要素を総合して判断するのが相当

京都地判平成30年4月13日

と上記で述べましたように、①~④の4つを要素と考え、4つの要素に関する諸事情を総合的に判断して解雇の有効性の判断をおこなう立場を明らかにした上で、

上記①の人員削減の必要性があることについては,当事者間に争いがない・・・被告が・・・センター閉鎖決定以前に,特別退職加算金を付した希望退職者の募集を行ったり,本社ビルを売却したり,人員削減等を進めたりして,財務状況改善に向けて諸々の施策を進めていたことは認められる・・・しかしながら,・・・センター閉鎖が決定されたことに伴う原告の処遇が・・・重要な課題であったところ,その最中に被告東京支店において営業担当社員の新規採用が行われていた事実が認められる。そうすると,経費削減の一環として本件解雇がなされた一方で,被告東京支店に所属する営業担当社員を2名新規採用するといった対応は,一貫性を欠くものと評価されてもやむを得ない。少なくとも原告側に対して東京支店への配転の打診は行うべきであったといえるところ,それをした形跡も窺われないから,解雇回避のための努力を尽くしたと評価するには至らない

京都地判平成30年4月13日

と判示し、解雇を無効と判断しております。

このように、①人員削減の必要性が認められても、解雇の一方で新規採用をおこなった場合、新規採用をおこなった部署への異動を打診しないことが、②解雇回避の努力を欠くと判断されることもあり得ることがわかります。

また、東京地判平成23年3月18日においても、

・・・原告が集中して取り扱っていた・・・のビジネスから被告会社は事実上撤退したもので,本件解雇の業務上の必要性は肯定される。しかし,被告会社は・・・自宅待機命令から1年以上経過した後,原告を解雇しており,原告の担当業務がなくなったという業務上の必要性が一応肯定できるとしても,その程度は高度とはいえない。一方,・・・被告会社は,・・・部に所属する従業員に対し,・・・円もの巨額な・・・を支払った。加えて,被告会社を含む・・・グループは,原告の解雇直後である・・・から,従業員の年俸を昇給させ・・・被告会社の・・・部では,・・・年1月から4名の退職勧奨を行いながら,同年4月から4名の新規採用を行った・・・事情をかんがみると,業務上の必要性に比較して,被告会社の解雇回避努力は明らかに不十分で,本件解雇は,権利の濫用であり,無効である

東京地判平成23年3月18日

として、やはり、整理解雇後の新規採用を、②解雇回避の努力を欠くことを示す事情のひとつととらえ、整理解雇を無効としています。

この2つの裁判例からしましても、整理解雇の直後に新規採用をおこなったような場合、②解雇回避の努力を欠くとして整理解雇が無効と判断されることもあり得うることがわかります。

整理解雇後の新規採用と解雇回避努力および解雇の無効性判断

このように、整理解雇直後に人材募集、新規採用をおこなったような場合、整理解雇の対象となった元従業員に対し、他部署への異動を打診していないような場合には、②解雇回避の努力を欠いていたと認定され、解雇が無効であるとの判断がなされる可能性があると考えられます。

しかし、上記の京都地判平成30年4月13日がその判断において採用しているように、①~④の4つを要素と考え、4つの要素に関する諸事情を総合的に判断し、解雇の有効性判断をおこなう立場をとる場合、整理解雇後に新規採用をおこなったという事情から回避努力が不十分であったとの認定がなされても、その他の①、③、④の要素と総合的に判断し、解雇の有効性が認められることもあり得ると考えられます。

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